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龍の姫と

蒼も含めて皆が食事を終えた頃、十六夜が到着した。が、母の姿がない。

「母さん来なかったの?」

十六夜は首を振った。

「途中で白蛇につかまったんだよ。先に行けって言うから、残して来たがな。」

ドカッと側のソファに座る。

「だいたい何の話かわかるよ。」

蒼は言った。

「まあ、アイツも月だ。自分で飛べるんでな。すぐ来るだろう。」

そう言っている間に維月は戸口に到着した。げんなり、といった感じだ。

「あれじゃ蒼も疲れるわね。まああなたの決めた事だから、私はどうこう言わないけど。沙依さんがかなり説教されてて、そこがかわいそうだったから、フォローしといたけど。」

十六夜が黙って手を伸ばす。維月は隣に腰掛けた。

二人は頷き合うと、十六夜が話し始めた。

「蒼のことなんだが」いきなり用件に入るのは、神と同じだった。「今神達からひっきりなしにオファーが来てるんでぇ。人の世の常であるように、みんなまだ先だと思ってたみたいだが、白蛇んとこの沙依と付き合い出したと知れて、その上、こともあろうに白蛇が、蒼本人に嫁にもらえと直談判したと知れ渡ってしまってな。蒼はまさかの嫁探しをしていると思われた見てぇだな。オレには皆言いづれぇようで、主に維月に会いに来やがる。うっとうしくて仕方ねぇ。」

蒼以外は皆驚いて、固唾を飲んで聞いている。

十六夜は続けた。

「で、蒼だけでなく恒にまで話が来始めて、ほっとけないなとなった訳だ。」

恒は飛び上がった。

「え、オレ?まだ15なのに!」

十六夜は困ったように頷いた。

「そうなんでぇ。蒼は競争率が高いから、先に恒を押さえようって魂胆だな。みえすいてやがる。」

維月が言った。

「私達は別に、あなた達が誰を選ぼうと反対はしないつもりよ。でもあの神達は、何をするかわかったもんじゃないわ。最近通学の行き帰りに、よく見る女の子とか居るんじゃない?」

恒と蒼は顔を見合わせた。

「オレ…毎日すれ違う子に、昨日声掛けられた。」

恒が言う。遙が頷いている。

「いつも一緒だから私も見てるよ。違う学校の子。」

蒼も心当たりがあった。外で歩いてる時、何か落としたら拾ってくれたり…編入してきた女の子は、やたら黙って寄って来るから、なんだか気持ち悪いなとは思ってたけど。

「男ばかりじゃねぇぞ。有、涼、遙、お前達もだ。ちょっと気を付けたほうがいい。なんかおかしかったらすぐオレを呼べ。昼間でもオレには聞こえるから、すぐ行ってやる。」

三人は身震いした。維月と十六夜は顔を見合わせた。

「それから私達も、結婚しようと思ってるのよ。」

蒼はびっくりして言った。

「え、もうしてるんじゃないの?!」

十六夜はあきれたように手を振った。

「あのなぁ、そっちのするじゃねぇよ。オレ達は別に型にこだわらねぇし、自分達でわかってりゃいいと思ってたんだが、回りがわかってねぇのよ。ちゃんと式ってのを挙げて、知り合いの神を呼んで、お披露目とやらをしなきゃならないのだと。何をやってても関係ないのだとさ。」

維月はモウッと十六夜を見てから、先を続けた。

「そうしないと、私にまで縁談が来てしまうのよ。」

全員が退いた。

「母さんにまで?!」

「維心に言われるまで知らなかったが、月の力を使えるとは大したことらしくてな。その血が欲しいのさ。人でなくなれば神の子も産める。維月に跡取り産んでもらいたいのだそうだ。冗談じゃねぇよまったく。」

十六夜は機嫌が悪くなった。維月はまあまあ、と腕を撫でた。十六夜は言った。

「男はいい。特に蒼には誰も手を出せねぇ。力を知ってるからだ。遙も大丈夫だ。お前の守りの強さは祟り神でも生気を抜き取れないほどだ。問題は有と涼、お前達だ。女はさらわれるからな。神隠しってやつだ。まあ、お前達は人だから、神の子は産めねぇし、なんかされることはないだろう。だが、人の跡取りが居る神社とかなるとわからねぇのよ。人の世のことを考えたら、そこまではしやがらねぇと思うがな。」

蒼は呟いた。

「じゃあ今、十六夜大変だね…母さんいつさらわれるかわからないじゃん。」

十六夜はムッとしたような顔をした。維月はコラッという顔をして蒼を見た。なんか悪いこと言った?

「…そうよ、奴らはもう二度もオレの留守に来やがって」思い出したようで物凄く顔色が悪い。「二人小者を封じてやったわ。今度来たら消してやる。」

維月は慌てて言った。

「とにかく、結婚式を来週するから。この年末になんだけど。」

皆は頷いた。逆らうと、自分たちまで封じられそうだ。

維月は続けた。

「それで、式は維心様の龍の宮で挙げることになったの。」

蒼はびっくりした。龍の宮だって?!

「母さん、オレ、ほら瑤姫様と…」

「わかってる」十六夜が言う。「維心は別に無理にって言ってる訳じゃねぇし、それにな、婚約したとしても、向こうは龍の王の妹だ、今すぐ決まったとしても、準備に五年はかかると言っていた。もちろん急げと言うなら急ぐとは言っていたがな。」

そうか、神様と人じゃあ時間感覚が違うんだ…。蒼はホッとした。

「そのことなんだけど…」

維月は十六夜を見た。十六夜は頷いた。

「お前、瑤姫と婚約してみねぇか?」

蒼は顔を上げた。婚約だって?!

「…オレ、神様と結婚するの?」

「違う。まずは婚約するだけだ。蒼、考えてみろ。」十六夜は言った。「瑤姫はあの龍神の妹だ。龍神は神の中でも命を司っていて、他の神とは別格の力がある。しかも維心は歴代最強の当主と言われていて、他の神はアイツに逆らえねぇ。お前が瑤姫に決めれば、誰も口出し出来なくなるんだ。」

維月は頷いて言った。

「私達が龍の宮で式を挙げることにしたのも、十六夜って神との付き合いないでしょう?他の神に龍との繋がりを知らしめるためでもあるの。月と神は力の性質が違うから、今まで誰も月には逆らわなかったのだけどね。」

蒼は苦笑した。

「オレが男に生まれたからこんなことになってるんだね。」

「それとその力を持って生まれたからだな。」十六夜は言った。「オレは神達に、基本無関心だった。だから奴らがお前達に何かしたりしない限り、オレはアイツらを封じたり干渉したりしなかった。力を持っていても、だから驚異ではなかった。だけどお前は、人でありながら歴代随一の力を持っていて、オレをその体に降ろし、ほぼオレの力を全て使える。今まで何もしてこなかったオレに対し、お前は人の世にまで干渉することが出来るんだ。どうしてもその力、欲しいと願うわな。味方につけなきゃ怖いからよ。」

蒼が迷っていると、維月が言った。

「それに、婚約したら、龍神様と親族になるから、有も涼も恒も遙も、誰も手を出せなくなるの。」

蒼はハッとした。それで、母さん達は、婚約を勧めるのか…。

皆が固唾を飲んで見守っていると、いきなり、涼が立ち上がった。

「嫌なら嫌って言いなさい、蒼。なんなら私がどこかへ嫁に行ってもいいわよ。」

「涼!」

有がなだめた。涼はそれでも続けた。

「蒼だって好きでこんな立場に生まれた訳じゃないじゃない!どうして決められなきゃならないのよ!母さんだって、同じようにしてきたのはわかってるわ。でも、私は勝手に決められたくない!」

そう言い終わると、涼は階段を駆け上がって行った。十六夜はそれを見送って、フッと笑った。

「…誰かと同じだな。」

「あの子はほんとに私にそっくりなのよ。」

「お前も結婚を決める時、同じことを言った」十六夜は言う。「好きでこんな立場に生まれた訳じゃない、勝手に決められたくないってな。」

維月は笑った。

「でも、あれからすぐ吹っ切れたのよ。いつまでも夢を見ていてはいけないってね。」

「今は夢ではないがな。」

十六夜は微笑した。維月も笑って十六夜の手を握った。

そんな二人の様子を見て、蒼は決心した。自分は誰かを愛してる訳でもない。何かに執着しているわけでもない。母さんのように、何かを諦めなきゃならない訳じゃないんだ。瑤姫様とも、ゆっくり話せば神と人だけど、何かわかりあえることがあるかもしれないし、結婚しようと思えるようになるかもしれない。何よりまだ何年も先のことなのだから、婚約しよう。

蒼は立ち上がった。

「十六夜、オレは瑤姫様と婚約するよ。」

十六夜も立ち上がった。

「わかった。じゃあオレ達の結婚式の時に、正式に婚約すると維心に伝えておこう。」

ずっと黙っていた裕馬が、やっと力を抜いて言った。

「ふえー蒼のお嫁さんは、龍のお姫様かぁ…。スケールが違うよ。」

皆は笑った。蒼も、決めてみると、なんだかホッとして肩の力が抜けていくのがわかる。

明日からは、もう少し神の世界を勉強して行こう。



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