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奇妙な関係  作者: ねこ
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5月からも佐野さんと私の都合が合えば、最低月に1回は会うようになっていた。


佐野さんが私のアパートの近くまで来たり、どこかで待ち合わせをしていた。

短い時間なら、私のアパートの近くの大きな公園を散歩して、時間があれば、佐野さんの車でドライブやレイトショーに行った。佐野さんの馴染みのお店に食事に連れて行ってもらったりもした。


前のように、佐野さんのマンションだけで会う事は無くなっていて、帰り際も私から佐野さんを部屋に上がるように誘う事もなかった。

佐野さんからの甘い言葉も空気も、夜桜のあの時以外は無いような二人の時間だった。


11月になると、そんな普通の男女の友達のデートのような時間を過ごす事が、私にはとても楽しみになってきていた。


いつからか佐野さんからのお誘いの連絡を待つようになり、佐野さんの事を今もまた心惹かれて好きになっている。


その気持ちは、私が高校生の時のように佐野さんの事ばかり考え、自分の気持ちに振り回され、佐野さんと佐野悠斗を分けて難しく考え逆らおうとするのとは違っていた。


小川に水が流れるのを見る様に、佐野さんと別れて時間をかけて一緒にいるうちに受け入れていた。

そして、いつかまた私の気持ちを伝えられたらいいと思い、好きな気持ちを暖めている様だった。


今まで、私からの連絡が途切れると佐野さんから連絡があるので、嫌われていないとは思っている。

けれど、私から佐野さんに別れ話を出して別れたので、今更また気持ちを押し付ける様な事は出来なかった。


私が素直になれない所は、変わらないままだった。


ほぼ毎日お互いどちらかがメールを送り、たまに佐野さんから電話があり他愛ない長話をする。

その中で、佐野さんと会う時間を持つペースも続く、落ち着いた関係の毎日を7ヶ月ほど過ごしていた。


そんな、11月下旬の金曜日の朝に佐野さんからのメールを受信した。


『おはよう。智恵ちゃん。

今夜8時くらいに仕事が終わるから久しぶりに会わない?

週末だし少しドライブでもしようよ。』


私は、今夜は会社の仲の良い人達と、飲み会の日だった。遅くなるつもりはないけれど、帰る時間は分からない。


佐野さんも、昨日はお昼の番組にゲスト出演して、年越しのカウントダウンイベントと、2月から全国の8ヶ所の大きな会場でライブをするとポスターで宣伝をしていた。

色々と忙しい中、連絡してくれたのだろう。


「おはようございます。


とっても残念だけど、今日は予定があるの。帰りが遅くなるから、ごめんなさい。ドライブ無理です。


昨日ね、お昼休みにテレビで佐野さん見たよ。

いつも格好いいけど、普段と違う感じも素敵だった。

ツアーも身体に気をつけて頑張ってね。」


今月は久しぶりに2回目の佐野さんからのお誘いだったので断りたくはない。けれど、飲み会は前々からの約束なので今更断れないし、行きたい気持ちもある。

仲の良い先輩達と話せる機会は、今までも仕事の悩みを解消できたから。


なので飲み会に行く事にして、佐野さんが気にしないように軽く断ろうと決めた。迷った事を隠す様に、いつもは佐野さんに絵文字一つないメールだけど、柔らかい文面で絵文字も散りばめて送信した。


『智恵ちゃん。調子悪いの?何か拾い食いでもしたの?前より変。


10時位まで、外でブラブラしてるから帰ったら連絡して。

智恵ちゃんも、たまにはライブ来てよ。』


これまでも、佐野さんに同じ様なメールを送信して「気持ち悪い」と返信がきたけれど、今日は「拾い食い」や「前より変」ときた。


「変なんて酷い…。智恵、泣いちゃう。調子はいいよ。ふふっ。


今日は会社の飲み会だから、約束ができないの。帰る時間がわからないから。

ライブはチケット取れたら行くよ。」


「前より変」と「気持ち悪い」のどちらがましか一瞬考えて、深く考えるまでもなく両方酷いと気が付いた。


佐野さんは、いつものメールの方が落ち着くらしい。けれど、これまでの佐野さんとのメールで、遊びの一種と分かっていたので、さっきより絵文字を増やして佐野さんにメール送信した。


『じゃあ、駅についたら連絡して。』


「ほんとに遅くなるので、今日は無理と思っていて下さい。部屋に着いたら連絡します。」


佐野さんからは、一文だけの返信があった。

いつもの事なので私は気にせず、また返信して飲み会に遅れたくないので頑張って仕事を済ませた。


飲み会のメンバーは8人だった。男性3人と私を含めた女性5人。

同期の女の子も1人いたけれど、後は先輩達だった。


私は聞き役が多かったけれど、みんなで食べて飲んで仕事の愚痴もあり、たくさん笑って喋った。


とても楽しいくて料理も美味しかった会は、9時半を過ぎた頃にお開きとなり、6人は2次会のカラオケに行く話しで盛り上がっている。けれど、頃合いを見計らって、一人の男性の先輩と私は一足先に帰る事にした。


その男性の先輩は、今夜は彼女のマンションにお泊りする予定と話しながら、私の隣を気持ち良さそうな酔いで歩いていた。

そして、先輩に彼女がいる事は知っていたけれど、彼女のマンションの最寄り駅が私と同じとも知り、それならと一緒に帰る事にした。


電車から降りると先輩は、携帯を操作していた。


彼女が今、電車に乗ったのでまだ時間もあるし、私が一応若い女の子で一人で夜道を歩かせない、と先輩が言ってアパートの前まで私を送ろうとしてくれる。


腕時計を見ると、10時半を過ぎている。佐野さんも、もう近くにいないだろうと思い送ってもらう事にした。


途中、先輩の彼女のとの待ち合わせが駅と聞いて、また駅まで戻らないといけないので申し訳なくなり断っても、先輩は「ここで一人で帰したら、俺が彼女に怒られる」と一歩も引かない。


先輩が私を送るには理由があった。

今日、彼女の部屋にのお泊りするのは、彼女の住むマンションの入り口に、最近よく変質者が出るからだそうだ。

それで、今日は飲み会で帰りの遅い彼女が心配になり、先輩が駅まで彼女を迎えに行き一緒に帰り泊まるそうだ。


そんな話を詳しく夜道で話してくれながら、小さな物音や影にさえ怯える私を見て笑ってからかいながら、アパートの前まで送ってくた。

そして、お互い挨拶を済ませても帰らずに、私がドアを開け中に入るまで、先輩は見守ってくれていた。


私は、この部屋から徒歩10分位のマンションで、そんな事があった事は知らなかった。


変質者の類にも会った事も無いので、先輩の話を聞いただけでビクビクしてしまう。けれど、ちゃんと送って貰えて安心できたし、知っていたら何か気をつけられるかもしれないので先輩に感謝した。


玄関で靴を脱ぎ小さな部屋に上がり、キッチンでお水を飲んで部屋着に着替えた。


そして、今日は会えないだろう佐野さんに誘いを断った謝りと、無事に家に帰った報告の電話をかけようと思った。


すると、バックから電話を取り出すと同時に玄関のチャイムが鳴る。


誰かが訪ねて来る予定は無かった。時間も時間だ。出たくないけれど、部屋の明かりが窓から見えるので居留守は無理だ。


先輩の話の変質者だったらどうしよう…。


ドアの向こうの人に、嫌な事だけしか思い付かない。そうしているうちに、今度は2回連打のチャイムが鳴る。


仕方なくドアチェーンをかけたまま、ロックを外し恐る恐るゆっくりとドアを開け始めた。


「智恵ちゃん?」


「え?佐野さん?」


思いがけず聞こえた佐野さんの声にドアを勢いよく開くと、ドアチェーンが大きな音をたてて仕事をしてしまった。

当然、佐野さんにも聞こえていてクスクス笑われてしまう。


「智恵ちゃん。慌てなくていいから、チェーン外してよ。」


「す、すみません。」


ドアを一度閉め、ドアチェーンを外して開いた。

そこには、茶系の革のジャケットに、黒のインナーと細目の濃い色のジーンズのお出かけスタイルの髪を切った佐野さんがいた。


「誰と思った?」


「…変質者。」


「智恵ちゃん。普通、変質者はインターフォンを鳴らさない事の方が多いと思うんだけど。」


呆れ顔で言う佐野さん。


確かに…。私はもしかしたら酔っているのかもしれない。

少ししか飲んでないのに、夜風が気持ちいい。


「元彼かとも思ってました。」


「え?夜桜の時の?来たりするの?」


驚いたような佐野さんがドアを手で押さえて、真面目な顔をして聞いてきた。


「そうです。来たりは無いです。今だに、たまに電話があるだけで。

夜桜の後には、恥をかかせたなと。お前と別れて良かったと言われました。やっぱり二股だったみたいだったんで、私も二股かける最低な人と別れて幸せだって言ったんですけどね。

あの後に彼女と別れたらしくて、電話があります。」


「二股だったって?」


佐野さんがまた、驚いたように聞いてくる。


「あの時に一緒にいた彼女が、夜桜の後にメールで謝りながら嫌味まじりに言って教えてくれて…。1月の終わりからだったらしいです。もう、友達やめました。

あ。佐野さんの事を私の彼氏って思ったみたいで、また捨てられないようにって嫌味な心配もしてました。よっぽど、佐野さんが好みだったんですよ。彼女、お洒落で綺麗だし…。」


駄目だ。危険だ。やっぱり、少し酔ってる。大丈夫なつもりだったのに。


飲み会も帰り道も楽しくてテンションが上がっていたからか、佐野さんに話すつもりが無かった事までペラペラと話してしまう。

それとも、会えるつもりじゃなかった佐野さんに会えて嬉しいからかもしれない。


どちらにしても、今日は佐野さんに帰ってもらおう。


「あの…。」


「ここで話してたら、近所迷惑になりそうだね。とりあえず玄関で良いから、入れてくれる?」


佐野さんがドアを押して狭い玄関に入って聞いてきた。狭いので距離も近く、私は靴を脱いで中にあがった。


「智恵ちゃん。もしかして飲んでる?」


「少しだけ。」


「今日は、男と一緒だった?」


「え?あ…はい。」


飲み会に男性はいたし、先輩もアパートまで送ってくれた。佐野さんは、私の返事に眉間に小さなシワを寄せてから、優しく言った。


「ねぇ、智恵ちゃん。俺、もう少し話したい。お邪魔していい?智恵ちゃんのカフェオレ飲みたい。それとも俺の車かマンションにする?」


「え?どうしよう…。けど、変質者も怖いしな。」


「変質者って?」


「会社の先輩が教えてくれたんですけど、ここから15分くらいのマンションに最近よく出るらしいです。」


「それで、最初にあんな事を言ったのか…。じゃあ、俺のマンションの方が智恵ちゃん安心だよ。週末は休みだろ?ゆっくりしてたらいい。一緒に行こう。」


ますます優しくなる佐野さん。いつもと違う誘いの言葉に私は慌ててしまう。

佐野さんの言い方が、泊まれとも聞こえた。泊まる事は、何かいけない事の気がした。


「いえ、戸締まりしてたら一人で大丈夫ですから…。」


「色々と心配だから智恵ちゃん一人じゃ駄目だ。なら、俺が上がらせてもらう。」


「いや、だってもう遅いですよ。明日も早いんじゃないんですか?」


「明日は、昼からだから大丈夫。上げるのが嫌なら、俺のマンション行こう。」


佐野さんは、これを私に食べさせたいとか、どうしてもドライブに付き合ってとか、強引になり引かない時が今までもあった。

別れてから気が付いた。今は、その時みたいだ。


どちらにしても、佐野さんの帰りは遅くなる。

私が佐野さんのマンションに行っても、私が帰る時は夜中になるだろうしタクシーで帰れば良いけれど、財布が厳しい。

佐野さんに送って貰えば、時間もかかり負担をかける。


なら私の部屋でカフェオレをご馳走して、帰ってもらったら、私が佐野さんのマンションに行って遅くに送ってもらうより良いかもしれない。


しばらく玄関で待ってもらい、少しウキウキして部屋を片付けはじめた。




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