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佐野さんと関係を持った翌日からは、思い出すと嬉しくも一人恥ずかしくなる日々だった。
そして、メールや電話も減り寂しくなり、佐野さんと会いたいと思っていた日々の中で気が付いた。
あの日、付き合おうとゆう言葉はなかった。お互いが好きとゆうだけの言葉。
寝室での言葉は、関係を持つ為だけの言葉だろうとまで私には思えてくる。
会いたいけれど、会えない。連絡したいけれど、私から連絡すると仕事中なら邪魔になるかもしれないので素直にできない。
この前、会えたのはいつだろう。
そう思って見た、カレンダーの生理予定日の日付の丸の日から一週間過ぎていた。
生理が終わり佐野さんと関係を持ってから、一ヶ月。
あの時に避妊はしてくれたような気がする。ただ、初めてで緊張してハッキリ覚えていない。
もともと生理は不順だ。遅れているだけかもしれない。
そう一人心配して不安になり、何回もカレンダーを眺めながら指折り数える日々を過ごした。
赤ちゃん出来ていたらどうしよう。親や佐野さんになんて言えば良いんだろ。受験もあるのにどうしよう。
そんな事が頭にグルグル回るのに、検査でハッキリさせるのも怖くて気が進まない。佐野さんにもなんて思われるか分からず相談もしにくかった。
誰にも言えない、初めてばかりの経験に悩む私にリビングのテレビのスクープは、追い撃ちをかけた。ますます気分は落ち込み、せっかくのお休みなのに一人で部屋に篭り考えこんでしまう。
スクープは『佐野悠斗!人気モデルと数回食事を目撃。熱愛中!?』の内容だった。
見出しにあった「?」に、これほど期待をかけた事はなかった。
けれども、あの部屋に避妊具があるとゆう事は、あの部屋で他の人とも…。じゃあ、もしかして、そのモデルさんとも…。
はっきりしない嫉妬や憶測が悩む頭に追加された。
勉強しなきゃいけないのに、どうしても頭から離れなかった。
有名人だ。連絡も減りスクープも出た。だとしたら私は、もう佐野さんと終わりなのだろう。
そして、どうしても後ろ向きな考えに落ち着いてしまう。
佐野さんに忙しいと言われても、どう忙しいのか私にはスケジュール等か分からない。知っていたとしてもハッキリ聞けない現状は変わらない。
目に見えるスケジュール以外にも色々あるだろう。
そう思ったら、ますます連絡出来ず一人ぼっちに思えてきていた。
そんな中で、ただ一つハッキリしていたのは自分があの時に佐野さんを信じて、関係を持った事に後悔はしていない事だけだった。
お昼ご飯も欲しくなく午後になっても部屋のベッドに仰向けに寝転んでいると、メールの着信音が鳴った。慌てて見てみると佐野さんだった。
『報道で智恵を驚かせてたらごめん。
俺もさっき知ったんた。あれは作り事。俺が好きなのは智恵だけだ。信じて。
』
佐野さんからのメールを読んだら、佐野さんが仕事中だとか、邪魔したらいけないとか、何も考えられなかった。
ただ、今なら繋がるとだけ思ってすぐに電話をかけてしまった。
電話はワンコールで繋がり嬉しくなる。
『ごめん。びっくりさせて。俺もさっき知ったんだ。俺が好きなのは智恵だけなんだ。』
『もしもし』もなく、すぐに謝られた。
「そうじゃなくて…。」
久しぶりの電話の佐野さんの慌ぶりに私は、なかなか口を挟めないくらいだ。私の言葉を遮り詳しく話す佐野さん。
『あのモデルと何回か食事には行ったけど、他に人もいたんだ。二人だけの時を狙われたんだ。俺がまだまだ小さいから心配させてごめん。』
佐野さんから私に誤解されたくないとゆう必死さが伝わってくる。けれど、その必死さが言い訳の為かとも疑がってしまう、私。
「…本当に?」
『そう。俺には智恵だけ。せっかく智恵が初めてかけてくれた電話がこんな内容だなんて…。』
その言葉に、ほろっと甘えてしまった。
「生理遅れてるの…。」
『え?つけたよ。迎えに行く時に家に無いから買った物だし。大丈夫じゃないかな。
あ…。久しぶりに俺の部屋で智恵と会っただろ?そうなれば良いなぁって用意しただけ。本当だよ。そんな事ばかり考えて、無理にそうなるつもりもなかったんだ。』
あっさり自分で言っておきながら、後で慌てふためく佐野さんとは逆に私の方は落ち着いてきた。
「分かった。ありがとう。」
『智恵の受験もあると思って、ちゃんと気をつけてた。俺もまだ頑張って智恵をこれから幸せにしたかったし。』
「うん…。」
しかっかりと理由まで言われて、気をつけていてくれた事に嬉しくなり少し安心できた。
そして、佐野さんを呼ぶ声が電話の向こうから小さく聞こえてきた。
『は~い。もし来ないなら黙ってないで言えよ。絶対に。智恵の嫌な事はしないから。スクープも絶対に信じるなよ。今は無理だけど必ず会いに行く。じゃあ、また夜にかける。』
小声で口早に言って佐野さんは、電話を切った。
電話を切り、携帯を握り締め佐野さんの言葉に少し安心出来た。
そして、避妊に気をつけるのは当たり前の事かもしれない。スクープも、やっぱり何回も食事に行くなら、私は今だけかも知れない。
そう思いはしたけれど、電話の前よりは気持ちは軽くなっていた。すると、今度は段々と佐野さんに腹がたってきてしまう。
当日に買ったと避妊具で気をつけてくれていたとわかって、私の不安と悩みを軽くしてくれたのは佐野さん。
けれど、その悩みは佐野さんとの一緒の私からみたら幸せな時間を過ごしたから生まれた事だ。
私は、カレンダーを見たり、トイレに行く度に気にしていて、考えこんでしまっていた。縋るように電話した佐野さんはスクープを気にしてばかりで、くれた答えは私が気にしすぎかと思う位あっさりした物だ。
私は、初めてなんだから避妊してるなら、わかりやすく言ってよ。私は、わからなくても仕方ないでしょ。
初心者の私からは、あの時に緊急してたし恥ずかしくて聞けなかったのに…。
やっぱり佐野だ。私に男の事情を話しただけの奴である。
頭の中で八つ当たり気味に文句をいっていた。
けれど、これが経験の差なのかもしれない。佐野さんが大人に見えてしまった。まだまだ子供の自分が悔しくなってしまう。
どこにでもいる、普通の私。
佐野さんの回りには、普通の私が憧れるような綺麗な人達。
考えたら、落ち込んできたので、元気の元のご飯を食べる為にキッチンに向かう事にした。
夜も遅くなり、寝る前にトイレに行くと生理が来ていた。
そういえば、体が怠くてお腹も痛かった気がする。こうゆう事もあるんだな。
良かったとトイレで安心した。
そうして一つの悩みがスッキリ解消されると、もうひとつの悩みのスクープが気になりはじめる。
けれど、呑気だからか悩んだ日々に疲れ今は考えたくなかった。
寝る前から、佐野さんの電話が来たら生理の報告をしようと待っていた。電話は、深夜1時を回った頃にかかってきた。
『智恵?遅くにごめん。大丈夫?』
「佐野さんこそ、大丈夫ですか?」
『智恵が優しくしてくれたら大丈夫。』
甘く言われても、悩み疲れ果てた私に優しさは残っていないので無理な話しだ。出るのは意地悪だけだ。
「あんなスクープを突然知って優しくなれません。」
『たまには、優しくしてよ。スクープに妬けた?』
「微妙に…。仕方ないでしょ。気になったんですから。」
なのに、下手にでられると嫌われたくない気持ちがムクムク育ってきてしまう。
『本当に分からなかったんだよなぁ。』
「そうゆう事もありますよね…。生理来ました。心配かけてごめんなさい。」
どさくさ紛れに言うと佐野さんは、いつもの様にクスクス笑って、それが私はとても安心出来た夜だった。
モデルさんみたいな熱愛相手が佐野さんの家にくるのか、スクープにならない様に私も気にした方が良いのか、かけらも頭になかったほどに穏やかな夜の電話だった。