勇者、フウランへ
――フウランの町・入り口――
陽が暮れ始めた頃
「思ったより早く着いたなフウラン。来るのは一年ぶりぐらいになるのか・・・」
と、感慨に浸っていると
「シノギさんも荷物下ろすの手伝ってくださいよ~」
「そうですよシノギ、荷物下ろすのを少しは手伝ってください」
おっと感慨に浸っている場合じゃなかったな。
「分かった分かった。つか、お前フウランの町は顔パスなんだな」
さっきの門番、ろくに確認せずに笑顔で通すとは・・・、ツェン!恐ろしい子・・・!
まぁ、この町は前来たときも平和だったしな。魔獣の被害があるとは思えないな。そんなことを考えつつ手を動かしていると
「おぉ、よく来てくださったツェンさん!そろそろ塩やらなんやらが切れそうでしてね。早速売っていただきたいのですが・・・おや?そちらに居るのはシノギさんではないですか?お久しぶりですな!」
おいおい、相変わらず怒涛のトークだなこの人は。俺が苦笑していると、シグルドに気づいたのか矛先を変えて
「これはこれは、可愛らしいお嬢さん。目を白黒させていますが・・・フウランは始めてですかな?それでは自己紹介から、私はヨシノと申しましてこの町の村長をやっております。どうかお見知りおきを・・・この町は素晴らしい町でして特に―――」
ニコニコしながら楽しそうに話してんな村長・・・。ツェンと顔を見合わせてため息をついた。お前も長話を聞いたクチか、まだまだ続く話はこの町へ来た人への洗礼でもある。
目を白黒させているのはアンタのマシンガントークのせいだけどな!と心の中で一応突っ込んでおこう。
まぁ諦めろ、適当に聞き流してれば終わる。
【シグルドは助けを求めている!】
すごい目で訴えてきてるな・・・。俺は首を横に振ると首をガクッと落とした。そうそう、何事も諦めが肝心だ。勉強になったね!
さて、今のウチに荷物を下ろしとくか。思わぬ拾い物・・・者?もあるしな。
道中の魔獣の素材もあるからな・・・多少時間がかかるのはしょうがないか。
ケルブを出発してから数時間――
俺の今の境遇をツェンに話していると、急に馬車が止まった。
「ん?どうした、さっき休ませたばっかだぞ」
と、俺が不思議に思っているとツェンが
「少し見てきます。何か合ったら呼びますので待っててください」
そう言うと馬車から出ていった。
「シグルドはこの状況どう思う?」
「え?何がですか?」
「道中、低ランクの魔獣がポツポツとは出てきたが、群れには遭遇してない・・・つまり何処かに巣があるんじゃないかと思ってな」
魔獣というのは戦闘能力が高く、魔力を保有している獣のことをいう。ランクが高くなると魔術も使用してくる厄介な存在だ。しかし、基本的に好戦的で見境なく襲いかかってくる。自分と相手の力量を比較出来ない、罠に掛けやすいタイプなんだがな。
「確かに・・・情報と食い違う感じがしますね・・・。フウランに着いたらこっちでも調べておきます」
そんな話をしているとツェンが帰ってきた。うお!人担いでるぞコイツ!?
ツェンは女の子を担いでいた・・・!しかも、耳の形が違う・・・ってことは魔族か・・・。色んな意味で犯罪の臭いがする。
「おいおい!ソイツ大丈夫か?顔色がかなり悪いが・・・」
「命に別状は無いと思います、先程簡単な応答なら出来たので。俗に言う行き倒れですね」
「耳を見る限り魔族だと思うんだがツェンはそういうの大丈夫なのか?」
と、疑問を口にすると
「えぇ、商人は相手を見て商いをするか決めるんです。魔族かどうかはあまり関係ないですね」
笑いながら持論を言うツェン。イケメンかコイツは。
行き倒れか・・・。流石に見捨てるのは忍びないな。
「この馬車もう一人ぐらいなら入るだろ?軽い手当てぐらいしておこう」
「えぇ!困っている人は見過ごせないですよね!」 いつになくやる気だなシグルド。コイツも魔族とか関係ないタイプだな。
馬車に揺られること30分――
「んぅ」
お、気づいたか?
「ここは・・・何処だ?」
「馬車だな」
「馬車・・・?まさか!」
うおっ!いきなり大声だすなよ。ビックリするだろ。今度は笑いだしたぞ・・・怖ぇ・・・
「もう終わりだ。私の人生終了だ・・・。売られるんだ、奴隷として一生を過ごすんだ・・・」
今度はぶつぶつ言ってるな。って聞き逃せない単語が聞こえた気がするぞ!
「勘違いだーっ!?これは商人の馬車で!物を売買する!至って健全な!普通の馬車だ!?」
なんの説明をしてるんだ俺は?!
「物を売買・・・?私は既に物扱いか。ふっ」
くっ!コイツ面倒くさい!
「あー、もう!いいか魔族!今の状況を説明するぞ!」
経緯を話すとバツの悪い顔をして
「そうだったのか・・・。すまないな人間、少し取り乱した。非礼を詫びよう。しかし人間に捕まったら売られるか、弄ばれるかのどっちかだと聞いてたものでな」
戦争前もしくは戦争中の話だな、それは。
「大丈夫だ。今の落ち着いた時期にそんなことをしても得にならんだろ」
そう言ってツェンを見ると深く頷いて
「そうですね。時期もありますが私のような真っ当な商人たちは魔族、人間問わず奴隷商人を避けますね。いくら国法で禁止されていないとはいえ、人が同じ存在である人を無理やりに動かすなんてことは許せないことです」
横でもシグルドは大きく頷いている。
この世界では王によって法が変わり、数世代前の国王から奴隷を持ってもいいという国法になっている。
「そうか・・・。私の国ではそういった厳格な決まりはないからな。同族殺しは大罪だがな。しかし、こう普通に喋ってると人間も魔族もあまり変わらないんだな・・・。もっと野蛮で殺意に満ちた視線をぶつけてくると思っていたよ」
おいおい勘弁してくれ。
「それはこっちも同じだ。最初に会ったやつなんて、殺気で殺せるんじゃないかってぐらいの目をしたやつが襲ってきたぞ?」
いや、あれは本当に怖かった。第一声が「死ねええぇぇぇぇ!!」とか対処に困るだろ。
実際に話してみるとそんな変わんなかったりする。現に魔族の王(魔王)は話が分かる人らしいしな。会話が成立すれば荒事にならずに済むってのが、会ってからの俺らの対応が示してることだしな。
「話し合えることを分かってくれて良かった。それで、なんでこんな所で倒れてたんだ?」
「あー!そうだったそうだった、フウランなる村に書状を届けて欲しいとご主人に言われていたんだった」
主人?
「フウラン?丁度いいじゃないですか!このまま一緒に行きましょう!」
「そりゃ構わんが・・・良いよな?ツェン」
「先程も言った通り、私は構いませんよ。・・・これを機に魔族ともパイプを持ちたいんですけどねぇ」
若干の本音が漏れてた気がするけど、気にしないことにしておこう。
「それじゃあ自己紹介してくれ」
彼女は胸を張りながら
「私の名前はエルメス。人間の年齢で言うと12才だ。好きな物はガルーダの親子丼だ。よろしく」