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蒼は裕馬の方へ瑤姫を連れて歩いて行った。気付いた神や龍が次々に頭を下げて行く。慣れないながら返礼を返し、蒼はやっと裕馬の所までたどり着いた。よく見ると、裕馬の回りの龍達は、まだ若者ばかりのようだった。人型の見た目が明らかに若い。蒼達とさほど変わらない外見をしているのだ。しかしおそらく、彼らも瑤姫と同じように二、三百歳はいっているだろう。

それがかなり楽しそうに笑い合って、話が弾んでいるようだった。蒼はこういう時、いつも裕馬が羨ましいと思うのだった。

裕馬がこちらに気付いて言った。

「蒼!」

蒼も笑って手を上げた。

「裕馬、なんだか楽しそうじゃないか。」

回りの龍達はびっくりして立ち上がって席を開けた。蒼はとんでもないと言う風に言った。

「ああ、いいんだよ。オレは親友と話しに来ただけなんだ。なんだか楽しそうだし、仲間に入れてほしくてさ。」そしてふと、所在なさげに困っている瑤姫を振り返った。「裕馬、瑤姫だよ。」

瑤姫は緊張気味に前へ出た。

「瑤姫と申しまする。よろしくお願い申します、裕馬様。」

裕馬も慌てて立ち上がった。

「裕馬でよろしいですよ、瑤姫様。まさか親友がこんな綺麗な人…いや神様をお嫁にもらうなんて、羨ましいを通り越して、ただ驚いています。」

「さあ、堅苦しいのはオレは苦手なんだ。座ろう。」

蒼は言って、瑤姫を自分の隣りの斜め後ろ辺りに先に座らせた。皆は落ち着かないながら、回りに遠慮がちに座る。きっとこの若い龍達は、本当は瑤姫や維心と、並ぶどころか話もしないほどの位置に居るのだろう。

しかし、緊張したような空気も、始めの間だけだった。裕馬がすぐに話に花を咲かせて、また蒼達が来る前の和やかで活気のある場が戻ったので、蒼も楽しく一時を過ごした。瑤姫はそんなことは初めてだったらしく戸惑っていたが、すぐに馴染んで皆と屈託なく話して、時々に笑い声を上げていた。


涼は蒼達が席を離れるのを見て、自分もソッと席を立った。さっき見付けた中庭へ出よう。

涼はおもしろくなかった。なんだか自分達が自分達でないような気がするのだ。こんなものを着せられて、母さんの結婚式だから仕方なく来たが、このままでは自分が自分でなくなるような…人の世のことなどどうでもいいように思えるような、そんな気がしているのだ。

確かに蒼が闇を消してこの方、大きな黒い霧もほとんど現れることもなく、清浄な空間が多くなっている。でも、神様達との付き合いがどうの、そんなの大切なのかしら?

涼には疑問だったのだ。帰ったらまた冬休みの宿題が山ほどあるのに。それすらも、何か遠い所のようだった。

ふと、涼は誰かの気配を感じて振り返った。

「誰?!」

低い笑い声が聞こえる。そこに立っていたのは、維心だった。

「なんと厳しく問うことよ」維心は両手を胸の前に上げておどけた。「浮かぬ顔であったのでな。どうしたのであろうと思うて来てみたのよ。」

涼はまた前を向いた。

「当主がこんな所へ出ていらして、他の方は何もおっしゃらないの?」

維心は涼の方へ歩み寄った。

「当主ではない。我は王よ。」と涼の横に並び、「我がどこへ行こうと、文句は言わさぬ。」

涼は維心を見た。どう見ても三十代ぐらいにしか見えない。でも、千五百年以上も生きてるんだ…と人との違いに感心した。本当は龍身なのだろうな、と涼は想像してみた。全然浮かばない。そもそも涼は龍を見たことがなかった。

「我の質問に答えよ。何がそのように気に入らぬのだ。」

涼は仕方なく、口を開いた。

「何もかもが。私は当主ではないけど、こんな風に生まれたばかりに、人ではない生き方もして行かなきゃならない。どちらかを選べれば、いっそ楽なのにと思うわ。」

維心は眉を上げた。

「ふむ」と涼を見て、「主、維月に似ておるな。」

涼はイライラした。

「確かにいつもそう言われるけど。」

維心は首を振った。

「そうではない。我が言っておるのは、中身のことよ。維月が主ぐらいの頃、そのように悩んでおったわ。」

涼は訝しげに維心を見た。

「どうしてあなたが母さんの昔を知っているの?」

維心はフフンと笑った。

「我は維月と心を繋いだのでな。生まれた昔より知っておるのよ。ゆえに維月がどれ程に十六夜と深く繋がっておるのかも知っておる。そうでなければ、今頃我が維月を迎えておったわ。」

維心はおもしろくないようにあちらを向いた。そうか、龍神も母さんを…まあ、母さんはもう月なんだもんね。神様の争奪戦に巻き込まれても不思議はない。でも、女々しいわね。その娘にそれを言うなんて。

「わかってらっしゃるなら、いいじゃない。今後はまた、誰か探されたら済むことよ。維心様なら、いくらでも居るでしょう?」

ちょっと口調に皮肉が混じってしまったかも。でも、私は人なんだもの、いいわ、神様のことなんかわからなくて。

維心は目を丸くしていたが、大笑いした。

「なんとこの小娘が」維心はまだ笑っている。「主、我を女々しいと思うておるの?」

涼はちょっとむきになった。

「どうしてわかるのよ。まさか心を勝手に読んだのでないわよね。」

維心は笑い過ぎて涙目になりながら答えた。

「フン、離れておるのに読めぬ。主の考えなどそんなもの使わなくとも読めるわ。」そして、涼の頬に触れた。「ほんに、まるで分身のようだ。良い良い、主は好きなように生きれば良いではないか。しがらみなど、主には関係ないものよな。」

涼はキョトンとした。何がおかしいのかしら。

「王、皆様お帰りになるようでございます。」

召使いの龍が維心を呼びに来た。維心は振り返った。

「おお。参る。」そして涼を見た。「見送りに出なければならぬぞ。これは月と母の為でもあるゆえな。」

涼は頷いて、維心に従って広間へ戻った。


様々な神達が、維心と十六夜と維月、蒼と瑤姫に挨拶を述べて去って行く。十六夜は全く口を開かないが、その分、維心と維月が言葉を述べていた。それにしても、本当に十六夜の神嫌いは徹底している。

全てが済んだ後、再び維心の居間へ戻った一同は、やっとホッとしていた。

「何から何まで、本当にありがとうございました、維心様」

維月が頭を下げた。十六夜も、維心を見て言った。

「こんな面倒なことをさせちまって悪かった。だが、オレはもう二度とごめんだ。」

維心は笑った。

「おいおい、これはそう何度もあってはならんぞ。しかし、また蒼や我の式があれば、主も出なければならぬだろうて。」

これはさすがに十六夜にも断れないらしい。仕方なく頷いた。

「その時は来るが、オレは他の奴とは話さねぇからな。」

維心はやれやれとため息をついた。

「皆が主を怖がっておったわ。月とはなんと冷たいものよ、とな。まあ結局誰とも口をきかなかったのだから、そう言われても仕方がないのう。」

十六夜はフンと鼻を鳴らした。

「奴らがなんと思おうがかまやしねぇ。オレは神ってのは昔から信用ならねぇんだ。」

目の前の維心も神様なんだってばと蒼は思ったが、黙っていた。維心は面白がっているようだ。

「何があったか知らぬが、まあ良い。我の退屈も少しはまぎれたしの。で、もう戻るのだろう?」

十六夜は頷いた。

「ああ。」

維心は立ち上がった。

「蒼達のことは任せればよい。こちらで送り届けさせるゆえな。義心(ぎしん)!」

「御前に、王。」

甲冑姿の武者が現れて膝まずいた。

「月のもの達を送り届けよ。」

義心は頭を下げたかと思うと、蒼達を見た。

「では、こちらへ。」

一同は慌てた。荷物もまだ置いて来たままだったのだ。その気持ちを察したかのように、召し使い達が布にくるんだ荷物を持って現れた。

「輿をこれへ。」

義心が言うと、すぐに椅子のついた乗り物のようなものが担がれて出て来た。

皆は促されるままに乗り込んだ。維心が言う。

「では、またお会いしようぞ。蒼よ、瑤姫も待っておるだろうから、またの訪れを。」

蒼は頷いた。瑤姫を見ると、名残惜しそうにこちらを見ている。

「必ずまた参ります、維心様。」

「出発!」

義心の声と共に、輿は高く舞い上がった。よく見ると何体かの龍達がそれを囲んでいる。

遠く下の方では、母や十六夜が維心と共にそれを見上げ、見送っていた。

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