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奇妙な関係  作者: ねこ
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クリスマスまでは、佐野さんと会える事はなかった。


12月は私から佐野さんにメールを送っている事もあってお互いのメールの数は増え、月初めに一度だけあった電話で長話ができた。


だけど、クリスマスのお泊り予定の楽しい悩みに忙しくなり、それほど寂しさは感じないでいられる。


プレゼントは、マフラーにした。佐野さんが一番身につけてくれそうだったからだ。

第一候補は、腕時計だったけれど、私の予算の腕時計では佐野さんが身につけると、誰かにみられたらイメージダウンしそうな品物ばかりだったので止めにした。


お泊りの用意も、楽しくてあれこれバックに詰めていると一泊なのに二泊三日のような量になってしまう。

佐野さんに、いつもの朝のメールでそうなった事を知らせた。


『おはようございます。

今朝も寒いですね。


お泊りの用意をしていてトランプやお菓子や色々と詰めていたら、二泊くらいの大きさになりました。頑張って小さくします。


クリスマス楽しみにしています。

お互い風邪ひかないように気をつけましょうね。』


友達にはもう少し砕けた感じの絵文字の無いメールだけど、私のメールは年寄り臭いとよく言われる。

可愛らしく絵文字を使えば、佐野さんに気持ち悪いと言われた。

文面を見て、たまには気持ち悪くない程度に可愛らしくしようかと思っていたら、送信してしまった。


佐野さんからの返信は夜遅くだった。


『二泊してくれるなら、そのままの荷物持ってきたらいい。

俺は智恵と二回も朝を迎えられて、仕事から帰ると知恵が居てくれる夜があるから嬉しい。


一泊だけなのなら、智恵が手ぶらで俺の所に泊まりに来てくれるだけでいい。

そうしたら、智恵が持ってきた荷物なんかに気を取られず、俺だけを見る楽しくて密な時間を過ごせるから嬉しい。


家にある俺の服も、日常の物もあるから使えばいい。

荷物のことで悩むより、俺の事だけを考えて、その日を楽しみしていて欲しい。


さすがに下着は用意出来ないけど。

知恵に似合いそうな下着を用意するのも楽しいかもしれない…。二泊なら二組の下着か…むふふ。』


久しぶりに佐野さんから、長文がきた。


お泊りが佐野さんも嬉しいんだと分かり、更に楽しみになった。読み進める文面に一人照れてしまっていた。

けれど最後の方で冷静になり、下着だけは絶対余分になるくらい持って行こうと、携帯を閉じて箪笥の引き出しを引いた。


クリスマスにお泊りするには、私は頑張らないといけなかった。頭の中で怪しまれないように練習をする。


そして朝、弟と朝食をとりながらお弁当を包んでいる母に言った。


「お母さん。25日、さっちゃん所に泊まりたいんだけど。」

中学からの友達のさっちゃんには、アリバイ作りをお願い済みだ。ありがとう。さっちゃん。


「え?どうして?」


母は驚いていた。今まで、さっちゃんの家に泊まりに行った事もあるのにこっちが驚きだ。


「俺も冬休みになるし、26日に中学から一緒の友達の所に泊まる約束してるんだけど…。」


私に便乗して高校一年の弟まで言い出して更に驚いていた。

そして、母は困ったようにしてカレンダーを見てから言った。


「あ、いいわ。行ってらっしゃい。」


母は26、27日と平日が休みの父と温泉に行こう計画していたそうだ。年末だけど、頂きもののチケットの有効期限が今年限りだから、もったいないからと行く事にしていたらしい。


「どうしよう…。私、27日も遊びに行って遅くなるかも知れないんだけど…。」


思いもかけず嬉しい偶然だ。

とうしようが口に出てしまったけれど内心ドキドキしながら、無い予定を言う私に母は一言だった。


「あまり、遅くならないようにね。」


こうして、佐野さんに二泊して良いか聞いてみると嬉しい返信がきた。


『本当?じゃあ、ゆっくり出来るな。かまわないなら二泊してよ。27日の仕事は朝が4時で早いけど、帰りも夕方になると思うよ。』


嬉しい返事をもらいお泊りが二泊三日になった。



25日の夜は佐野さんと、高校の近くで、夜に待ち合わせをしていた。


家に怪しまれないように普通を気にして、Vネックのよそ行きのニットにお気に入りのミニスカートと、もこもこブーツにダウンを着た。普段すぎるけれど仕方がない。


そして。楽しみで待ち切れずに早目に家を出てしまった。なので、駅前の書店や高校の近くのコンビニや時間を潰して、クリスマスだし小さなホールケーキも買ってしまった。


待ち合わせの15分前に待ち合わせ場所に着くと、佐野さんの車がある。

嬉しくなってしまって足早に運転席に回ると、ドアが開き佐野さんが降りてきた。


「早いね。智恵。ケーキ買って来てくれたの?荷物は後ろに乗よう。」


私の二泊にしても大きな荷物を見て、佐野さんはいつものようにクスクス笑い車に乗せてくれる。


「じゃあ、行こうか。」


二人で車に乗り込みベルトをしめると、佐野さんは車のアクセルを踏みこんだ。


すぐにマンションに行くのかと思っていたら、周りの景色が違う。佐野さんに行き先を聞いても教えてくれない。


着いたのは、私は来た事はない高台にある公園の夜景の綺麗な駐車場。夜景を見ていたら、佐野さんは車から降りて助手席のドアを開けた。


「ここより歩いた方が綺麗に見える所があるんだ。」


私を車から降ろして手を繋ぎ歩き始めた。並んで歩くと佐野さんの肩までしか私の背がない事に気が付いた。


見上げた佐野さんは、深目にかぶったニットの帽子に黒のダウンとジーンズとインナーで堂々と歩く。暗くてもそこそこ賑わう場所に私の方が周りの目を気になり聞いてしまう。


「…大丈夫ですか?」


「周りを見てごらん。暗いし目に入ってないから大丈夫。クリスマスだしね。」


その言葉に周りを見ると、デート中らしい二人の世界の彼氏彼女ばかりだ。少し安心出来たら佐野さんが繋いだ手にドキドキしてしまう。


佐野さんと着いたのは、人気の少ない展望台だった。

柵に寄り掛かるようにして見た夜景は大小様々な光が散りばめられていて、いつか見たような車のライトの流れまで幾筋もある。冬の澄んだ空気と辺りの暗さと広がる夜景。


「綺麗だね…。」


佐野さんは、私の後ろに立ち両腕で私を囲むように柵を持った。


「綺麗だろ?たまに来るんだ。ぼーっとして見てた。」


私の頭の上から聞こえる佐野さんの声にドキッとしてしまった。

付き合い始めて初めてのお出かけだからか、久しぶりに会うからか、今日はドキドキしている。周りの大人の二人を盗み見て、自分が子供だと恥ずかしくなった。


けれど、もう夜なのに一緒にこれからも佐野さんといられる事が嬉しくて、黙って綺麗な夜景を飽きる事なく見ていた。


そんな私を佐野さんが柵から手を離して抱き締める。


「智恵。そんなに夜景が好きだったの?」


いきなり回りこんできた佐野さんの腕に、私の顔が赤くなってくる。取ってつけたような返事になってしまった。


「夜景なんて見る事なかったから…。佐野さんのオススメだけあって綺麗ですよね。」


「喜んでもらえて嬉しいけど、そろそろ俺を見て…。」


夜景を見たまま答えた私の耳元で低くゆっくり囁かれて、肩をピクッと竦めて佐野さんを見上げる。


「久しぶりに会えたのに、他ばかり見るなよ。」


佐野さんに切なそうに言われて、啄むような口づけをされて視線が絡まり合った。


「夜景は、もういい?もう、家に帰りたい。あ、食事はどうする?」


言いながら佐野さんは、頷いた私の手を取り歩き始めた。


「ご飯もお風呂も済ませてきました。少しお腹すいたかな?」


「へぇ〜。」


「だ…だって、ご飯もお風呂も済ませて友達の家でパジャマパーティーの予定だったから…。」


からかうように笑う佐野さんの声に私は、そんな事を期待して済ませて来た訳じゃないと言い訳をする。


「ま、明日は休みだし夜は長いからね。」


クスクス笑う佐野さんは妖しく答えただけだった。



マンションに着くと佐野さんが荷物を持ってくれて部屋に入った。

リビングで私はケーキの箱をどこに置こうかと、キョロキョロしてしまう。


「智恵。ピザでも頼む?飲み物は水しかないけど…。ま、コンビニ行ってくるか。」


ほとんど佐野さんが整えた、デリバリーとケーキと飲み物で近況報告しながら遅い夕食を取った。


「お腹いっぱいだからケーキは明日にしようか。カフェオレなら飲める?」


二人で片付けを済ませ、佐野さんがコーヒーをセットしてシャワーを浴びに行った。


そして、一人になって知らず知らずにしていた緊張がとけてしまう。

広々としたお気に入りのソファーで、お泊りの事を考えてばかりで最近寝不足だった私は、知らない間に寝てしまっていた。


お腹が満たされ、緊張にも寝不足にも勝てなかった…のかも知れない。



パチリと気持ち良く目が覚めた時に、私はソファーに横になり毛布をかけられていた。テレビの音がするので、見ると知らない洋画がかかっている。

あたりを見回し、佐野さんの家だと気が付いて、急いで身体を起こした。


「シャワーの間に寝てるなんて、信じられない…。」


呆れたような佐野さんの声が聞こえた。フローリングにクッションを置いて、私のお腹辺りの所に佐野さんは座っている。


「絶対、遠足の前日になかなか眠れないのに早起きして、当日のバスで寝てたでしょ。」


私と目を合わせた、佐野さんに頭をポンと軽く撫でられた。


「ごめんなさい…。」


恥ずかしくなり目元まで毛布で隠して謝った。


「寝てたのは一時間ほどだよ。コーヒー冷めたから冷たいカフェオレなら出来るけど飲む?」

もう、無言で頷くしかなかった。

遠足の例え話しも大当りだったから、更に恥ずかしくて毛布にくるまりまた寝転んだ。


佐野さんがローテーブルに置いてくれた、冷たいと言っていたカフェオレには氷は浮いてなかった。牛乳の冷たさで、寝起きの喉に心地好よかった。


「智恵。もう寝る?」


無言でソファーの上に座り膝に毛布をかけていた私に、テレビを見ていた佐野さんが聞いてきた。


時計は、1時を回っている。

目は冴えて頭も冴えたのか大事な事を思い出した。


「あの…。」


毛布をよけて、ソファーを降りて立ち上がると佐野さんに手を取られた。


「どこ行くの?」


「あの…。荷物。着替えとか…。」


見下ろす型になっていた佐野さんの眼差しは、さっきとは何か違って見えた。




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