表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/51

別れ

十六夜がその上空へ着いた時、有と恒が遙を二人で抱え、車へと必死で移動している最中だった。二人とも泣きながら、ぐったりとしている遙を気遣っている。

十六夜が見ていたのは、蒼に降りるまでの間だった。ここに移動してくる間の事は見えていない。心が急きつつも、十六夜は涼を三人の所へ降ろした。

「蒼!」と有はパッと明るい顔をした。そして目の色に気付き、「十六夜?」

「どうしたんだ。遙はまだ息があるな。」

十六夜は頷きながら言った。

「母さんが早く逃げろって」有は涙を流した。「若月が戦ってくれてるけど・・・私たちが逃げる前に、後ろで若月の悲鳴がしたの。でも振り返れなくて。」

十六夜は飛び上がってその現場へ急いだ。必死で戦う若月は、倒れて動かない維月の前で庇うように防いでいる。しかし、もう時間の問題だった。

十六夜は蒼に聞いた。

「力を出しても大丈夫か?あれを封じなきゃならん。」

“大丈夫だ。早く十六夜!”

頭の中に声がする。蒼は異変に気付いた。気が・・・。

しかし十六夜は気付いていないようだ。若月の前に飛び出して浮かんだ。

《ああ、十六夜様!》若月は叫んだ。維月を抱き込むようにしている。《お願い申す!もう我は・・・。》

「わかってらあ!」十六夜は手を上げた。大きな光の玉だ。「久しぶりだな。その姿、封じさせてもらうぞ!」

《月め!この姿、主のためぞ。我をこのような所へ封じ・・・我が民を苦しめた月を恨み、このような姿に変化へんげしてしもうた》

祟神は、どこか寂しげな声で唸るように言った。

十六夜は厳しい顔をしながら光の玉を祟神に向けた。

「お前から売って来たケンカだ。オレの守るものに先に仇なしたのはお前の方じゃねぇか。」

光が祟神を飲み込んで行く。祟神はしかし勝ち誇ったように言った。

《お前の負けだ、月よ!お前の大切なものの命、戴いたぞ・・・!》

再び封じられたその神は、そう言い残して消えた。

「・・・何を言ってやがる。」

そう言って、若月の方を振り返ると、倒れる維月の前に座り、頭を下げていた。十六夜は気付いた。

・・・そう言えば、ここに着いてからずっと、維月の気を感じない・・・。

頭の中で蒼が泣いているのが聞こえる。なんだってそんなに泣いてやがる?全て封じた。終わったのでないのか・・・。

若月が振り返った。

《十六夜様》

十六夜は蒼の体で維月に屈み込み、顔を見た。若月が上を向かせて手を胸の上で重ねさせている。

「維月・・・?」

彼女は目を閉じている。体に損傷はどこもなく、ただ眠っているようにしか見えない。

《一瞬のことであり申した。他のものが逃げる手助けをしようと飛び出し、自らあの力に食われ、生気を抜かれてしまい・・・このように・・・。》

十六夜は蒼の体を使って維月を抱き上げた。冷たい…なんの生命の兆候も見られない。念で必死に心の中で呼びかけたが、応答はなかった。

「維月」十六夜は声に出して呼んだ。「維月ー!!」

頭の中の蒼が号泣している。有や恒や涼がこちらに気付いて駆け寄って来る。

十六夜の意識は、真っ暗になった。



十六夜が抜けた蒼は倒れ、若月の屋敷へと維月と共に運ばれた。

無理やり門を開いた後に、十六夜を降ろしたこともあり、蒼は次の日も起き上がれなかった。繊月が現れたが、十六夜の声は聞こえない。しかし、力が戻って来たので、月が出ているのは分かった。

遙はまだ何も知らされず、看病を受けていた。しかし、生気の消耗はそれほど激しくなく、元気になってきていた。

母は、若月の勧めで、美月の里の神社へ連れて帰ることにした。若月の陰の力は、母の亡骸を包み込み美しく保ち、安置しておくことが出来るのだという。

《当主、どうか我にお時間をお与えくださりませ。》若月はそう言って頭を下げた。《我は必ず、全て良しなにおおさめ申す。維月様をしばらく、里にてこのままお隠しくださりませ。》

蒼は今度こそ、全てを聞いておくべきだと思った。

「若月、オレに全て話せ」蒼は言った。「お前は何をしようとしているんだ?」

若月は蒼の表情を見てビクッとした。

《・・・はい当主。》

若月は座り直した。《あるかたの封印を、解きたいと望んでおりまする。あくまで私情であるゆえ、当主にはお話せずにおりました。遙は我に同情し、あのように我を追いました。》

蒼は、その話に耳を傾けた。その時、自分の力が微かに誰かに使われるのを感じた。それが何に使われているのかわかったが、蒼はそのままソッとしておいた。


若月の話が終わった後、蒼は一人起き上がり、母を安置してある部屋を覗いた。思った通り、十六夜が人型になり、母の傍に座って、顔にかけてあった白布を外して見ていた。

「…勝手に力を引き出すことも出来るんだな。」

蒼は十六夜に声を掛けた。十六夜はこちらを向かなかった。

「十六夜、母さんとの記憶、途切れ途切れだけど、見えたよ。」

蒼は近付きながらもう一度話し掛けた。十六夜はピクリと反応した。

「オレには想像出来なかったけど、あんなに小さい頃から、ずっと一緒だったんだな。」

十六夜はフッと微かに笑った。

「…フン、だからお前のオレへの認識が変わったってことか」十六夜はこちらを向いた。「姿が人の常識での、維月に見あうものに変わっていたのでな。」

十六夜の姿は、二十代後半ではなかった。母の外見がそうであるように、三十代半ばの男性の姿になっている。しかし、やはりそれは十六夜だった。

「十六夜…。」

十六夜はまた母の方を向いた。

「全く変わったヤツだった。オレのことを月とは呼んでいたが、人のように扱っていた。何度も感情をぶつけられて、そのたびオレは、どうすればいいのかわからなかった。段々自分が人のような感情を持って来るように思えた。コイツにだけは幸せになってもらいたかった。オレの気持ちよりコイツの気持ちだと思って…最後まで守り抜いて共に居ようと思っていたよ。それしかオレにはしてやれることがなかったし、傍に居ればコイツは笑っていてくれたからな。」

蒼は、十六夜が自分の心をどうすればいいのかわからなくて、それが何かも理解出来ず、試行錯誤していたのがわかった。十六夜は続けた。

「以前は何度も話し掛ければ、念の気配ぐらいは感じ取れたんだ。怒って応えない時でも、念の波動は伝わって来た。」十六夜は母の頬を触った。「だが今は、何もない。他の誰にも最期は一緒に居てその瞬間まで念を感じたのに。誰より側に居てやりたかった維月に、オレは何の言葉も掛けられなかった。別れすら言えなかった…。」

十六夜はただ泣いていた。冷たくなった母の手や頬に触れ、ひたすら後悔しているようだった。その姿は、誰よりも「人」だった。

「若月の話は、聞いていたか?」

十六夜は頷いた。「ああ。」

「今のお前なら、気持ちがわかるのでないのか?」

十六夜はしばらく黙っていたが、頷いた。

「そうだな。」

「母さんならどうしたと思う?」

十六夜は立ち上がった。

「…わかったよ。蒼、手を貸そう。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ