いざ、ダンジョンへ――帳が下りるその前に――
「おーいメルちゃん。そっちは危ないよ」
「だいじょぶー」
馬車の窓から顔を出す獣人族の少女。
「はぁ・・・。どうしてこうなったんだ・・・?」
この事態になってしまった原因は分かる。おれの性じゃないとしても、頭を抱えてしまう。
「はっはー!随分と賑やかな道中になったなシノギ!」
「好きで賑やかにしたかったわけじゃねえよ」
リーンの軽口にも満足に返せないぐらい悩んでいた。
俺は結局アスタルトの言うことに反論が出来なかった。
アスタルト曰く
「刷り込み効果のようなものの影響で【刀剣】は君のことを肉親のようなものだと思っているらしい」
納得できない。できないが反論も出来ない。
「刷り込みって・・・あれだろ?えっと・・・産まれたばかりの赤ん坊が最初に見たやつを親だと刷り込まれるってやつだろ」
当然【刀剣】の誕生に立ち会ったことあるわけない。
「少し特殊な刷り込みだったんだろう」
そういえば、とアスタルトは続けて
「【刀剣】が今の姿に変わり、意識を取り戻した時に言った言葉を教えてやろう。――私を倒したのは誰? だ」
その光景を想像すると思わず背筋が寒くなる。
「そこからは知っての通りだ。君にだけは心を開いている。というか、なつかれているな」
「っつーことはなんだ?倒した人を親と認める習性なのか・・・?」
それが条件なら当てはまるな。
「詳しくは分からないが、な。現に勇者にだけはなついている。それは確かだ」
否定材料がない。肯定できないことが否定に繋がるわけではないのだ。
「俺は、帰りたいの。分かるか?自分の世界に帰りたいの。これ以上背負うものは作れないの」
駄々をこねてみる。
「そんなことは知ってる。最初に顔を合わせた時にも言っていたからな」
「だったら、こんどこそ俺の未來を視てくれ。そんで帰れるようにしてくれ」
俺の言葉を聞いた瞬間アスタルトは顔を固くして言う。
「その話はダンジョンに帰ってからだ」
何故かアスタルトは俺の未來を視てくれない。理由も教えてくれない。
「そろそろ時間だな・・・。ほら【刀剣】を連れてダンジョンの攻略をしてこい。今なら楽に攻略できるだろう?」
「お前なぁ・・・。ん?」
横にいた【刀剣】が動いた。起きるのか。
「ちょうどよく起きたな。私たちは気にせず攻略に専念してくれ。いいな?」
「"専念"ね」
アスタルトの意図はなんとなく読めるが・・・。
「お兄ちゃん・・・?」
睡眠から覚醒したらしい。不安げな声が俺にかけられる。
「お~。どうした?」
「ううん―。呼んでみただけー」
にへらと笑う【刀剣】
「では、私は帰って仕事をするとしよう」
そう言い残し、部屋から出ていこうとする。
「お、おい。話はまだ終わって――」
「分かってると思うが――」
俺の言葉に被せるようにアスタルトは言う。
「彼女が【刀剣】だと言うことは出来るだけバレないようにしておけ。バレると色々と面倒なことになるぞ。面倒事は嫌いだろ?」
だろ?じゃねーよ。
「不味くなったら全力でお前に責任転嫁してやるから安心しろ」
その言葉を背中で受けて笑みを残しながらアスタルトは部屋から出ていった。
「よし!なら俺たちも準備・・・はいいか。お前はいいのか?」
「なんのことー?」
首を傾げる【刀剣】
「お前は俺に付いてくるって話なんだが・・・」
「うん!お兄ちゃんに付いていく」
まるで、それが当然のことのように聞こえるが・・・。この流れだと、妹が出来てしまうからな。
「まず一つ。俺はお前のお兄ちゃんではない」
指を三本立てる。立てた指を一つずつ折っていく。
「え・・・?」
「そして二つ目。俺は妹を欲していない」
愕然とする【刀剣】に気にせずに俺は続けた。
「三つ目っ・・・て、なんて顔してるんだ?」
「だって、お兄ちゃんが私のお兄ちゃんじゃないって・・・」
目に涙を溜めながら言う【刀剣】
「私はいらないって、いらない子だって、言うから・・・」
ここで泣かれるのは面倒だな。
「あー、分かった分かった。お前は俺の妹だ。お前は必要だ。だから泣かないでくれ」
「本当?」
「本当だ。お兄ちゃんを信じられないか?」
涙を目に溜めつつ振る舞う【刀剣】
「ううん!しんじる!」
コイツ・・・チョロいな・・・。今後が不安だ。
【刀剣】が落ち着くまで、まだしばらくかかりそうだった。
三つ目は、まだ言わない方がいいかな・・・。
俺が部屋から出るときもシルファンは起きなかった。大丈夫か・・・ギルド。
「お前なんて名前だ?」
「んー?名前?」
ヨシノの家に帰る道【刀剣】をおぶりながら聞く。
「名前は無いよ」
「やっぱりか・・・」
獣人には名前があるが魔物には名前は無い。種を表す名前はあっても、個を表す名前はない。代わりというわけじゃないが俺らは二つ名を魔物につける。
【刀剣】の元の獣人は多分だが名前を"剥奪"されたんだろう。予想できる中ではまだマシの方だが。
「なら、なんて呼ばれたい?」
「うーん。好きに呼んでいいよ。お兄ちゃん」
名前を奪う。その行為は個を消滅させる。番号で呼ぶ風習のある国も行ったことあるが、人間味が無くて気色悪い国だったな。
「なら、考えておく。可愛らしい名前を付けてあげるからな」
もうすぐヨシノの家に着く。さて、ヨシノたちにどう説明しようか・・・。
奴隷制度。主に犯罪を犯し、罪を犯した者がお世話になる制度。稀に借金が返せないがために身を売る人や、肉親に捨てられたがために"飼われている"奴隷なども存在する。
奴隷の仕事は主に雑用。家事をやったり、土木工事をしたり、と様々な労働を課せられる。その仕事ぶりに応じて奴隷から解放される年月が早くなる。
ただ、主人の命令には逆らえない。何があっても、だ。
奴隷には体のどこかに隷属の紋様というのが刻まれている。ぱっと見奴隷か分からないように服で隠せるようにな場所に付けられている。
その紋様を刻むときに奴隷にはある枷がかけられる。
それは――主人の命令に逆らってはいけないということ。つまり、奴隷を生かすも殺すも主人次第ということだ――。
――ヨシノの家・応接間――
「えぇっ!この子供が【刀剣】って・・・本当ですか?」
シグルドの声が応接間に響く。
結果、ばらした。バレたのではない、ばらした。心の中でアスタルトには謝っておこう。まぁ、後で。というかアイツならこれぐらいは【刀剣】を視れば分かってたと思うしな。
「本当なんですか? いえ、疑う訳ではないんですが・・・。確か、討伐に成功したって」
ヨシノは口ではそう言っているが疑惑の視線をこちらに向ける。
「さて、な。俺はアスタルトにそう言われただけだからな。証拠はない」
という言い訳を使っておく。
「町長に・・・。そうですか・・・」
アイツの能力は抜群の信頼だな。
「そんで?そのチビッ子も連れてくんかいシノギ?」
「なんだリーン。不安でもあるのか?」
「いんや。連れてってもメリットは少ない気がしただけだよ。守ることの難しさは分かっているんだろ?」
辛辣な言葉を吐くリーン。
「一つ言わせてもらうと俺が連れていくなんて決断した訳じゃない。だけど見てみろ――」
俺の背中でキョロキョロと珍しいものを見るように辺りを見回す。見るのも飽きると今度は俺の髪を弄りだした。地味に痛い・・・。
「離れてくれると思うか?」
俺の頭を見たリーンは頭を振り
「いや、無理そうだな。まるで仲の良い親子だ」
離した方が面倒だと察してくれたらしい。
「私は構いませんけど・・・。ちょっと触ってみたり」
「シャァァァ!」
伸ばしたシグルドの手を全力で威嚇する【刀剣】。
「ヒイッ!」
「コラッ、俺の頭で暴れるな。シグルドは良いやつだから少し触らせてやれ」
「―――?(すっ)」
俺の言うことは聞くのね・・・。頭をシグルドの方に向ける【刀剣】。
「では、失礼して。 うわぁモフモフですよぉ、この子」
恐る恐る、といったさわりかたで触れるシグルド。触られるがままにされる【刀剣】。
「あれ、メイブは?」
戯れてるシグルドは無視してメイブの場所を聞く。
「あー、合流するって話になってますよ。あの片は自分の家に帰ったみたいですし」
ヨシノは聞いといてくれたみたいだ。
「そんじゃあ、そろそろ行くか? おいシグルドいい加減触るの止めい。グッタリしてきてるから」
「あ、すいません。ごめんね・・・あれ?名前はなんていうんですか?」
・・・忘れてたわけじゃないぞ?ホントダゾ。
誰に弁明してるのか分からんが。
「名前はまだ決まってないんだ。案はあるか?」
「はいはーい!私が考えます」
本当に気に入ったみたいだな。少し危ない感じるぞもするが。
「えーと・・・。元の名前が【刀剣】で。それを反対にして・・・」
なんかブツブツ言い出したぞ。
「ところで――「これです!」」
また、被った・・・。
「メル、なんてどうでしょう。女の子っぽくて可愛くないですか?」
「よーし。シグルド命名、【刀剣】改めメルだ。ほら下りて挨拶しな」
俺に促されて床に足をつけるメルが
「えっと・・・。何て言えばいいの?」
戸惑う表情を見せる。
「こう言っとけ。――――だ」
ボソボソと耳に囁くとくすぐったそうにしつつも俺から離れて
「私の名前はメルです!よろちくお願いします!」
そう言ってお辞儀をする。
若干噛んでたけど大丈夫だろ。
そして今に至る。馬車の中でキャイキャイとはしゃぎ暴れる二人のガキ。
「ねぇねぇ!あれなにー?」
「お、おい引っ張んなって・・・」
そしてこうなる。予想は出来てたけどお守りは大変だ。
「だぁーっ!遠足じゃないんだぞ!少しは落ち着け。もうちょいしたら小さい村が見えてくるから、それまで落ち着いてくれ」
大事なことだから二回言った。
「え~!だってぇ・・・」
そう言いチラッとシグルドを見るメル。
「えーここで私に押し付けるんですかぁ!」
うるさかった二人の頭ににたんこぶを付け先を急ぐ。無性に嫌な予感がしている。
リーンとメイブが見張りをしている中、馬車は村に向かって進む。
「おかしい」
「何がですか?」
何処かでやったやりとりだと思う。
「俺らはまだ誰ともすれ違っていないな?」
「・・・?えぇ、まだ誰とも会ってない筈ですよ」
違和感が頭を占める。何かがおかしいと脳が警鐘を鳴らす。
「いや、ならいいんだ。俺も疲れてるのかもしれん。気にするな」
俺の言葉に首をかしげるシグルド。
「おいシノギ。村の場所はまだか?結構歩かせているけど村なんて見えないぞ」
「こっちも見えないよ。その地図ホントに合ってるの?」
左右からそんな声が聞こえる。
「ん、あぁ。大丈夫だ、もう少しで着くはずだ。この街道を真っ直ぐで合ってる」
俺の言葉通りに数分も歩くと前に小さな村が見えてきた。
夜が近づいている。馬車だったから思ったよりも時間がかからなかったみたいだな。だけどもう、夜か。
「ほぉ。ここで休憩か」
「そうみたいね」
「はぁ、やっと着いたね」
「ぁあ、そぅだな・・・。俺も少し疲れているみたいだ。先に――」
その言葉を遮るように村の入口に立つ二つの影。
「休ませてくれるか?」
シノギのその言葉を否定するように黒い影はシノギに向かって疾駆する。
何故か体が思ったように動かずに反応が遅れてしまう。そんなシノギを庇うように
「よっと!そうは問屋が卸さないってな!」
「あら無視して良いと思ってるの?」
リーンは影の攻撃を受けとめ、方やメイブはもう一つの影の後ろから武器を突き付けていた。
余りの展開の早さに付いていけないシグルドと共に入口を走りくぐる。
「すまんがそいつらは任せた!俺は本体を叩く」
そう言い村の中心を目指す。
「流石だな大将。一瞬であの二人のことを見抜きやがった」
男は誰に言うわけでもなく呟く。
「でも足手まといを抱えて、しかも本調子でもないのに勝てるかなー?」
キィキィと耳障りな音を立ててソレは立ち上がる。
「俺たち魔族に―――!」
下品な笑い声と共に夜が世界を覆う。
まるでここからは自分達の時間であるかのように。
仕事関係で色々忙しく執筆活動?が滞っております。申し訳ございません。なんとか更新頑張りたいです。
最近めっきり暑くなってきたので体調の方、管理などきちんとしておきましょう
ちなみにメルは寝てますw




