予期されていた襲撃―翻る黒衣と褪せること無き聖鎧―
――フウランの町・冒険者ギルド前――
人通りが少ないことに気づいたのはメイブだった。
「なんか嫌な感じしない?」
「うん?確かに人通りが午前中に比べて少ないが、嫌な感じ・・・ねぇ」
五感を研ぎ澄ます。特に耳と鼻の感覚を引き上げる。
これは不味いな・・・。
俺がメイブに伝えようとしたら大声が響き渡った。
「魔物の襲撃だぁぁあ!」
俺とメイブは互いに目を合わせて別々の道へ跳んだ。
―――――――――――――――――――――――
「キシャアアアア!!」
「きゃあ!やめて・・・来ないで!」
そこには芋虫の魔物に今にも襲われそうな少女がいた。
「誰か・・・助けてぇぇえ!・・・え?」
泣いて助けを求めてる少女の声が疑問の声に変わるのは当然だった。
そこには芋虫の魔物など影も無く代わりに機械の弓を左手に着け、剣を携える黒衣の青年が立っていたからだ。
「危なかったな嬢ちゃん、ここらは危険だから暫くママのところで一緒に震えてな」
それはぶっきらぼうだがどこか相手を思いやる気持ちのこもった言葉だった。だが
「ママはあの芋虫みたいなのに・・・食べられて・・・っく...」
ズズッ、と鼻をすすり涙を堪える少女。
「そうか・・・。他に家族は?」
「いない・・・」
その言葉に少し考える青年。
「よし!なら・・・俺の家族になれ嬢ちゃん!」
突然の提案に驚く少女。
「・・・知らない人に付いていくなって言われてるもん」
そんな少女の憮然とした強気な態度に吹き出す青年。
「手厳しいねぇ、嬢ちゃん。だけど正しい、確かに知らない人に付いていっちゃぁイケないよ?」
人を小馬鹿に、しかしどこか安心感を与えてくれる青年の態度に少女の涙は引っ込んでいた。
だが青年は態度を改めるように黒衣を翻すと
「私の名前はリーン。君の目に、心に光を見た。君さえ良ければ私の家族に、傭兵団【黒き獅子】に入ってくれないか?」
そこには母を食らった芋虫も人を小馬鹿にする青年もいなかった。
少女の命を救ってくれたヒーローがそこにはいた。
心の拠り所を失い絶望した少女が突然の希望にすがり、想いを寄せるのもまた当然のことだった。
「はい!ぐすっ、でもいいの?私みたいな平民が入団しても・・・」
もう少女の瞳には死んだ母など映らない。まるで故意に映らせないように・・・。
そんな少女の心を知ってか青年は
「フフッ そのことは気にしなくて良い。団長は俺だからな!嬢ちゃんみたいに孤児になった子供もいるしな」
明るい声音で玩具を見るような視線を、自分に意識を、想いを向けている少女に対して向けていた・・・。
――――――――――――――――――――――――
「あちゃー、また拾っちゃってるよ。どうするよアレ?」
「団長が決めたんだ意見は挟めんだろ?」
まぁねと言うように肩を竦める背の低い少年。
「第一、俺もお前も孤児からスタートだっただろう?今回拾ったやつもいつかはお前みたいになるかもしれん」
「はぁー?んなこと万が一に無いっつーの!あの人の隣は俺って決まってッから!!」
「何をピリピリしてるんだ・・・。むっ動き出したぞ行くぞレイス。いつまでも油売っていると団長にどやされる」
レイスと呼ばれた少年はまだイライラするのか
「うるせ!分かってるよシャギル。ちゃっちゃと終わらせちまうぞ!」
言い放つレイスと並びシャギルは姿を消した。
―騎士団詰所―
魔物襲撃から数時間前
傭兵団【黒き獅子】は少数で行動する部隊と大所帯で行動する部隊がある。今この町にいる彼の部隊は少数部隊に属する。人数は数十人といったところか・・・。
(傭兵を雇うなんて一体町長は何を考えているのか・・・?)
騎士は憂う。国から派遣された私たち騎士を蔑ろにされている現状に。
そんな考えをしている時ノックの音が響いた。
「団長閣下、お客様が見えています。お通ししてよろしいですか?」
来客? そんな予定はなかったはずだが・・・。
「通せ」
「ハッ!」
扉が開く。部屋には騎士に連れられて町長が入ってきた。
「これはこれは町長、本日はどのようなご用でこちらへ?」
「率直に言う。力を貸せ、今日の昼過ぎに魔物の襲撃が起こる。それを撃退ないし討伐をするために兵を出せ」
さも当然のように言われた言葉に呆ける騎士団長。
「お言葉ですが町長、なぜそのようなことがお分かりになるのですか?魔物の襲撃など噂にも挙がっていないことを」
「面倒だな、君の仕事はなんだ?」
「なんですと?それは・・・民を、国を守ることです」
「だったら魔物の襲撃で被害を受けないためにもどうすればいいか、分かるな?」
「襲撃が起きる前に民を避難させ、討伐の準備をしろ、ということですかな?」
その答えに満足したのか町長は
「合格だ。起きてしまうことはどうすることもできん。だが起きた時にどう動くか、それを考えれば被害を最小限に抑えることができる」
「合格って・・・私を試されたのですか!? 冗談にも程というのがあるでしょう!」
「いーや冗談じゃない。今日襲撃は起こる、だが君ならこの魔物の襲撃という試練を難なく乗り越えてくれるだろう」
「私なら・・・できる・・・?」
その言葉の抗いがたい響きに呑まれそうになる。
「むしろ今の話を聞いて、君に任せたくなった。頼んだよノア騎士団長」
そう言ってノアの答えを聞かずに出ていった。
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「フッ!」
芋虫の魔物を身の丈を超える大剣で殺す鎧の男がいた。
銀が煌めく、それだけで周囲にいる魔物の命は消えていく。それを一言で表すなら「銀」。鎧も大剣も銀で染まっている。
「少し空いたな・・・。各員警戒を怠るな! まだ魔物は潜んでいるかもしれんぞ!!」
「ハッ!!」
鉄の鎧に紛れてもすぐ分かるぐらいに目立っている。だが決して悪い目立ち方ではなく神々しさすら感じさせる在り方だった。
返り血を浴びず、錆びることもない姿。まるで変化を拒むかのように、傷つくことも壊れることもない。
人はそれを「救いの聖鎧」そしてその使い手を「ノア」と呼ぶ。
「よし!市民の安全を最優先で魔物を掃討しろ、いいな!!」
「はいっ!!」
まだ戦いは始まったばかりだ――




