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里にて 2

蒼と裕馬と十六夜は、三人で外へ出てぶらぶらと歩いた。裏手の少し離れた所には神社があって、そこはずっと、初代のツクヨミの頃から月を祀る宮であった。

「母さんのことはよく知ってるんだろ、十六夜。なんだってわざわざ怒らせるようなこと言うんだよ。」

蒼は十六夜に言った。裕馬も頷く。

「でも勇気あるよな、あの維月さんに。」

十六夜は立ち止まった。

「別にわざと言ってる訳じゃねぇんだよ。普通に話してたら、維月が怒ってた。」

「…何を話してたんだ?」

蒼は原因を突き止めるべく聞く。十六夜はやっぱり月なので、同じ月でも元「人」の母さんとは根本的に感覚が違う。何か話しても、その意味とか背景を回りくどく説明したりしないし、自分の発言のフォローだってしない。誰がどう思おうと、月には関係ないからだ。

だが、それがしょっちゅう母さんとの軋轢を生むのだ。それは昔から変わらないと、十六夜は言っていた。でも、今は地上でしょっちゅう一緒に居るのに、いつまでもお互いこのままでは、そのうち母さんが家を出るとか言い出しそうで、心配でならないのだ。

まあどこへ行っても、月からは丸見えだし、逃げられないが。

「ツクヨミの話だ」十六夜は境内から本殿の裏側に回り、そこの縁側に腰掛けながら言った。「オレが最後にツクヨミに降りた話をしていたんだ。」

「?」

蒼はわからなかった。何が怒ることにつながるんだろう。

「なんか言い方変だったとか?」と裕馬。

十六夜は首を振った。

「いつもと同じだ。話し方が関係あるのか?」

蒼はうーんと唸った。

「内容は以前オレに話してくれたのと一緒だよな。」

「同じだよ。同じ事実を話しただけだ。あと、維月がその時のことを今どう思っているか聞いたから、答えたがな。」

裕馬と蒼は顔を見合わせた。

「なんて言ったんだよ?」

十六夜は答えた。

「どうしても助けてやりたかった、今でも、会いたいと思っている。」十六夜は宙を見てそらんじた。そして蒼達を見て、「何か悪かったか?」

裕馬が立ち上がった。

「それだ!」

「なんだ?」

十六夜は辺りを見回した。

「違うよ、なんでそんなこと言ったんだよ。」

裕馬が呆れたように腰に手を当てて言った。

「母さんはそれに怒ったんだよ十六夜。」蒼が困ったような表情で言った。「なんで会いたいなんて言ったんだよ。」

十六夜は困惑している。

「なんでってなぁ、謝りたいと前にお前にも言ったじゃねえか。あいつには悪いと思ってるんだ。」

裕馬は肩を落とした。

「だったらなんでそう言わなかったんだよ。今でも会いたいなんて、今でも会えるなら会いたいぐらい好きなんだと思われたかもしれないよ。」

十六夜は眉を寄せた。

「好きだって?オレはお前達みんなに好意を持ってるがな。ツクヨミにだってそうだろうが。」

蒼は首を振った。

「違うんだよ、人の好きには段階があって・・・」

裕馬が引き継いた。

「例えば蒼は最初全然気にしてなかった山中と、結局自分から言って付き合い出したじゃないか?」そして蒼に、「そういやお前、ほんとに結婚しないのか?」

蒼はそれを無視した。

「じゃあさ、十六夜。ツクヨミに会いたいのと、母さんが死んだ時会いたかったのと、同じ感情か?」

十六夜はすぐにかぶりを振った。

「いや。ツクヨミにはそこまでじゃない。謝りたかっただけだからな。」

蒼はさらに言った。

「母さんが死んだ時、十六夜はオレ達より悲しんでたけど、他の歴代当主が亡くなった時はどうだったのさ。」

「そりゃあ寂しかったさ。でも、仕方がないことだったからな。皆先に逝くんだ。」

「その違いはなんなんだよ。」

蒼に言われて、十六夜は考え込んだ。裕馬は少しむくれていたが、黙っている。

「…想いの強さの度合いだ。」十六夜は言った。「維月は他とは違うんだよ。他の当主と結婚なんて考えたこともねぇ。でも、あいつが高校生の時、オレに結婚しようと言った時、もしそうなら、してもいいと思った。だから約束したんだしな。」

「お前の母さん月にプロポーズしたんだ」裕馬が茫然としている。「しかも高校生の時に。」

蒼は裕馬に頷いて、十六夜に言った。

「それってさ、母さんに言った?」

十六夜は首を振る。

「言ってねぇ。聞かねぇからな。」

蒼はため息を付いた。

「…あのさあ十六夜。月はどうか知らないけど、人って言わなきゃわからないんだよ。自分と同じ当主で、女で、自分より先に出逢ってて、どんな関係かなんて知らない人に、何百年も経った今でも会いたいなんて言ったら、今でも愛してる人って思われても、人の間ではおかしくないんだよ。」

十六夜はためらった。

「なんだよ愛してるって。」

「だから好きの最上級だと思ってくれたらいいよ」蒼は言った。「だから滅多に人も口にしないけどさ。」

裕馬がクンクンと空気の匂いを嗅いだ。「あ、炭に火が入った。そろそろ始まるんじゃないか?」

蒼は焦った。何としても夕飯までに十六夜に納得させて、母さんの誤解といて、楽しく夕飯にしなければ。

「裕馬ごめん、先に手伝いに行ってくれよ。オレなんとか話ししてそっち行くから。」

裕馬は頷いて立ち上がった。

「任せといて。蒼、急げよ。」

裕馬は察して家の方へ走って行く。蒼はゆっくり立ち上がって、家の方へ足を向けた。夕日が美しい。

どう話して分かってもらおうかと考えていると、十六夜もならって立ち上がり、蒼に並んだ。そのままゆっくりと鳥居を抜けると、家の裏庭で皆がバーベキュー用の炭を起こして騒いでいるのが、遠くに見えた。今日は役場の村野も手伝いに来ているのがわかる。維月は村野と笑いながら話していた。

十六夜がそれを見ているのを見てとった蒼は、言った。

「そうだ十六夜、もしも今夜にでも夕飯の話しててさ、母さんが、村野さんに会いたいって言ったらどう思う?」

十六夜は明らかに驚いた顔をした。

「なんで維月がそんなこと言うんだ?」

「もしもだよ。だけど言わないって保証はないだろう?」

蒼は意地悪く言った。多分、有り得ないけど。

それでも十六夜は真剣に答えた。

「なぜか聞くだろうな。」

「それ、聞けなくてさ、理由わからないままだったらどうする?」

十六夜の眉間に皺が寄った。

「維月は人だったヤツだ。心変わりしてもおかしくねぇと考えるだろうな。」

「え、神って心変わりしないの?」

蒼は関係ないのに思わず言ってしまった。

「する奴もいるがオレはしない。だから忘れねぇって言っただろうが。人と一緒にすんな。」

なんだか機嫌が悪くなっている。蒼は今だ!と思って慌ててまくし立てた。

「それだよ十六夜!母さんは、十六夜がツクヨミに会いたい理由がわからない。それに誰を一番好き…つまり愛してるのかわからない。だから十六夜を信用出来ないし、怒ってるんだ。」それから付け足した。「ちなみに母さんの性格わかってると思うけど、ツクヨミがいいならそっちにしたらいいじゃん、私は別の人探すわよとか思ってるかもしれないよ。いや、人じゃなくて神様かな、龍神様とか。」

十六夜は目に見えて不機嫌だった。

「龍神は維月は好みじゃないと言っていた。」

「あくまで例えだってば。」

蒼はまずいこと言ったかなと思ったが、母さんの心境を知ってもらうにはこれしかない。あと、説明の重要性も知ってもらっておかないと。何しろこれから何百年一緒にいるかわからないのに…オレも先に死んじゃうし…。

「ちょっと話してくらぁ。」

機嫌が悪いのは心配だったが、とにかく何を説明すべきかはわかってもらえただろうと、蒼は十六夜を送り出した。

遠くで十六夜が母に話し掛けている。裕馬以下のあのビビりようは、薬が過ぎたようで十六夜の全身から不機嫌オーラが立ち上っているからだろう。さすがの母も炭起こし用に持っていた団扇で口元を隠して、しばし呆然としていたが、回りに迷惑掛けまいと思ったようで、二人で部屋へ入って行った。

蒼が裕馬の所に合流すると、裕馬が慌てて言った。

「おい!お前何言ったんだよ。十六夜、半端なく機嫌悪かったけど。」

蒼はちょっと摘み食いした。

「荒療治かもだけど、母さんなら大丈夫だろうよ。」

裕馬は言った。

「お前の母さんのことは全然心配してないけどさ。月同士のケンカって回りに変な影響ないだろうな。」

確かに。








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