新たな生活
「ーーーぁ?そういや、お前異世界から来たんだよな?なら何で俺ら普通に会話できてんの?」
朝日がさしこむ俺の部屋で、とりあえず貸した俺の服に着替えてるラインに問う。
というか、結局俺はどーにも男と寝るのは根本的なとこで無理だったというかなんというか。
そんなんでラインに「俺、床で寝るからラインはベッドで寝ろよ」とカッコよく言い放ち昨夜は寝たのだ…とうまく事は運ばなかった。
ラインは「恩人を床で寝かせるなんて俺のプライドが許さん!」だの何だの言って結局俺がソファで寝るという事で約2時間に渡るクソ長ぇ暴論の片はついたんだが…
ーーー腰いてぇ。
身体中が痛くなるのは承知の上だったが、にしてもいてぇ。
…生々しい濡れ場になるよりはいいけどさ。
「ーーーそういえばそうだな。それは魔術による付加能力じゃないか?」
「そうかよ。ったく、何でも魔術で片がつくってのは、いいモンだな」
着替え終わったラインを確認して、大きな伸びをした。
「さて…と。飯つくんのも面倒くせぇし、どっか行こうぜ?ついでにこの世界が何たるか、教えてやるよ」
そう言うと、正に華のような笑みが帰ってきた。
「ありがとう、源馬」
ーーー反則だろっ…!
*○*○*○*○*○*○
「…」
「おお、このフランクフルトとかいう物…なかなかに美味だ。素材は何…どうした源馬、俺の顔に何かついてるか?」
もぐもぐとフランクフルトを頬張るラインは、俺の服を着ている。
ここ重要な、俺の服。
身長は変わんないから別にサイズに問題はなかったが…
ーーー俺の服なのに俺より似合うってどういう事?
やっぱアレか、イケメンANDスタイル良しからの細マッチョが引き起こす悲劇か?あぁん?
ちくしょー、だから嫌なんだ!イケメンと歩くのは!
さっきから歩く度にすれ違う女たちはラインを見て黄色い歓声をあげてるし。
昔は俺だって黄色い歓声浴びてたんだぞ!俺もそこそこのイケメンなんだから!(自称)
「…何でもねーよ…フランクフルト、気に入ったようで…」
「…げっそりしてるな。大丈夫か?」
ラインは、いきなり俺の前髪をかきあげ額をぶつけてきた。
と同時に湧き上がる周囲の耳が痛くなる様な悲鳴。
「どわぁあああーっ?!」
「げ、源馬っ?!」
即座に後ろに飛び上がった俺は勢いよく真後ろの電柱柱に頭をヒット。
ホームランでも打ったのかって位いい音をした俺の頭蓋骨。
漫画だったら頭にヒヨコが飛んでる所だ。
ーーーじゃなくて。
「ばっきゃろーー!お前は俺をホモという名の変態に仕立て上げるつもりか?!」
「ほ、ほも?」
「ボォーイズラブだよ!見ろ周りを!みんな非難の目で見てんじゃねーか…って、あれ?」
「何あの人たち男同士であんな事しちゃって…」という非難の目を覚悟してた俺は周りの目を、状況を見て驚いた。
「やばーーー!えっ、カッコいい人同士とか超絵になるんですけどー!」
「つかヤバくね?!あたし黒髪の人タイプー!」
「マジー?あたしあっちの青髪の人っ…きゃーこっち見てる!マジヤバいんですけど!」
「え?え?話しかける?でも邪魔しちゃ悪くない?つかもっと見たいー!」
そう、ギャル共が俺たちを見てきゃっきゃきゃっきゃ言っていた。
「…非難されてる、か?」
「思ったより…されてないっつーか…もっとやれって目線をかんじるっつーか…」
とりあえず逃げようと目線で会話をし、その場から俺たちは去った。
それからとりあえず近場のショッピングモールに行き(休日に男2人で)テキトーなファミレスに入る事に。
ーーーおい、そこのイケメン。何wktkしてんだこら。店員さんがお前ガン見してんぞ。目ぇハートだぞ。よかったな、けっ。
あ、ちなみにwktkというのはワクワクテカテカの略である。
読者に配慮を忘れない俺。イケメンだろ。心だけは。
「こちらへどうぞ。」
「どうも。」
「あ、いえっ…(ポッ)」
ーーーほらな。礼言うだけでラブワールド全開になるわけだ。
いやー恐ろしいね、イケメンってのは。
そんでまぁ、料理頼んで。これからどうすんのかを話し合う事になったわけだが…
「ーーーでさぁ、これからどうすんの?」
「ーーーそうだな。とりあえず、元の世界に戻るてだてを考えながらこっちでも生計たてなければならない。まずは家、か。」
優雅な手つきでスパゲッティをすする。
元の世界で、やっぱこういう洋食が多かったのだろうか。
貴族っぽい服きてたしなぁ…
「一口に家っつっても、お前。身元証明できるもんもなけりゃ、普通の家には住めないぜ?」
「…」
ーーーぁ、本気で悩んでる。
そりゃそうか。いきなり寝て起きたら異世界にいましたなんてな。
暮らし方もこの世界のノウハウも、ある程度教えたっつってもまだまだだし。
ーーーそれでも誰に頼ろうともせず一人で生計たてて、元の世界へ帰る方法探そうってんだからなー…
大した度胸じゃねーの。
こういう、目の前の壁がどんなに厚くても武器使わないで自分の力で壊して進もうとする馬鹿、嫌いじゃねぇなー。
心優しい俺は迷えるイケメンに手を差し伸べた。
「ある程度落ち着いて、元の世界に帰る方法が見つかるまでーーー俺んとこ、いれば?」
「あぁ、心使いありがたいが断る」
ラインのコンマ一秒おかない即答、そして一瞬の沈黙。
…いや、焦るな俺。
そう、例えこいつの返答が俺の予想の遥か斜め下をいくとしてもだ。
…オゥケイ。落ち着いたか?落ち着いたな諸君。テンパりすぎてなに言ってるかわかんなくなってきたが…大丈夫。
そう、俺は口を開いてこう言うべきだ。そうだろ?
「おんまえ…っ…こっの…バァァァアァァァァアァカかぁぁーー!」
うん、わかってる。ファミレス内のエブリワン、俺に注目してる事くらい。
「人がお前っ…手を差し伸べてるのに断るか?!なんか上滑り感たっぷりなんだけど俺!」
「源馬!そんな事はない。見ろ、皆がお前に視線を向けている。滑ってなんかないではないか。」
「お前なに?!素なのそれ?!」
「とりあえず、激昂しないで聞いてくれ。俺はこれ以上お前に迷惑をかけたくないんだ。見ず知らずの俺を一晩泊めてくれただけでも多大な恩を感じてる。更に源馬にこれ以上の重荷をかけるのは心苦しいんだ。わかってくれ。お前に俺のせいで迷惑をかけたくない」
「…」
ーーーまたコイツは、なんて義理堅い野郎なんだよ…
「…ライン、俺は別にお前の事を迷惑だなんて思ってねーよ。お前が俺と居んのがどーしても嫌だっつーんなら俺だって強制はしないさ。ただ、お前の事情を知ってんのは今この世界で俺一人だ。そうだろ?それにーーー」
ラインの見惚れてしまうような真紅の瞳をみつめる。
「目の前で困ってる奴がいんのに、突き放すようなマネはできねーよ」
っ~ぁー、我ながらクセぇよ!
だが、ラインには心打たれる何かがあったらしくしばらく目を閉じ、考え込んでしまった。
正直、この沈黙は耐えがたいが俺は自分の料理に手を付けながら、ラインの返答を待つ。
「ーーー源馬」
「ん?」
あんだけゴリ押ししといて「何?」と聞くのもどうかと思ったが、ラインは続けて綺麗な髪と共に頭を垂れた。
「ーーー俺を、源馬の所においてくれ」
「ーーー頭なんか下げなくていいよ。」
さて、一件落着!
とはいきませんで。
「その代わり、賃金を源馬に支払う。俺をおいてもらうにあたって。これだけは払わせて欲しい」
「働き口ならあるだろう。それなりの金を、お前に支払いたい…それでいいか?」
んなもんいいのに。と言おうと思ったが、こいつには通じなさそうなのでやめて置いた。
「ーーーわかったよ。よろしくな」
ホントに始まるのか。同棲生活。
後でこいつにぴったりのバイト探しておいてやろう。