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奇妙な関係  作者: ねこ
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11月には、佐野さんからの電話と木村さんの迎えで、車の中だけれど2回も佐野さんと会えた。


私の中の生理不順騒ぎもあって、スクープは気になるけど悩みはしていなかった。


一回目に会ったのは月の中頃だった。


佐野さんからの連絡も少なくなっていた中で、マンションの近くだった。

木村さんが席を外してくれた、夜の車の中で二人後部座席で話しをした。短い時間だったけれども楽しい一時。


佐野さんは、ドラマの撮影も始まっている中で番組宣伝などであちこちテレビに出てたり、本当に忙しく色々と頑張っていたと教えてくれた。


私も先月、朝の芸能ニュースでにこやかな佐野悠斗を見た。

それで佐野さんに会いたくなり、連絡するかどうか一日中悩んだ日があった事をポロっと言ってしまう。


「本当に?そんな時はメールで教えて。夜遅くにでも電話出来るようならするから。

帰ったら台本覚えたり、すぐ寝ちゃってて約束できないけどさ。時間が不規則すぎるのもあって、最近なかなか連絡出来なくてごめんね。」


私がそんなに寂しそうに見えたのか、佐野さんは言いなから肩を抱き寄せ優しく口づける。唇を舐められた所で私は、逃げるように離れた。


「智恵…。」


不満丸出しの佐野さんだけど、私には無理だ。


「だって、木村さんが外に出てくれてるのに…。私は、メールなら時間はいつでも大丈夫ですよ。モデルさん程、忙しくはないですから。」


いつも通りの佐野さんの態度に、私だけ気にしていたのかと少しいじけて嫌味ったらしくなってしまう。


「気になる?」


佐野さんの問いが木村さんかモデルさんか分からなかったけれど、私は両方とも気になっていた。


「なりますよ。」


「じゃあ、膝枕して。あ〜。いいねぇ。女子高生の膝枕。たまらない。」


言葉より早く勝手に私を膝枕にして、しみじみこぼして私の腰を撫でる佐野さん。私が女子高生だから良いのかと聞きたくなった。


けれど、柔らかそうな髪に手を怖ず怖ず差し入れて佐野さんの前髪を額全開にしながら、ふざけるように撫でるしか出来ない。

佐野さんに少しでも触れたかったけれど上手く出来ない私には、それが精一杯だった。


そんな中、膝枕のまま私の手を嫌がる事もなく気持ち良さそうに目を細めて佐野さんが教えてくれた。


みんな頑張ろぜ!大事な人がいるだろ。大事な人を守って行こうぜ!


みたいな気持ちで勢いでドラマの主題歌も作ったと。


そんな主題歌のドラマの内容は、私が大好きな渋いベテラン俳優の弁護士さんが、佐野悠斗や皆で色々な問題を解決していく内容だ。


それが佐野さんが、みたいな気持ちと勢いで作った歌が、あの渋い俳優さんのドラマの主題歌なんて…。なんだか渋い俳優さんに申し訳ない気がした。


それに、歌を作るには一人で密室に篭り悩みながら作る大変な作業のイメージが私にはある。


「そんな感じでいいんですか?それで、あの渋い俳優さんのドラマの主題歌が作れる物なんですか?」


主題歌を作る方法なんて、更によくわからないので聞いてみた。


「ピンときたからワァーと勢いのまま作って、考えて変えて完成できたんだ。なんとなく楽器を触って弾いてて、おっ?って思って出来る事もあるし。

いつも、そんな風な作り方ばかりでも無いけどね。結構、大変で難しい時や所もある。」


佐野さんは考えながら答えてくれたけど、聞いた私の方は考えてもよく分からない。


ただ、曲はヒットはしている様だし良い歌なんだろうと、一般人の私は余り考えない事にした。

私もドラマの主題歌は好きだった。ドラマが始まれば、渋い俳優さんに夢中になるけれど…。


私が聞いて、もしかして私の事?と思ってしまった歌詞があった事は、違ったら恥ずかし過ぎるので内緒にしておいた。


今から、アルバム制作とツアーの案も出ているらしい。嬉しいけれどまた大変だとも言っていた。


「早くあのソファーで智恵とゆっくりカフェオレ飲みたい。それでラブラブして癒されたい。」


その言葉も仕事の事を話してくれた事も、とても嬉しかった。


「私も、早くソファーと佐野さんのカフェオレに会いたいです。」


けれど、そんな可愛気のない答えをしてしまう。


「智恵。冷たいなぁ。」


「木村さんがどこにいるのか分からないし、ここじゃあ恥ずかしいし、仕方ないじゃないですか。」


私の言葉にクスクス笑ってた佐野さんが、身体を起こして座った。


「じゃあ、俺の家ならいい?覚悟しとけよ。離さないから。」


私の耳元に口を寄せて、甘く低く囁いて真顔で私に強い眼差しを向けた。


そうして、その日は別れたのだった。


その翌日から、私は他愛ない内容のメールを一日一通は佐野さんに送りはじめる。


そんなに仕事が不規則で忙しいのなら、佐野さんは携帯を放置している時間の方が長いのかもしれない。

それだったら、私がメールをしても佐野さんの仕事の邪魔にはならないかも知れない。常識的な時間なら睡眠の邪魔にもならないだろう。


そう考えたからだ。誰も言ってはくれないけれど、私は自分で気が付いた私は賢いと思った。

佐野さんの疲れを癒したいとか、佐野さんが大好きでたまらないから、とかじゃなかった。


今まで私からメールもあまり送っていなかった。けれど今は、送らなければ佐野さんとの関係が無くなってしまうかもしれない。

無くなるのは、やっぱり嫌だった。


だから寂しいと思いながら一人でいるより、少しだけ素直になって私もメールから頑張る事にした。


メールからと言っても、メールしか出来ない現実に寂しくなりながら。

今は私に甘く優しい佐野さんでも、近いうちに別れの言葉が出るんじゃないかと怯えも抱きながら。


『おはようございます。今日はいいお天気ですね。


私の女子高生生活も残りわずかですが、私が女子高生じゃなくなったら膝枕はどうするんですか?


今日もお仕事頑張って下さいね。』


朝の電車を待ちながら、素直になろうと送ったメールは、変な方向に素直になってしまった。


そうすると、学校から帰る頃に開いた携帯画面に佐野さんから返信がある。嬉しくなりすぐに開いてみる。


『何歳の智恵でも俺は好きでいるよ。ずっと膝枕してよ。だからたまには、ドラマの俺にも注目してね。』


隠していた事までばれていた。

なので、次の日には、少し変えてみた。


『佐野さん。おはよう。

今日も一日お互いがんばりましょう。


渋いベテラン俳優さんに


サインとても嬉しかったです。ありがとうございます。


と、出来たら御礼を伝えてもらえたら嬉しいな。

お願いしちゃってごめんなさい。


佐野さんの主題歌を聞いたらドキドキする所もあるから、大好きです。』


文体を柔らかく、普段使わない慣れないハートや絵文字もちりばめてみて使ってみた。


返信は、昼前にあり、私はお昼休みに気が付いた。


『智恵。こんにちは。

何かあったの?朝のメールなにか気持ち悪いよ。


サインの御礼はしてるから安心して。

主題歌の歌詞には智恵への言葉も、自然と混ざった。


いつもの智恵が俺は好きだから。』


後半だけ嬉しい、微妙に残念なな内容だった。


『女子高生に気持ち悪いとか変なんて…。やっぱり佐野だ。

何もなく元気です。』


そんなメールのやり取りは続いた。


2回目に会う短い時間も遅くない夜の私のマンション近くだった。


佐野さんがメールで教えてくれた場所で窓をノックして車に乗り込むと佐野さんだけで木村さんがいなかった。


「あれ?木村さんは?」


「あんまり時間無いからって飲み物買いに行ってる。すぐに戻るってさ。」


溜息交じりに佐野さんが言った。言葉の通りすぐに木村さんは戻ってきた。


「智恵さん。佐野のわがままに振り回してごめんね。」


そんな木村さんを交えて、私はいつもと違う緊張をしながら三人で少し話をした。


「怒られそうなら、言い訳に使って。内緒ね。」


車を降りる時に、木村さんはお菓子やジュースの入ったコンビニの袋を、こっそり持たせてくれた。


コンビニに行って誰かと話をして遅くなったとゆう言い訳の元か?それともただのお土産か?


どちらか分からず、怒られる心配も無かったけれど、相変わらず私に過保護な木村さんの気付かいに嬉しくなった。


それから、スクープが落ち着いた12月になった。


メールのやり取りもお互い少ないながらも続いて、たまに佐野さんから電話があり先月より長く話したりしていた。


もう、佐野さんとは遠距離恋愛と似た物なんだと、自分で割り切って私は生活をしていた。


そんなクリスマス近くの夜に部屋にいると、佐野さんからメールが来た。


『今年のクリスマスには、8時に仕事が終わる。次の日は俺は休み。智恵。泊まりにこれない?』


携帯を落としそうになった…。

そしてカレンダーを見ると、クリスマスが土曜日だ。

嬉しい前に身体が固まって動きが止まってしまった。


佐野さんの家に、生身でお泊りは初めてだし、お邪魔するのも久しぶりだ。

短大の推薦も先日決まって受験勉強の心配もない。


私は、頭の中で「どうしよう。」と繰り返しながらも、お泊りに行く方向の「どうしよう。」にすぐに傾いて決定してしまった。


そして、心の中で親に嘘をついて泊まる事をひとしきり謝り、自分を納得させて消えない後ろめたさに蓋をした。


そして、急いで佐野さんに短くメールを作成した。


『分かりました。』と。


それを送信して、一人計画を練っていると電話の着信音が響いた。名前を見ると佐野さんだ。


『もしもし、智恵?』


ひそひそ話す佐野さんの声。


「そうです。忙しいんですか。」


私も釣られて、ひそひそ早口になる。


『そう。これから打ち合わせ。だから少しだけ。分かりましたって何?』


「行けるように頑張ります。って事です。」


『メールが冷た過ぎてわからなかった。』


クスクス笑う佐野さん。

そう言われてみたら、あの一文だと冷たいし、答えはどちらにもとれる。


「急いで返信しなきゃとばかり思ってて。そんなにいつも冷たいですか?」


急に嫌がられてるんじゃないかと心配になった。


『冷たい時もある。だけど、それよりも可愛いし気楽だし、智恵が好きだから一緒にいたいと思う。智恵といると楽しいよ。あ。ごめん。もう切らなきゃ。じゃあ、またね。』


短い電話の最後の佐野さんの言葉は、電話越しでも久しぶりに甘く響いた囁きだった。


随分短い電話だったから、たまたまメールのタイミングも合って残り少ない時間に掛けて来てくれたのかもしれない。

佐野さんも楽しみだから、メールの確認の電話を掛けてくれたのかもしれない。


そう考えたら嬉しくなって、一晩寝ずに計画を練れそうな気がした。


けれど、佐野さんの仕事の様子が私には分からないから、疑えばキリがない。だから、信じきれない気持ちもあった。


私に甘いのは今だけ。

佐野さんの周りには、綺麗で可愛い人が沢山いる。

そのうち、飽きられるかも知れない。


そんな思いは、今もまだ消える事は無かった。




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