第1章 王の旅(6)
翌日は小雨の中で進むこととなった。軽く細かい雨が騎乗している者達にまとわりつく。大雨になるよりは良いが鬱陶しいことこのうえない。
午後になり、雨が止み始めた。道の両側が畑だったものが、西の方は森が見え始める。道の先を見れば、森が道を横切る形で広がっている。重苦しい雰囲気のまま一行は、道の通りに森へと入っていくことになった。
まだ日暮れには早い時間だというのに、天気が悪いために森の中は暗い。道が途切れることなく続いていることだけが、少しばかりの安心感につながっていた。今晩はこの森の中で野宿をすることとなるだろう。
ゼイルが先頭できょろきょろと野宿ができそうな場所を探しながら進んでいると、右手側にぽっかりと開けている場所があった。煮炊きをするために石が組まれている場所まである。旅人が代わる代わる、ここで野宿をしていくのだろう。
「ここで今夜は休むことにしましょう」
ゼイルの合図を受けて、場所を確認したエフライムが皆に伝える。近衛たちは慣れた様子で馬を乗り入れ、水場を捜したり、焚き火の用意をしたりするために動き始めた。
「こんなものですみません」
オージアスがアレスにスープとパンを差し出した。スープにはほとんど具が無いが、入っているだけマシというようものだろう。またパンも薄いが、それでも他の者よりも厚めに切ってはあるようだった。
「途中の村で調達しようと思っていましたので…少々見通しが甘かったです」
エフライムが珍しく苦い顔をしている。
アレスはマントに包まって大きな木の下に座り込み、スープを啜った。薄い塩味だけがついたスープだ。思わずクスリと笑いがこぼれる。
「陛下?」
エフライムの怪訝な声に、アレスはそのまま笑みを向けた。
「思い出しただけだよ。こうやってエフライムと一緒に野宿してスープを飲んだなって…焚き木を拾ったり、火を起こしたりしたよね」
エフライムも懐かしそうな笑顔を見せた。
「そうですね。もう随分前のことのようです」
「エフライムと兄弟のふりをしたりしたこともあったね。大変だったけど…面白かったよ。僕はエフライムから…いろんなことを教わったね」
過去形になったその言葉に、エフライムは目を細めて少し意地悪く嗤った。
「それはもう教わることは無いということですか?」
とたんにアレスが慌てたように首を振った。こういう仕草は、彼が本当に少年だったころから変わらない。
「そんなこと無いよ。まだまだ教わることがいっぱいあるよ」
「それなら良かったです。私のお役は御免かと思いました」
わざと安心したようにエフライムは笑うと、アレスに一礼して他の者達の様子を見にいってしまった。
アレスの隣には左右にラオとマリア。マリアの横にはライサが控えている。それぞれの手にはアレスと同じようにスープとパンがあって、静かに食事をしていた。
ささやかな食事はあっという間に食べ終わってしまった。アレスはどんよりとして月明かりも星明りも見えない空を見てから、焚き火に照らされた男たちの顔を見回した。視線は最後に自分の隣にいる銀髪の男で止まる。
「ラオ」
「何だ」
静かな色素の薄い瞳が、自分を見つめてくる。思わず口からこぼれそうになった言葉を寸でのところで止めて、アレスは首を振った。
「なんでもない」
そのまま視線をそらしたアレスをラオはしばらく見ていたが、やがて焚き火へと顔を向けた。
静かに食事が終わり、アレスがいる木を中心としてユーリーの小隊は回りを固める形で、雨が降ってきたときの雨宿りも兼ねて木の下で寝床を確保した。オージアスの隊が始めの見張りとなるらしく四方見張りと火の番をするものに分かれる。
エフライムは木を挟んでアレスの背中を守る位置にいる。夜中にラオと寝ずの番を交代する打ち合わせがしてあった。




