俺と美人。
だりぃー。家帰るのめんどくせーなぁ…
そんな事を思いながら、俺「柳 源馬」はとぼとぼと駅から家の間を歩いてた。
一度も染めた事のない黒髪が夜闇に溶け込む。見よこのキューティクル…って見えないか。
駅から家までの道のりは、蛍光灯もないせいか異常に暗い。
多分、人がいても気づかないであろう。
そんな道を通れるのは、俺だからこそだ。
空手黒帯、全国大会優勝経験あり。剣道も同じく優勝したこともある。
…今やってねーけど。
昔の優越に浸りながら歩いてると、前方に人が見えた。
こう見えても視力はいい。
この暗い道を通れる理由だ。
「…え?」
思わず声が出てしまった。
向こうも驚いてるようだ。
無理もない。
その驚いた双眸から覗く瞳の色は、思わず見惚れてしまいそうな真紅。
人間離れした美貌に、海を思わせる髪色は毛先に向かってグラデーションがかっている。
ーーーこんなきれいな女(男?)を見て誰がおどろかずにいられるか。
そりゃ、声も出るだろ?
ーーーこっちみてるし。
ーーー話しかけてみようかな。
いやいや、誤解するなよ?決して声かけて仲良くなって美人とラブラ(以下略)フラグを立てようとか、そういうんじゃなくてね?
「ーーー貴殿」
「うぉおうっ?!」
いきなり話しかけられて変な声が出てしまった。
それもそうだ。話しかけてきてるのはあの美人。
ーーー変な喋り方する人だな。
でも間近でみても、やっぱ綺麗。
「おどろかせてしまったようだな。すまない。」
「あ、いえ…すいません。」
何で謝ってんだよ俺!
一人ツッコミをいれつつ、「俺に何の用ですか?」と聞いてみる。
美人は、バツが悪そうに「ぁー…それが、その…」としばらくしどろもどろしてたが、やがて
「…貴殿は…一人暮らしか?」
「え?」
「その、今夜は一人か?」
少し照れたように、美人は目線をあちこちに向けながら言った。
ーーーお。
「…今夜は…家に俺一人、です。」
ーーーまさか。
「…そうか。なら…今夜…」
「我を、貴殿の所に泊めてくれ」
ーーーフラグ立ったぁぁ?!!