赤いナイフ
「おじさんはどうして人をころすの?」
白い髪をした少女はなぜか赤くなった服を身にまとい持ち手の赤いナイフを持った黒い髪をした男に尋ねる。
「おじさんはそうしないと生きていけないからさ」
黒い髪をした男は目の前にいる少女の視線に合うようしゃがみ込んで話す。
「人をころすのがすきなの?」
「いいや、ただ頼まれたからやってるんだ…お仕事さ」
「そっか、パパとママがしんじゃったのはおしごとだからなんだ」
「あぁそうだよ」
二人は今赤く染まったリビングにいる。その近くにはうつ伏せになったまま動かない人の姿があった。
男は立ち上がると膝を軽く叩き、
「それじゃあおじさんはそろそろお邪魔しようかな」
「わたしはころさなくていいの?」
「お嬢ちゃんはターゲットじゃないからね」
「……」
幼い少女には何も言えなかった。
両親が殺されたのだ。普通なら泣くところだろう、ただ少女の目からは涙は出なかった。
「おじさん」
ドアノブに手をかけ今にもどこかへ行ってしまいそうな男を呼び止める。
「わたしをころして…?」
「それは依頼かい?」
「お願い」
そう言いながら少女は何枚かの硬貨を差し出した。
「…お嬢ちゃん、死ぬのは怖くないのかい?」
「パパもママもイヤだったの、生きていてもつまんない。しにたいの」
「でも今はもう自由だぞ?」
「ひとりでいる方がイヤなの」
「あぁ、それもそうか」
男は硬貨を差し出す手を優しく握ってやった。
「じゃあおじさんと来るかい?そうすれば一人じゃないだろう」
「いいの?」
「もちろんだ、ここで死ぬよりはずっといいもん見せてやろう」
そうして二人は人の少ない村で生活を共にした。相変わらず男はしばしばどこかへ出かけていたがそれが『仕事』だと少女は知っていた。
それでも村での生活は楽しいものであった、気がつけば10年もの時が過ぎていた。
しかしその日は訪れた。
いつも通りの朝、男が二度と起きることはなかった。
『仕事』による疲労だったのだろう、15歳になった少女には人の死を理解することなど容易いことであった。
そして涙が止まらなかった。
その日は日が暮れるまで泣き続けた、一人ぼっちになった少女は男を埋めてあげようと立ち上がる
すると机の上に何か置いてあるのに気がつく。
「これ、おじさんのナイフ…」
赤いナイフ。しかしそれはもうボロボロになっていた。
また側には手紙が小さく置いてあった
少女はそれを読むとうっすらと微笑み
「もう死にたいなんて言わないよ、おじさん」
少女は荷物をまとめ、ナイフを大事そうにそっとポケットへしまうとそのまま外へ出た。冷たい風が吹いている、涙もすっかり引っ込んだようだ。
目指す街は遠い、数日の間歩き続けることになるだろう。それでも少女は男から教わった生きる価値を無駄にしないようにこれから生きていくのだ。
ーこれはとある殺し屋の元で育った少女の話