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奇妙な関係  作者: ねこ
3/19


私はソファーにすわり、佐野さんがお風呂の間に家と家族の事を考えていた。


帰りたいのは家はどんな所だろう。

私に家族はいるのだろうか?いるとしたら何人だろうか?

そう考えていたら、自分の部屋が頭に浮かび、家族の顔も浮かべられるようになった。

嬉しくなり、次に家の場所はどこだろうと考えていた時だった。


「何、難しい顔してるの?」


後ろからの声にビクッとして、振り向けばリビングの入り口に佐野さんがいた。

上半身裸で下にハーフパンツ。濡れた髪を首にかけているタオルで拭いている。


濡れて少し長くなり波打つ前髪の隙間から見えた綺麗な目に、ドキッとしてしまい慌てて視線を下げるとお腹だった。


「腹筋割れてるんですね。」


取ってつけたように言うと、佐野さんはソファーに座りながら


「そりゃあ、佐野悠斗ですから色々と頑張ってますよ。」


そう言いながらクスクス笑っていた。


「うちのお母さんは丸々したお腹で、お父さんは背が高くてスリムです。弟も細いくて…。」


思い出せた事を伝えたら涙がにじみはじめた私に、佐野さんは何も言わすに隣に寄り添うように座る。


「手を出して触れたいと思って触れてみて…。」


いきなりそう手を出された。大きくて細く長い指の手の平。

玄関で摺り抜けた事もあり、やりたくなかった。

佐野さんを見ると


「触れてみて。」


微笑みながら穏やかな声で促される。


「いや…。触れたくなんかないし。」


とたん、ピキッと佐野さんが固まった気がして笑顔なのに嫌な感じの圧力がやってきた。


「やってみて。」


ゆっくり低く言われてしまい、しぶしぶ手を伸ばす。

指先をそうっと突く感じで手の平に近づける。


触れるか触れないかでかすかな感触を感じた。けれど、摺り抜けるのが恐くて先に進む事は出来ない。

そのまま、佐野さんの指先までゆっくりなぞりながら進んだ。


玄関の時と違う…。

触れたいと思ったら触れられるかも…。


じっと指先を見つめる私の隣で佐野さんは手の平を見つめていた。


次は、触れる。と、意識しながら指先で佐野さん指を挟みゆっくり撫でる。


佐野さんが指をパーに開いてくれたのでやりやすく、調子に乗って何度もやってみても撫でられた。

感触はさっきと同じ位かすかな物だったけど摺り抜けない。

当たり前の事が当たり前に出来た嬉しさに、また手を伸ばしたら手が逃げていった。


「もう少しだけ…。」


寂しく残念な気持ちになり小さく言ったら


「明日、4時起きだからもう寝る。慰めるつもりだったのに…。」


そう言って

プイッと佐野さんは寝室らしき部屋に行ってしまった。


自分から言いだしたのに勝手な人。

まぁいいや。少し気持ちも軽くなった。


「一緒に寝たいからおいで。」


カチャとドアが開き顔を出して言われたけれど、お断りした。



そして現在4時過ぎ…。

ソファーに寝転びぼんやりしていたら、アラームが聞こえてきた。


佐野さんの寝室らしきから聞こえてきたけれど、ドアが開く気配もなく10分過ぎている。


ドアを叩く。

意識してみたら叩けた気がしたけれど音は出ない…。


どうしよう…。

けど、仕事に遅刻するのはダメだよね。


腹をくくり、目をつむり力を抜いてドアに向かい足を踏み出し二、三歩き目を開ける。

予想した痛みはなくて、寝室だった。

大きなベッドがこんもり盛り上がっている。

振り返ればドアがある。


私は私でここにいるのに、自分が人として人じゃないと実感した。

肩がカクンと落ちてため息が出る。


このやりきれない思いをどうしよう。

目の前には、仕事なのに起きない佐野さん。遅刻なんてしたら多くの人に迷惑かける仕事だろうに、すやすや寝てる。

呑気に見えて無性に腹が立ってきた。


ベッドに近づくと、佐野さんの目元から上しか出ないくらい布団にくるまっている。睫毛が長く羨ましかった。


目の下の隈から疲れてるだろう。もう少しだけ寝かさせてあげたい。とか、優しく起こしてあげよう。とかは、頭に無かった。


ただ自分の気持ちの解消の為のみだった。

すうっと息を吸い、出来る限りの大声で


「起きる時間過ぎてる〜!」


叫んでみてスッキリした。

布団がビクッっとして、もそもそ動きくしゃくしゃの頭の佐野さんがゆっくり起きてきた。


「おはよう…。女子高生…。」


少し掠れた声で寝起きのぼんやりした声で言われたけど、余計にいらいらしてしまった。


「早く用意しないと遅刻!」


「ふぁ〜い。」


あくびまじりの返事をして佐野さんはベッドにまた寝転んだ。


「起きて!起きて!」


力まかせに布団を叩いても、ポフンポフンと布団が凹むだけ。

なのに佐野さんは、クスクス笑いながら


「起きてるから。男の事情もあるから先に出てて。見たいならかまわないけど。」


は?


「事情…?」


佐野さんは下着一枚で寝転んでいる事から始まり、詳しく詳しく余計な事まで教えてくれたので、顔が赤くなり寝室に入る倍の速さでドアを摺り抜け退室した。


「そこまで言うなんて信じられない!」


うん。捨て台詞を残せただけ私は凄い。


しばらくして佐野さんが着替えてリビングに来た。

コーヒーメーカーをセットして、洗面所らしき所に行く。

リビングに戻ってからずっと私はソファーに体育座りで膝をかかえていた。


いつの間にか佐野さんがキッチンから戻り、私の前にマグカップが置かれた。


「どうしたの?」


寄り添うように隣に座りマグカップを傾ける佐野さん。


「なんだか私の中で、佐野さんが佐野扱いに変わりました。」


ゴブッとむせる佐野さん。


「いや、だってね。私、ドアを通り抜ける所で結構凹んでたんです。そこに男の事情の話でしょ?知らないまま純粋でいたかった…。」


マグカップから立ち上る湯気を見ながら言ったら


「知っておいて損はないでしょ。

まぁ、皆で作ってくれてるイメージがあるから崩れて佐野扱いかもしれないけど、佐野悠斗ととしても俺は頑張ってる。けど、家とか普段とかはやっぱり違うよ…。」


服に垂れたカフェオレをティッシュで拭きながら佐野さんは静かに言った。


「イメージとかは元から無いです。私としては佐野悠斗さんに興味も何も無かったから。普段もどうでもいいんですけど、詳しく男の事情をまだ知りたくなかっただけですね。」


ちらりと横を見ると、まだわからない様子のキョトンとした佐野さん。


「だから佐野悠斗とゆう人は、私には顔だけ知ってる佐野悠斗さん。

私の前にいる佐野さんは、別人みたいなただの佐野さんとしか見られない。

だだ、事情を詳しく知りたくなかっただけ。それを困るくらい詳しく言うから佐野扱いなの。」


「そうなの?」


話が通じたけれど納得いかない様子に見える。なんなんだ、大人なのに。


「テレビや雑誌で見かけるだけの人だし、有名人とはわかってます。

けど私こんなだから、やっぱり佐野悠斗って言われても佐野さんなだけだし。ごめんなさい。ファンならたまらないんだろうけど…。」


だんだんプライドを傷つけ悪いような気がしてきて気弱に話して俯いてしまう。

だって私は、もっと年上の渋い人が好きだもの。

佐野悠斗に興味もなく、友達が話てるのを聞いたりテレビの歌番組や雑誌で見かけるくらいだった。


「そうかぁ。」


不意に頭を撫でられる様な空気の流れを感じた。


「えっ?」


「真似してみたけどわかった?やってみたら出来るもんだね。さてそろそろかな。」


ピンポン


言葉の通りチャイムが鳴り、佐野さんがオートロックを解除してソファーに戻ってくる。


「玄関まで見送りにきて。仕事終わったらすぐ帰るからね。暗くなってからだから明かりは全部つけておくから。」


そう言って頬を指先でなでられた。


は?なぜにそんなに甘い?


ほらほらと、催促されて玄関で見送りに行く。


「行ってきます。」


ドアを開けて出て行き閉める時に投げキスされた。

その立ち居振る舞いに有名人のオーラをやっと感じて、更に帰りたくなった。


佐野さんのいない時間はリビングにいる事にした。

あまりウロウロしたくなかったし、食欲とかもなかった。

なので、座り心地の良いソファーのあるリビングで過ごしていた。


考えてみても、家族の顔がハッキリしてくるだけで寂しくなったので、ローテーブルの上の雑誌を移動したり読んでみたりしていた。

やれば出来たけれど、やる気にならなきゃ出来ないので疲れてしまった。


なので、テレビがつけられたので見ながら、ぼんやりソファーで過ごしていた。


それにも飽きてきて夕方前にDVDに挑戦したら運が良い事に作動した。


それは佐野さんが準主役のドラマだった。私好みの渋い俳優さんも出ている。


はじめ、渋い俳優さんを見ていたけれど、だんだん佐野さんを目で追っていた。

そこには、渋い俳優さんの弁護士の真面目な部下としてスーツを着た佐野さんがいた。


ここと全然違う…。

やっぱり、違う世界の人なんだ。


佐野さんが有名人である事を実感してしまった。

ほんとに、何で私ここにいたんだろ…。


佐野さんが少し遠くに感じられた。


DVDは取り替える事は出来ないので、そのままベランダに出てみた。


すんなり出られた外は風が気持ち良いい。

手を伸ばすとベランダの柵に見えない壁があった。


どこにも行けないけれど、室内とは違い外はいい。この部屋が何階かはわからないけれど、夜景が綺麗だ。


柵に腕を置いてもたれて流れる車のライトを、飽きもしないでいつまでも眺めていた。



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