8 少しずつ染まる幸せ
「チュニ
休暇も
終わりだ
今日発つって
どうしても
言えなかった
出て行く前に
部屋は一応
片付けとくから
勘弁してくれ
お前の
整理整頓は
男の俺が
感心するほど
下手くそだしな
それから
パソコンの
小説だけど
ポストに投函
しておいたから
心配いらない
俺が書いた
結末は
秘密
でも
何日か居候した
礼がてら
ヒントだけは
教えてやる
置き土産だと
思ってくれ
チュニ
一目惚れだけが
恋じゃない
少しずつ
染まっていく
恋もある
それに
少しずつ
染まっていく
恋の方が
一目惚れより
ずっと強い
これから2人で
染める布地に
小さな汚れや
かすかなシミが
染める前から
ついてても
『へんてこりんな
模様だね』って
互いに笑える
度量があれば
そして
これから使う
染め粉の
癖や弱点を
互いに
納得していれば
少しずつ
染めていく恋は
一目惚れより
ずっと強い
これがヒント
信憑性?
とっくの昔に
染め始めた
俺が言うんだ
信じていい
あながち
間違っちゃ
いないはず
チュニ
お前も
染め物
やってみないか?」
「今朝だって
一言も
言わなかったじゃない
今日が休暇の
最後の日?
最初から
最後まで
ほんとに
失礼千万な人
いつだったか
入賞したら
小説の
賞金を送れって
言ったっけ?
どうせ私は
“薄情な女”
ですからね
送ったりするはず
ないじゃない
だからって
泥棒呼ばわり
されたらもっと
癪だから
半分は
とっといてあげる
それだけでも
ありがたいでしょ?
欲しかったら
取りに来るのが
筋じゃない
あなたが
閉め方教えてくれた
あの引出しに
きっかり半分
入れとくから
自分で取りに
来なさいよ
こんな
紙きれ1枚で
置き土産?
最初も
図々しかったけど
最後も
底抜けに
図々しい人
何がヒントよ
自分だけ
言いたい放題
染め物?
あなたは
自分で
“染め始めた”の?
やってみるも何も
私は…
悔しいけど
知らないうちに
とっくに
染まり始めてる」
<完>