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奇妙な関係  作者: ねこ
13/19

13


佐野さんが家を出てから、私は寝てしまい昼を大分過ぎた頃に目を覚ました。


情けない姿勢で「すいません」と、一人で謝りながらシャワーを借りて帰る時の為に用意しておいた服に着替え、荷物の整理もすませた。


そして、リビングのソファーにゆっくり座わり新品の腕時計を撫でた。そうして腕時計を見ているだけなのに、佐野さんからのプレゼントかと思うと「ふふっ」と、一人で自然と込み上げる笑みが漏れる。


嬉しいなぁ。腕時計だなんて。

学校にもつけていけて行けるように考えてくれてたなんて。


腕時計も指輪も期待してはいなかった。ぬいぐるみ位は、もしかしたら用意してくれてるかも知れないとゆう、淡い期待は頭を過ぎったけれど。


予想を裏切り、佐野さんは腕時計をプレゼントを用意してくれていた。私の学校だと指輪は先生に没収されてしまう。


私もプレゼントに、指輪も頭を過ぎったど佐野さんは付けれないだろうと、腕時計にして予算の都合でマフラーにした。

だから、佐野さんも考えて、私が普通に学校で身につけられる腕時計をプレゼントに選んでくれた事が、とても嬉しくてずっと腕時計を見ていた。


そんな腕時計を見ると、4時を過ぎている。

宝物になった腕時計が濡れてしまう事が嫌だったので、外してローテーブルに置き、お泊りのささかなお礼を佐野さんにしようと、夕食の準備を始めに元気を出してキッチンに向かった。


キッチンの冷蔵庫には野菜が人参、ジャガ芋、玉葱とブロッコリーがと生野菜があった。

失敗の少ない野菜カレーにしようと、昨日の夜に佐野さんに教えて貰った調味料の棚を見てもカレールーがない。変わりにコンソメの素を見つけたので、冷蔵庫のベーコンも材料に加え大胆に切りコンソメでコトコト煮込んでスープにした、


作りながら、家に帰るだけなのに寂しさが襲ってくる。

広いマンションに一人ぼっちだからかもしれないし、なかなか佐野さんが帰ってこなからかもしれない。


野菜を煮込んだスープは家族には評判がいい。佐野さんも喜んでくれる事だけを考えて、気を紛らわせた。


辺りが暗くなった頃に佐野さんから電話があった。


『もしもし、智恵?いる?』


「いますよ。」


『晩めしどうする?外に行く?』


外には行きたくなかった。佐野さんと居られる残り時間は少ない。

それなら、回りに気を使わないリビングで二人でゆっくりしたかった。


「ハンバーガー食べたいです。」


『え?それでいいの?』


「いいですよ。久しぶりだし。あ。野菜スープ作りました。」


『いいねぇ〜。温まりそう。じゃあ、買って帰る。』


そして、食べ切れないほどのハンバーガーとサイドメニューを買ってきた佐野さんに、野菜スープは好評だった。


二人でお腹いっぱいになって、テレビを見る。他愛のない話しをして二人で笑う。暖かいカフェオレを二人で啜る。


特別な事は何もないけれど、そんな風に二人で普通にくつろげる時間がとても幸せだった。


二人で並んでソファーに座っていられる時間が一番好きだった。


「…智恵。」


手を取られ何か置かれた。見るとカードキーだ。


「え?」


「いつ、ここ来てくれてもいいから持ってて。」


「でも…。」


カードキーを見ながら戸惑う私に、佐野さんが近づいてきて優しく口づけ角度を変えながら唇を食まれ、深まっていく。


カードキーを貰えて嬉しいけれど、それとこれとは別にしたい。私は胸を押し返した。


「もう、しないですよ。」


「わかってるよ。智恵としたいから、こんなキスをするんじゃない。智恵だからキスがしたくなるだけ。鍵も智恵と会う機会を増やしたいだけだよ。」


「は?」


「だから、身体目的で智恵といるんじゃないって事。沢山したけどね。」


悪戯っぽく笑う佐野さん。

この身体の怠さは、やっぱり沢山だったのかと溜息がでる。


けれど、ちゃんと言葉に出し、軽く抱きしめられ背中を撫でなれている。

こっそりと、身体目的かと気になっていた気持ちが軽くなり自然と笑みがこぼれた。


そして、帰りたくない気持ちを隠しながら、佐野さんの家を後にした。



次の日の朝は佐野からのメールだった。


『智恵。おはよう。

野菜スープ今朝も食べた。上手かったから、また作ってよ。俺も何か作るから。

また泊まりにきて。智恵がいない家は、俺には空っぽすぎて寂しいだけ。

また夜にメールするよ。』


それから、いつものようにメールと電話の日々。


佐野さんの仕事も順調らしく、大きな広告ポスターやCMで見かけと、楽しかったお泊りを思い出し自然と顔が緩んでしまう。


たまに、佐野さんの迎えでマンションにも行き会ったりもしていた。あのソファーで暖かいカフェオレを飲んで、二人で夕食を作って食べて帰るだけの日もあった。


会えば会うほど、会えない時の寂しさは大きくなってくる。

寂しくなると、佐野さんのDVDやCDをかけると余計に会いたくなるので、腕時計を眺めたり暖かいカフェオレを飲んで気を紛らわせていた。


そんな日々のを過ごすうちに、私は女子短大一年になった。


高校より電車で少し遠い短大。

新しい友達も少しずつ出来はじめ、少しずつ短大生活にも慣れ始めていた。



『おはようございます。


今日は、雨ですね。

月曜だし、なんとなく気分が落ちます。


お昼の友達とのランチを楽しみに学校行ってきます。


今日も一日頑張りましょう。』


『俺は、今日は雨に濡れないといけない。この季節だから、まだいいけど。

女子大生のランチに、ぜひ俺もまぜて温めて癒してくれ。』


今朝もこんなメールのやり取りを私達がしたけれど、周りは違っていた。


いつも一緒にいるくらい、仲が良くなった友達の真美ちゃんは、携帯で彼氏の写真を見せてくれる。聞けば、近くの有名大学で同級生らしい格好良い人。


「…ちゃんと話したのに。嫌味なかんじ。たっくんだって行くのに。」


何故かぷりぷり怒って絵文字が動くメールをみせてくれた。


『まぁちゃん。今日、飲み会だったっけ?浮気したいの?俺を寂しがらせたいの?

駅まで迎えに行くから帰る時は連絡して。』


確かに、言い過ぎな所がある。


「真美ちゃんの事が心配なだけなんだよ。私の今朝のメールって、ほら。」


真美ちゃんをなだめて、私の今朝の絵文字の無いメールを見せた。


「う〜ん。大人のメールだね。疲れてるから、智恵ちゃんに会いたいんだよ。」


そう言って真美ちゃんは、怒りを静め小首を傾げて「写真もいい?」と聞いてくる。あるけれど見せられる訳もなく、ごまかしてしまった。


私が周りより少し厳しい女子高だったからか、短大は余計にオープンに感じる。


お花見に彼氏と友達と一緒に行ったの。楽しかった。

昨日、彼氏と遊んでお泊りしたの。

今度、初めての彼氏と初めてデートするの。どこに行ったらいいかな?


そんな、友達の話しを聞く私は遠距離の彼氏のがいる事にしていた。話を聞き普通に答えながらも、内心は思っていた。


お花見は、車の中から夜桜を見ながらハンバーガーを食べたよ。

初めてのお泊りは、生身じゃなくてドキドキより怖くて泣いていた。

初めてのデートと言えるのなら、夜に高台の公園を散歩したよ。



そんな私は、友達に「どんな彼氏?」と、聞かれても「年上で背が高くて優しい人」と答えている。


いくら私が佐野さんを変態ちっくな所があると思っていても、言えば付き合っている私も変態ちっくに見られてしまいそう。


正直に佐野悠斗が彼氏だと話せば、いまでも平凡で若い男性十人のうち一人が「可愛い」と言ってくれたら嬉しいような私は、きっと周りに頭の痛い子だと思われてしまうだろう。



佐野さんは、春頃から更に人気がでたのか、友達の話題や主演ドラマや雑誌で見かけて仕事が順調そうなのが分かり嬉しくなる。

けれど、それに比例してメールや電話は減り、なかなか会えなくて私は寂しくなる。


そんな時に、新学期に楽しい夏の友達の彼氏との思い出をよく聞いてた。


佐野さんが普通の人なら良いのに。普通に会えたりデートできたらいいのに。

けど、年末の二泊三日のお泊りは幸せだった。


随分前の思い出で慰めてみても、お泊りのない今それを思い出すと余計に寂しくなってしまう。


素直に佐野さんに言えば、またお泊りも出来るかもしれない。けれど、メールで毎回連絡が少ない事を謝る佐野さんに、気を使ってしまい素直に言えない。


会いたさが募るばかりだけど言えない。会えば佐野さんは、いつもと変わらない態度で寂しさは忘れられる。


周りが羨ましいしくせに、佐野さんに公園に誘われても、周りを気を使うよりはゆっくりしたいと思い、佐野さんと会うのは、マンションか夜だけの逢瀬だになっていた。


付き合い初めた頃より好きな気持ちは大きくなっているのに、素直になれない所も変われないまま、無いものねだりで一人固まっていた私だった。


そんな10月終わり頃、課題も増えバイトも始めた私は、少しずつ私は色々な事に疲れ始めていた。


頑張っても課題の進みの悪さに、ファーストフードの覚える事が多い慣れないバイト。


私は、疲れがピークにきてしまい無性に佐野さんに会いたくてたまらなった。


佐野さんと会って、暖かいカフェオレ飲んでゆっくりとしたい。


バイトも休みだったので、佐野さんを求めてマンションに行った。


初めて連絡も入れずに、佐野さんから貰った鍵を教えて貰ったように使い部屋にむかう。


佐野さんがマンションに帰るのは夜だ。野菜スープと何か作ってあげようと揺れる買い物袋の重さに、気持ちも楽しくなる。


エレベーターを降りた所で、佐野さんの部屋のドアが開いているのが目に入る。


え?佐野さんいるのかな?


気持ちが弾んだ時、いつかのスクープのモデルさんが手を振りながら佐野さんの部屋のドアから出て二人がキスをして微笑み会っていた。


頭が真っ白になり動き出した足が止まり、ドアが閉まると慌ててエレベーターの方に向き直り、バックの中で何かを探す振りをしてやり過ごしながら頭の中は疑問と不満で一杯になる。

『アルバム制作で曲を作らないといけない。

なかなか今回は難しい。

連絡減ってごめん。明日の夜は部屋にいる。俺、智恵に会いたい。』


佐野さんからそうメールがあったのは昨日。


なんでキスしてたの?今までも、私は我慢してたのに…。

部屋にいるのは夜って言ってたのに、なんでこんな時間にここでモデルさんと会ってるの?


やり切れない思いのまま、その場にしばらく佇んで私は家に帰った。


『今日は忙しかった?大好きな智恵に会いたかった。また連絡するよ。』


夜に、来たいつもの様な佐野さんからのメール。


嘘つき。明るい時間からモデルさんと会ってキスしてたくせに…。


疑うばかりより、せめてメールで聞こうとしたけれど上手く文章にならず、余計に疲れて悩んで疑って諦めて別れの予感がしてしまうだけだった。



一週間後、友達数人のランチで彼氏の話題で盛り上がる中「いいなぁ…」とこぼした元気の出ない私。

それを心配してくれたのか食事に誘われた。


「そんな時はパーっと騒ごう。いい出会いもあるよ。」


「いや…。別れた訳じゃなくて…。」


「上手く行かない時は愚痴って騒ごう。」


私もその気になって行ってみたら、席に着いてる男性達。合コンみたいだった。

驚いて友達に聞くと

「ごめん。騙すような事して。人数足りなくて。」

両手を合わせて謝られ帰ると言い出せず席についた。


「きゃあ。いいですね〜。私も行きたい。」


「じゃあ、今度行こうよ。計画しよう。」


下心があるのか、ただ楽しいのか…周りがいつもと違うテンションの中、私は一人烏龍茶を飲みながら食べに走る事にする。

なかなか、誰が狙いなのかあからさまじゃない楽しい飲み会の雰囲気だった。


「智恵ちゃん飲まないの?」


そんな私に、隣の人が声をかけてくれた。格好良いとかではなく、人の良さが滲みでてる合コン相手。


「え?飲んでますよ。烏龍茶ハイに見せかけた烏龍茶を。飲めないんです。」


「ずっと食べてるもんね。幸せそうに食べてるから目が離せなかったよ。」


「いやぁ。それほどでも。」


穏やかな笑顔のその人に私も笑顔になり、食べる事に集中していた姿を見られていた事に恥ずかしくなる。


「駄目ですよ。智恵ちゃんは私と語るんですから。」


困ってると思ったのか、さっき謝った友達がテンション高く間に入ってくる。


そんなタイミングで私の携帯がなってしまった。



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