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Lucky & Unlucky  ~アドベクシュ冒険譚~  作者: 暇犬
アドベクシュ冒険譚04章 ~遊探の旅路編~
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08 クロル、謎を解く!



「こっちだよ、こっち、早く、早く!」

 すっかり動かなくなってしまったカメジローの甲羅の中心に立ってクロルは手を振っている。彼が立っているのはつい先刻まで凝った意匠の《社》が鎮座していた場所であった。転倒の衝撃で土台から根こそぎ破壊され、今や見る影もない。

「クロル、どうしたのよ、一体?」

 訝しむ二人を呼び寄せるとクロルは甲羅の一点を指さした。

「二人とも、ここを見てよ」

 扉二、三枚程度の広さのその場所は、《社》があったせいか、日焼けの度合いが薄いものの、それ以外には特別変わった点は見当たらない。

「この場所、何か他のところと違うと思わない?」

 クロルが何故か得意げに尋ねた。顔を見合わせた二人は黙って首を振る。

「別にどうってことはない、只のカメの甲羅じゃないのか?」

「じゃあ、こうしてみたら、どう?」

 甲羅に手をかざし、クロルがマナを込める。と、甲羅の一部が僅かに赤く光を帯びた。アルティナが驚きの声を上げる。

「クロル、これって……、もしかして……」

「正確な事はよく分からないけど、多分、原理はボクの《鉄機人》の表面に施されていた《魔力吸収文様マジック・スウィーパー》と同じだと思う。どこかにあるとは思っていたけど、まさか、《社》の真下だなんて、思いもしなかったな」

「待って、クロル。貴方、これがあるって、初めから分かってたっていうの?」

「確信があった訳じゃないよ。ただ、おそらくそうだろうってだけで……」

「でも、よく、こんなもの見つけられたな、お前……」

 感心するザックスにクロルが答えた。

「何、言ってるんだい。初めて《サンダスト》に来た時、最初に疑問を口にしたのはキミじゃないか。『こいつら、何食ってんだろ』ってさ。忘れたのかい?」

「そうだったっけ?」

 キョトンとした顔で答えるザックスに、クロルは一つため息をつく。

「まあ、いいよ。それでその事に興味を持ったボクは、テントの子供達に聞いて回ったんだよ。カメ達が何か食べるのをみたことあるかってさ。こういう事は大人よりも子供の方が詳しいからね。皆、知らないっていうから、昨日は一日中たくさんのカメ達を観察して……」

 高台で腹ばいになっていたクロルの姿を思い出す。あれはそういうことだったのかと、小さく納得した。

「どうせ、キミ達のことだから、『クロルったら、まだまだ子供ね』とか言って、笑ってたんだろ?」

 図星をさされたザックスとアルティナは、慌てて目を逸らす。

「そ、そんなことないぞ……」

「そ、そうよ、大切な仲間を、こ、子供扱いなんて……」

 動揺を隠せぬ二人の姿にクロルは悪戯っぽく笑った。

「まあいいよ。その追及はゆっくり後回しにして……。とにかく、カメ達は何も食べないってことは確実らしい。じゃあ、ここで一つ質問。カメ達はどうやってこの大きな身体を動かしているのでしょう?」

「それは……、水を飲んで……かな」

 ヴォーケンの言葉を思い出したザックスの答えに、クロルは首を振った。

「確かにカメ達は休憩地のオアシスでも水を飲んでたけど、その量はホントに大したものじゃない。大体、大きな交易船を引っ張って砂漠を横断しようかってカメ達が、僅かな水だけで生きていくなんて無理があると思わない?」

「それは、確かに……」

 人間が一日に必要とする量の水も相当なものである。人間よりはるかに大きな身体のカメ達がそれほどに必要としたなら、砂漠のオアシスなどあっという間に枯れ果てるだろう。

「待って、クロル、じゃあ、もしかして……」

 アルティナは足元に視線を送りながら何事かを考えている。その姿にクロルはにこりと笑った。

「多分、それが正解だと思うよ、アルティナ」

「でも、それじゃ、このカメ達ってのは……」

 アルティナが驚いたような表情を浮かべ、言葉を詰まらせる。クロルが続けた。

「このカメ達、おそらく大気中のマナを吸収して存在し活動する『魔力生命体』なんだと思う」

「魔力生命体?」

「簡単に言えば生きたゴーレムみたいなものさ。ボクも師匠に昔話で聞いた程度の知識しか持ち合わせていないんだけど」

 甲羅に両手をついてそれを撫でさすりながらクロルはさらに続ける。

「昔、魔法を使って色んな生命を生み出そうとする技術があったってね。こいつらはその時の生き残りなのかもしれないな」

「そんな、バカな……」

「何、言ってるんだい。ザックス。君だって無関係じゃないよ」

「へっ?」

「遠い昔に君達フィルメイアの祖先が使役していたグリフォン……。あれだって『魔力生命体』の一つだって言われてるの、知らないのかい?」

 思わぬところで思わぬものの名を耳にして、目をぱちくりと見開いたままザックスは呆然と立ち尽くす。

「マジかよ……」

「いい加減、自分の部族の歴史に関わることくらい、きちんと知っておくべきだと思うな。特にキミ達の場合、《貴華の迷宮》……でのこともある訳だし……。まあ、ボクもそう聞いたことがあるってだけなんだけどね。何はともあれ、今はこの足元の《カメジロー》の方が問題さ」

 ほんの一瞬表情を陰らせたものの、すぐに元の調子でクロルは続けた。

「いまいち、よく話が見えないんだが……」

 魔法関係の話には全く疎いザックスは首をかしげる。クロルは得意げに胸を張ってさらに説明する。

「いつから、なのかは知らないけど、砂漠の民達は《社》と呼ばれる飾り物をこのマナの取得口の上に立てるようになっていた。初めは一族の守り手に感謝してとか、一族の権威を誇示するためにとか、そんなところだったのだろう、と思う。でも、そのうちお互いの部族でその大きさや見栄えを競いあい、その結果、大型化した《社》はほとんどのカメ達のマナの取得口を阻む事になったのさ。その結果、歳を経るごとにカメ達の力は削がれていった。特に《カメジロー》の飾りものは先代の族長が亡くなった時にさらに大きめのものに作りかえられたらしいから、《カメジロー》が急激に力を失っていった時期とピタリと符合する」

「皮肉な話ね……」

「原動力である大気中のマナを吸収出来ないんだから力を失う。じゃあ、そのマナを別の形で大量に補充したらどうなると思う?」

「それは……」

 三人は顔を見合わせる。クロルはさらに続けた。

「幸い、マナの取得口を塞いでいた《社》はブッ潰れちゃってむき出しの状態。さらにその場所に大量のマナの所持者が三人もいる……」

「クロル、貴方、もしかして……」

 アルティナの言葉にクロルは勝ち誇ったかのように、胸を張り高らかに宣言する。

「そう、ボク達でこの眠ったままの《カメジロー》を復活させることができるかもしれないってことさ! しかもその能力を最大値近くまで取り戻して……。どうなると思う?」

 再び言葉を失ったザックスとアルティナは驚いて顔を見合わせたのだった。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 クロルの見つけたマナの取得口がある甲羅の中心部に、三人は両手をついていた。

「要領は《ドラゴン・キラー》の時と同じだよ。とにかく全力でありったけのマナを注ぎ込む、それだけさ」

 三人で視線を合わせ、それを合図に、マナを送り込む。アルティナが手をついている場所が最も明るく、次いで、ザックス、クロルの順で甲羅が輝いた。

昼を過ぎて徐々に強くなる日差しの中、三人は玉のような汗を滴らせながら、カメジローにマナを注ぎ込む。

 これは並みの冒険者では絶対に不可能であり、《杯の魔将》によってかけられた正体不明の呪いのお陰で、莫大なマナを発する事の出来る三人だからこそ可能な事。後は三人の体力次第である。

 とはいえ、カメジローの体の大きさは小高い丘にも匹敵する。その身体に十分なマナの量など想像だにできない。暫くして、最初にクロルが、次にアルティナが、そして、最後にザックスが手を止めた。

「お、思ったより、大変ね……」

「う、うん……、すこし見積もりが甘かったかな……」

「一旦、休憩しよう、こっちが倒れちまったら元も子もない」

「でも……」

 ザックスの提案にクロルが渋面を浮かべる。彼の言いたい事は良く分かる。《カメカメレース》は続行中である。既に最下位近くにまで落ちている順位を上げるには余程の事がなければ無理だろう。

「仕方ないな、もう一度だけだぞ。今でも結構無茶なマナの使い方してるんだから……」

「そうね……」

 如何に戦闘中といえど、マナを連続して発散し続けるという場面はまずあり得ない。並みの冒険者ならばすでに精神力を相当に消耗しているはずである。自身の感覚からも今度、同じ事をやれば立ちくらみ程度では済まないだろうということは予感できた。

 それでも、彼らが《カメジロー》を復活させようと思うのはナシェムの為である。

 度重なる様々な理不尽な障害に歯を食いしばって立ち向かってきたその姿に、無意識に自分達が冒険者として歩いて来た道のりを重ね合わせているのかもしれない。

 互いに視線を合わせ、それを合図に再びマナを集中させようとしたその時だった。足元が地震の如く大きく揺れ、甲羅の上の三人は慌てて腹ばいになって振動をやり過ごす。

「まさか……」

 顔を見合わせた三人はすぐさま、マナの充填を再開する。

「起きろ、寝ぼすけガメ!」

「頑張って……」

「ここまで来たら、守り手らしく根性見せろ!」

 振動がさらに大きくなる。やがて、縦に揺れていた身体が徐々に横へと揺れ始め、カメジローが目を覚ます気配が甲羅を通して三人に感じられた。

「もういい、十分だ、飛び降りるぞ」

 ザックスの指示で二人は慌てて立ち上がる。

 足元の不確かな甲羅の上を懸命に走り、そこそこの高さがあるその場所から下の柔らかな砂地目掛けて飛び降りる。ザックスとクロルがゴロゴロと緩やかな砂の斜面を転がり、次いで風術魔法を利用したアルティナがふわりと舞い降りた。

「皆さん、一体、何があったんですか? カメジローはどうなったんですか?」

 カメジローの只ならぬ様子に驚き、笛を手にしたままのナシェムが、三人に詰め寄った。もはや、落ち込むどころではないらしい。

「話は後だ、とにかくここから一旦、離れよう」

 ナシェムを引きずるように引っ張って三人がその場所を後にするや否や、甲羅から四肢を、さらに頭と尻尾を伸ばした《カメジロー》は、しっかりと大地を踏ん張り、頭と尻尾を天へと向ける。いつも眠たそうだった目はキッと見開かれ、動物で言うところの『伸び』のポーズをとった《カメジロー》は次の瞬間、雄叫びをあげた。

 腹の底に染み渡る低い重低音が、地平線の彼方にまで響き渡る。

「あ、あれは、もしや……、伝説の『やる気のポーズ』では……」

 驚くナシェムを尻目に、さらに、一声、壮大な重低音ボイスでの雄叫びを発すると、《カメジロー》はその場で足をふみならす。

 周囲の砂山がその振動で大きく崩れていく。

「やる気のポーズ?」

「ええ、大爺様の大爺様、私より五代以上前の先達の頃には、《カメジロー》が時折、雨上がりの日にこのようなポーズで咆哮をあげて砂漠を闊歩したという話を、子供の頃に聞いた覚えがあるのですが……。皆さん、一体、これは……、どういうことなんですか?」

 初めて見るカメジローの荒ぶる姿に混乱するナシェムに、クロルが手短に説明する。

「そんな事が……、それじゃあ、私達砂漠の民がこれまでやってきたことは……」

 真実を知ったナシェムは、再び呆然と立ち尽くし、荒ぶる《カメジロー》の姿に戦慄したのだった。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 荒ぶる《カメジロー》を笛によって宥め、ようやく平穏を取り戻した砂漠は再び風の音だけが木霊する静寂に包まれていた。

 変貌を遂げた相方の様子に戸惑い気味のナシェムはしきりに《カメジロー》の周囲を歩きまわっている。

「うん、だいぶ、男前になったかな……」

「なんだか目がギョロギョロしてて、可愛くないわ。眠たそうにしてる方がいいのに……」

「二人とも、そういう問題じゃないと思うんだけど……」

 凛々しい《カメジロー》の姿の感想を述べ合う二人に、クロルが突っ込んだ。

「これからどうするの?」

「さてね、ナシェムさん次第というところかな?」

《カメジロー》の頭の前で立ち止まったナシェムに尋ねるべく三人は彼の背後に立った。ぎょろりとした目のカメジローと向き合うかのように立ち尽くすナシェムは、振り返った。その表情には内心の迷いと混乱がありありと表れていた。

「私、どうすべきなんでしょう。もう、何がなんだか分からなくなってしまいました……」

 これまで正しいと思っていた事が、根底からひっくり返されれば誰しも躊躇わざるを得ないだろう。《貴華の迷宮》で似たような経験をしたことのあるザックスには、ナシェムの心情が何となく理解できるような気がした。

「砂漠の民の未来とか、一族の繁栄なんて事も大事なのかもしれないけどさ、こういう時はとりあえず目先の事でいいんじゃないの……」

「目先の事……ですか」

 ザックスの言葉にナシェムは首をかしげる。

「我慢や忍耐を重ねて、話し合いをして……。その結果がこの状況なんだ。ナシェムさんが守ろうとした慣習やルールを相手は無視して、他の部族の奴らは皆、それに同調した。だったらさ……、そういう奴らを納得させるには、もう力を示すしかないだろう?」

「力……ですか」

「このままこのレースに敗北すれば、誰も敗者の言葉なんて聞きはしない。負け惜しみだなんて笑われるのが落ちさ。ブリトバがやりたい放題をやるだけだ。そして苦しむのはナシェムさんの一族と貧困に喘ぐ未来ある子供達。アンタはそれでいいのかい?」

 力なき正義など所詮、唯の『無能』である。口先だけの人間が闊歩するようになったその場所は、嘘偽りに満ち溢れ、偽善と欺瞞が跋扈する無責任な混沌でしかない。

 部外者の客観的な視点を伝えると同時に、ザックスは彼を軽く挑発した。

 ナシェムはふらふらと数歩踏み出し、《カメジロー》を見上げた。やがて、その肩が小さく震え始める。

 ――少し言いすぎただろうか?

 道義と調和を重んじる心優しい彼には、力のルールが支配する世界の理屈を受け入れる事は、少々難しいのかもしれない。仲間たちと顔を見合わせたザックスが、再び声をかけようとしたその時だった。ナシェムは小声で呟きはじめた。

「……そうだよな、そうなんだよな……。結局は、力なんだよな……」

 わなわなとふるえるその背に何故か不穏なものが感じられる。呟きは徐々に大きな声へと変わっていった。

「だいたい、どいつもこいつも頭、固えくせにうだうだ、うっせぇんだ、くだらん文句ばかりたれやがって……。族長会議のジジイ共も口じゃ伝統だのなんだのって綺麗事、ほざきやがって、裏じゃカネもらってホクホクしてんのはバレてんだよ、チクショーが! 他の奴らもだ! 親父が死ぬまでは、酋長候補だのってへこへこしてたくせに、死んだ途端にころっと手の平返しやがって……。叔父上や伯母上だってそうだ。生きてる時は陰でさんざん親父の足を引っ張って、次期族長職をよこせなんて言ってた癖に、面倒臭い事になりそうだって分かった途端、これからは若者の時代だなんておだてて俺に押し付けやがって……。そのくせ、人がヘタうったら、チマチマ、ネチネチ、役にも立たん小言並べたてやがる。だったらテメエらがやれってんだよ! もともとテメエらの世代が蒔いた種だろうが!」

「あのー、ナシェムさん……? もしもーし……」

 ザックスの呼びかけは、すでに耳に入らぬようだ。

「大体な、《社》の改築だって俺は大反対したんだ! 親父が死んだ直後で、色々と苦しいのに無駄金使わせるようなマネしやがって……。テメエらの見栄の為に伝統だの慣習だのとお綺麗な屁理屈並べたてて、人を小僧扱いしやがったクセに……。挙句の果てが、そのせいでカメジローが弱体化しました、だと? 冗談じゃねえ。もうやってられるか! バカバカしい!」

 ナシェムはいつしか人目もはばからずに叫んでいた。

「長い間、さんざんカメジローの世話になっておきながら、ロートルだのもう駄目だのと好き勝手言いたい放題いいやがって……。冗談じゃねえぞ。こいつの事はこの俺が一番よく知ってんだ! カメジローはまだまだやれるんだよ! そうだよな!」

 主の言葉に反応するかの如くカメジローは、一声大きく吠えた。

 伝説の《やる気のポーズ》をとっての雄々しいその姿は、もはや眠たげな顔をした只の巨大な乗り物ではない。『やる気満々』、否、『殺る気満々』の凶獣である。

「ザックス、アルティナ、クロル! 三人とも《カメジロー》に乗れ! もたもたすんな! 群れてもロクでもない事しかできないヘタレヤロウ共に、まとめて借りを返しに行くぞ! たっぷりと利子付けてな!」

 キリッと親指を立て、背中越しにナシェムは振り返る。その目つきは尋常でない。そこにいつも気弱な男の影はとうになく、『やる気満々』、否、『殺る気満々』の危険な野生の匂いがした。

 ――ルゼアさん……、そういう事だったんだな。

 ナシェムは『やる時にはやる男』である……のではなく、『殺る時には殺るおとこ』だったのだ。

「ね、ねえ、私達……、何かとんでもないモノを呼び醒ましちゃったんじゃ……」

「ははっ、まあ、その……何だな。気のせいだよ、気のせい……」

 ザックスのこめかみに一筋の汗が滴る。

「そうそう、ボク達はゲスト……、只の傍観者だよ、傍観者……」

 後頭部で腕を組み明後日の方角を向いたままで、クロルが調子っぱずれな口笛を吹く。

「さっさとしろ! お前ら、まとめて日干しになりたいのか!」

「は、はいっ! 分かりました!」

 有無を言わさぬその剣幕に、三人の冒険者達は問答無用で起立し、駆け足で慌ててカメジローの背に登る。

 それぞれの準備を整え、四人を乗せた《カメジロー》が高らかに咆哮を上げた。

 人馬一体、否、人亀一体となって『殺る気満々』の主従が組んだこのチームに、もはや怖いものなど何もない。

「行け、カメジロー! 砂漠に暮らす生きとし生ける全ての者共に、誰がこの砂漠のルールであるかって事を、骨の髄まで叩きこんでやれ!」

《操作士》席のあった場所にすっくと立ちはだかるナシェムの叫びに、再び《カメジロー》は咆哮で答える。この主従にもはや笛など必要ない。

「待ってろよ、ルゼア、そして子供達よ! 苦しい思いはこれまでだ! 今、帰るぞ! たっぷりとお土産を持ってな!」

《カメジロー》が再び走り始める、否、疾風となった。

 一瞬、三つの悲鳴が轟いたが、すぐさま途切れた。もうもうと立ちこめる砂煙が綺麗に晴れ渡った後には、何もない。地面が大きく抉れた後が残るだけである。

 大いなる荒ぶるカメが走り去った砂の丘陵は、時折強く吹く風に砂肌を撫でられながら、再び永遠の静寂に包まれるのだった。




 そして、今…………。

 伝説が幕を開ける……。




2013/10/07 初稿




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