表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/51

とにかく一つ一つ

家に戻った蒼は、宿題を片付けてから物思いにふけった。

戻って晩ご飯を食べる姿は魂が抜けたかのようで、有がかなり心配して十六夜に相談したらしい。

ほんの一年ちょっと前まではこんな事もなく、悩みと言えば試験ぐらいだったのに。人はわからないものだと、蒼はつくづく思った。

でも、母さんがただ一人で何もかも決めて歩き抜けて来た事なのだから、確かに自分は神が見える分ゴタゴタも増えているけど、男なんだし、兄弟姉妹も居るのだ。悩んでないで一つ一つ片付けて行こう、と蒼は思った。

《明日、そっちへ行く。》

十六夜の声が急に言った。

「何しに来るんだ?オレは大丈夫だよ、十六夜。」

蒼はベッドに横になったまま言った。

《維月も行くと言うんだ。夜になると思うがな。9時には戻っとけよ。》

「わかったよ。」

蒼が答えると十六夜の念は消えた。

明日はきっと疲れるなと、蒼は思って眠りについた。


次の日、いつも通り授業を終えた蒼は、裕馬を乗せてまず一度自分の家まで帰り、そこで裕馬を降ろして、その後、沙依の待つ駅前の公園へと引き返した。数日前は、ここで楽しく話していたのに。

蒼は心が重くなるのを感じた。

何も知らない沙依が、こちらに向けて手を振っている。蒼はそこまでたどり着くと、近くのベンチに腰掛けた。

「どうしたの?裕馬達のこと、何かわかったの?」

沙依に言われて、そうだったと蒼は思い出した。まあでも、それも今日きっちり聞いておこう。皆が集まるチャンスだし。

「裕馬達のことはまた、本人に聞くことにしたよ。」蒼は言った。「あれこれ探っててもラチあかないと思ったからさ。」

沙依は頷いた。

「そうなの。でも蒼くん、なんだか雰囲気変わったね。顔つきが違うみたい…お母さんのところに行って、何かあったの?」

蒼は頷いてじっと沙依の目を見た。

「実は、いろいろ神様達とも会ってね。沙依の所の白蛇様とも、この間行った時に話してだろ?あんな感じで、皆からひとあたり聞いて来たんだ。」

沙依は不安げに目を見開いた。

「白蛇様、やっぱり何か言ったのね。」

「いや、それだけじゃないんだ。」蒼は言った。「オレが、月の当主と呼ばれているのは知ってる?」

沙依は頷いた。

「ええ、白蛇様がいつもそう言うから。」

蒼は続けた。

「覚醒するまで全然知らなかったんだけど、オレって生まれた時から、他の神様達が守ってる巫女達の婿候補だったんだって。この間十六夜に聞いて、ほんとにびっくりしたんだけど。」

沙依は、ああやっぱり、という顔をした。蒼は構わず先へ進んだ。

「龍神様も知っていて、これは神達の間じゃ有名みたい。オレ、簡単に女子と歩き回る訳にいかなくなってしまったんだ。」

「それって…これからは出掛けたり出来ないってこと?」

沙依は顔をしかめた。蒼はちょっとムッとした。出掛けたり出来ないって?そんなレベルではないのに。しかもそれで機嫌が悪くなるんなら、やっぱり無理だったんだろうか。

「そうだな、全く出来ないと思う。どう思う?」

蒼は沙依がどう考えるか聞いてみた。試すようで嫌だったが、自分と同じ思考を持てないと、これから先絶対に神達の間で立ち回っていけない。当主として、心を鬼にしなければ…。

「…私やっと、普通の女の子みたいに、お買い物したり、デートしたり、出来るようになったの…。」沙依は涙ぐんだ。「だから、全く一緒に出掛けたり出来ないのは、嫌だな。月に一度とかでもいいから、ちょっと隠れて出るとか、出来ないかなって思う…。」

蒼は、頷いた。やっぱりダメなのか。オレにはやらなきゃならないことがあるのに…。

「…沙依、神様達には、隠れてなんて通用しないんだよ。それに、個人の感情とか、そんなものはあまり通用しない世界なんだ。神様達の間で、なんだか攻防みたいなのがあって、この家の子とこの家の子が結婚する、みたいな感じで。他は排除されてしまったりする。オレ達の意思など関係なくね。」

沙依は涙ぐんだままだった。

「え、私達も?」

「オレ達はオレ達の意思で付き合い始めたけど、これから回り次第で別れるとか、結婚するとか、そんなことになって行くことになる。オレはなんでも自分の意思で決めたいと思っているし、流されたくない。でも、誰か特定の人と付き合っていると、オレに結婚の意思ありとみなされてしまうんだ。」

「どういうこと?」沙依は驚いている。「蒼くんは私と結婚するつもりはないってこと?」

蒼はため息をついた。

「そんな話はまだ先のことだ、そうだろう?そんな事まで最初に決めて付き合いだした訳じゃない。だからオレはそんなことはまだ約束出来ないよ。口先だけって言うんなら、いくらでも言えるけどね。ましてオレは、当主だと言われて今あっちこっちから大変なことになってるんだ。それをうまく抑えるためにも、今は独り身で居たほうがいいと思ってる。」

沙依はぼろぼろと泣き出した。

「そんなの、蒼くんの都合じゃない!私は関係ない。」

「そうだな。オレの都合に巻き込みたくないから、別れたいんだよ。同じ価値観を持てないと、これから間違いなく不幸になる。お互いがね。一緒に出掛けるとか、そんな小さな枠じゃないんだよ。すごく大きな枠で見られていて、自分もその枠でものを見なきゃならないんだ。」

蒼は言った。

「どうして一緒にこれを乗り越えようとか、そんな風に考えてくれないの?」

沙依が責めた。

「一緒に乗り越えられるかどうか、質問したんだ」蒼は言った。「どう思う?て。ごめん。きっと無理だ。オレ達、意識が違いすぎてるんだよ。」

沙依は思いっきり蒼の頬を打った。予測はしていたので、蒼もよけようと思えばよけられたが、あえて受けた。

蒼は立ち上がった。

「…送るよ。」

「結構よ!」沙依は叫んだ。「どうせ、私はその程度だったんだから!」

駆け出して行く沙依を、蒼は黙って見送った。

返す言葉がなかった。


家に帰ると、先に裕馬が夕飯を食べていた。

「おう、おかえり!先に食べてる…」

裕馬は言いかけて言葉に詰まった。蒼が疲れきっていたからだ。

「…ちょっと蒼、早くご飯食べなさい。なんか死にそうな顔してるわよ。」

有が流し台の前で振り返って言う。

「なんだか疲れてさ。母さん達はまだ?」

有が首を振った。

「まだよ。9時ぐらいって言ってたしね。まだ7時じゃない。」

蒼は頷いて、二階へ上がった。先にちょっと涼と話してこよう。

「ちょっと蒼!先にご飯食べなさいって!」

有の声が追いかけて来るが、蒼はとにかく部屋へ戻った。

「蒼、左の頬っぺた真っ赤だったね。」

恒がボソリと呟いた。


蒼は、涼の部屋をノックした。

「涼、入るぞ。」

中へ入ると、涼は机に向かっていた。蒼に気付くと、眼鏡を外して振り返った。

「ああ、ご飯って言ってたわね?ごめん、すぐ行くわ。」

蒼は首を振った。

「いや、ちょっと聞きたい事があって。裕馬のことなんだけど。」

涼はえ?という顔をしたが、側の椅子を示した。

「座って。なんか顔色良くないよ。」

蒼は座って話し出した。

「この間さ、二人で駅に歩いて行くの見掛けてさ。それから気になって仕方なかったんだよ。十六夜もたまに見掛けるって言うし、なんでオレには話してくれないんだろうって。まさか涼、遊びのつもりで裕馬と…とかさ。」

涼はびっくりしたように一瞬黙ったが、すぐ笑いだした。

「やあね、蒼。あなた二人の所しか見なかったんでしょう?」涼は大笑いしている。「やめてよね、第一遊ぶにしても、あんな身内みたいな子選ばないわよ。私、かなりの面食いなの、悪いけど。」

あんまりにも母に似た反応に、蒼は焦った。コイツほんとにそっくりなんだよな。

「じゃあなんなのさ。」

「何よふて腐れないの!あれはね、友達を紹介してあげるって、この間里に行った時約束したからなのよ。ほら、沙依さんと蒼が少しでも話せるように、私、あの子連れ出したりしたでしょう?あの時よ。あんまりうるさいから、何回か友達変えて、三人でご飯とかお茶したりしたの。でも、裕馬ったらあの通りだから、私の友達すぐ帰っちゃうの。かわいそうだから私は最後まで一緒に居るし、帰りはいつも二人だったわ。さすがにこの間はもう諦めたら?って言ったけど。」

蒼はなんだか拍子抜けした。でも、嘘ではないようだ。

「だったらなんで、言わなかったんだよ!」

「あら、裕馬の名誉のためよ。」涼はサラッと言った。「あなたに一番知られたくなかったんじゃない?こんなこと。」

蒼は横を向いた。

「別にいいんじゃないか。オレ、沙依と別れて来たし。」

涼は目を見開いた。「え?!」

蒼は立ち上がった。

「別れたんだよ。オレは当主だ。そう簡単に、付き合う訳に行かないってやっと自覚したのさ。」

蒼は部屋を出て行った。涼は唖然としていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ