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ヴィーザル王国物語  作者: 沙羅咲
外伝(4)
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酔っ払い(1)

「みんな、あまり飲まないよね?」という、酒に対するアレスの一言に皆は苦笑いをした。


 ここは、国王であるアレスの個人的なサロン。たしなむ程度に飲むことはあっても、泥酔するなど言語道断。そう思って控えているのに、それを覆すような発言をしている。


「飲めないの?」


 その質問に対して、その場にいたそれぞれが困った顔をする。代表してエフライムが答えた。


「酔っ払って陛下に対しての警護が疎かになったら困りますしね」


「警護? だってドアの外には交代で近衛の人たちもいるし、カーテンは閉まっているから外からだって狙われないよ?」


「飲みすぎて、陛下の…アレスの前で粗相するのも困ります」


 サイラスが陛下と呼ぼうとして、アレスの視線で言い換える。


「いいよ。飲んでみようよ。何があっても怒らないから。いっぱい飲もうよ」


「あの…誰が飲むんですか?」


 サイラスのもっともな質問に、アレスがにっこりと微笑んだ。


「ここにいる皆」


 その言葉にラオが顔をしかめ、バルドルはやれやれといった顔をし、サイラスは困った顔になり、エフライムは謎の微笑を浮かべた。アレスは部屋の隅に立っていたマリアへも視線を移す。


「マリアも「お断りします」」


 礼儀にかなってないとは知りつつも、マリアは即座に断った。なおも誘おうとするアレスをエフライムが制する。


「こういう場で女性に無理強いするのは紳士的ではありませんよ」


「そうなの?」


「そうです」


 エフライムがマリアに酒を持ってくるように言いつけると、ほっとしたような表情で彼女は部屋を出ていった。


「念のため…警護を中に2名、外に2名にしますね」


 エフライムはそういうと、ドアをいくらか開けて外の近衛に申し付ける。しばらくして部屋の中にオージアスとユーリーが入ってきた。エフライムがいぶかしげな表情になる。


「あなたたちが本日の担当でしたか?」


 オージアスは微かに眉を顰めた。


「隊長が酔っ払うというならば、それに匹敵する戦力を置いておく必要があると思ったので、僭越ながら私がきました」


 そのまじめな顔に向かって、横からユーリーが口を出す。


「なんて言って、隊長の酔っ払い姿が見たいんですよ。我々は」


「おい。ユーリー」


 オージアスがユーリーを軽く小突くが、ユーリーは気にせずに悪戯っぽい笑みを浮かべて、そっぽを向いた。


「まあ、じゃあ、醜態を晒さないようにがんばりましょう」


 エフライムが感情の読めない微笑を残して、アレスの傍へと座り込む。そこへ酒が運ばれてきた。


「じゃあ、1つずつ持って」


 アレスが手に入れた酒入りのグラスは、エフライムがさりげなく果汁と取り替える。


「あなたは駄目ですよ」


「えー」


「我々が酔っ払うのを見るのでしょう? 本人が酔っ払ってどうするんです?」


 その言葉にアレスが頷いた。


「そうだね。じゃあ、僕は飲まない」


 エフライムが頷いて、グラスを掲げた。視線でバルドルに合図を送る。


「では、乾杯じゃ」


 バルドルの発声で、無礼講のデスマッチがスタートしたのだった。


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