表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇妙な関係  作者: ねこ
4/19

あたりもすっかり暗くなった頃。

ベランダで外を見て、そのままウトウトしていた気分になる。


部屋の中からドアをあちこち開閉する音が聞こえてくる。

そして、大きく音をたててカーテンが開いて、大きな窓が勢いよく開いた。


「こんな所にいたのか。」


そこには、慌てた様子の佐野さん。


「おかえりなさい。」


私の答えに気まずそうな顔をして佐野さんが言った。


「消えたのかと思った…。」


「元気ですよ。変な言い方ですけど。」


そんなに簡単に消える訳ないじゃないか…。


リビングに入り、DVDの続きが見たいと入れ替えてもらう。


「私、あのドラマの渋い弁護士さんみたい人好きなんです。けど見ていて、あのベテランさんくらいの年の佐野悠斗さんも見てみたいと思いました。」


テーブルに置かれたDVDの説明書を読みながら言うと、佐野さんはため息を落としソファーの背もたれも使い深く座った。


「歌も演技も好きだけど、この世界厳しいからなぁ。先は分からない…。」


「佐野さんの歌って、たまにテレビでしか聞かないけど好きですよ。」


「本人目の前にして失礼なくらい正直だな。」


佐野さんは、クスクス笑いながら言った。


確かに、正直すぎたかも知れない…。

この話は止めようと方向を変える事にした。


「演技って盗むものらしいですね。ワイドショーでベテランさんが言っていました。

今は、きっと佐野さんは盗む時期なんですよ。余計な事考えないで、じゃんじゃんベテランさんから盗んだらどうですか?

それで、あの弁護士さんみたいに素敵になって下さい。」


話ながら私には、未来が無いだろう事に気が付いてしまった。

こんな状態だし、家に帰りたいのだけが私の夢か…。


むなしい…。

制服着てるし、まだ高校生だったはずなのに…。


「じゃあ、今の俺は素敵じゃないのか。」


そんな事を言うか。

平凡な私に対するいやみか。十分素敵だ。

これから先も、この人は芸能の世界で伸びてやっていけるだろう。そんな未来があるのが、うらやましくなり意地悪く言ってやった。


「佐野ですからね。」


背中を叩かれるのは、分かったけど擦り抜けさせた。


「今の私は無敵ですから無駄です。」


二人で笑いあった



一夜明けた今日は、スタジオで雑誌の撮影らしい。

頑張って早く帰るから。と、なぜか張り切り佐野さんは元気に玄関を出て行った。


そして、本当に早かった。


9時に出て行って3時には帰ってきた。

色々と吹っ切れて気合い入れてノリノリで撮影したら、出来が良かったらしい。


「雑誌が出たら見せてやる。」


佐野さんがご飯を食べながら話てくれた。

そんな物なのか?

よく分からないまま話を聞いていた。


出られるかどうか…。それだけが私の頭の大半をしめていた。


そして、その時が来てしまった…。

玄関で靴をイメージして出して履く。


出ないといけないのは分かっているが、また壁にぶつかったらどうしよう。

このまま、ここにいて写真でも撮ってきてもらおうか…。

一気に考えが後ろ向きになった。


「出よう。

俺と一緒に、俺の家から出るんだ。俺のそばに居るのなら出られる。」


強く目を見つめられ、暗示をかけられるように言われた。


そして、ドアを開け背中で、それを支える佐野さんに手を差し延べられる。

覚悟を決めて目をつむり、手に軽く触れ小さく足を踏み出した。


「目を開けてごらん。」


廊下だった。見えない壁の衝撃もなんの感触も無かった。


「なんで?」


「知らない。家主の俺が許可したからじゃない?けど、一人でどこかに行くなよ。」


なんでだろう…。


不思議な気持ちの佐野さんの四輪駆動の車の助手席に乗り込み出かけた。


高校まで一時間少し。

道中見た事がある風景もあった。少しずつ思い出していきながら学校についた。


「この高校でした。女子校なのここ。三年だったの。友達もいた。」


色々と思い出してくる。

名前も思い出せた。

家よりも長い時間を過ごしていた場所。


教室に友達の顔。夏休み前で、毎日暑いと話したりしてた。


「まだ、時間いい?」


この流れを止めたくなくなり、家にも帰りたくなった。


「いいよ。」


「家はここから電車で一時間くらいなの。」


電車通学なので少し道を間違えながらも無事に着いた。

7階建てのマンション。見上げる。懐かしい気持ちになる。


「ここが家なの。帰りたい…。」


偶然、母の車が目の前通る。


「お母さん…。」


やつれた顔でうなだれて大きな荷物を持ってマンションに入っていった。


やっぱり…。


嫌な考えが一気に押し寄せてくる。

あんなに帰りたかったのに、家に帰り現実を受け止める事が怖くなってきた。


けど…帰らないと…。

このままじゃいけないはず。


不安や恐さや自分の行く末に潰されそうになり、佐野さんを見上げた。


「うちの居候は仕方ないやつだな。優しい家主が決心つくまで居させてやるよ。」


優しく微笑まれ少しだけ気持ちが軽くなる。


「もう、いいです…。」


そんな帰り道だった。

大きな交差点で私達は信号待ちをしていた。


キキキー。


急ブレーキの音が突然響き、目の前で車同士が事故になりかけていた。


「あっぶないなぁ。」


佐野さんの声が遠くに聞こえたけど、私は血の気が引いた。


突然の衝撃に、襲って来た痛み。ゆっくり無くなる視力。


そうだった…。

思い出してしまった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ