37 クロル、慟哭す!
第20層を越えた彼らは再び露営を行った後、いよいよ最終階層を目指して探索を再開した。《高級薬滋水》を数本消費したにもかかわらず、探索開始より蓄積した疲労はドラゴンとの息詰まる死闘でピークを迎え、半日近くの休養をアルティナ達に必要とさせた。《ケット・シー》に振舞われたお茶のせいか、心身ともに大きな疲労を抱えていなかったザックスは、泥のように眠りこむ仲間達の代わりに見張りに立ち、時折現れるモンスター達と楽しく戯れながら時を過ごしていた。
「貴方、どうしてそんなに元気なの?」
というアルティナの鋭い質問に曖昧な笑みを以て答えたのは、リーダーとして少しだけ経験値を上げた彼の人生スキルの賜物である。自分達が死にそうな思いで戦っている時に、一人、お茶と茶菓子の御馳走にありついていたなどと素直に言えば、間違いなくパーティは空中分解の危機におちいる。
これぞまさに気配りの達人とばかりに己の成長を実感しつつ、先頭を歩くザックスの後ろには、まだ完全ではないものの、どうにか戦闘可能といえるまでに体力を回復させた3人がアルティナ、クロル、ライアットの順で続いた。
「それにしても、その《ケット・シー》って、本当に胡散臭いわね……」
延々と続く迷宮階層を抜けながらのアルティナとの雑談は、次元の穴に落ち込んだ彼が過ごした奇妙な場所とその主人の話題へと移っていた。
「でも、結局、《ドラゴン・キラー》は本物だった訳だし、意外と《妖精の王》ってのも、本当の事じゃないのか?」
「ありえないわ。あれは子供のおとぎ話の中だけの存在よ」
「そうなのか。てっきりお前達、妖精族と関わりがあるとばかり思ってたんだが……」
ザックスの言葉にアルティナは首を振る。
「確かに私達、エルフ、ドワーフ、ホビットは妖精族なんて呼ばれる亜人種だけど、その存在は人間に近いものよ。ダンジョン内に現れるモンスターの中にも妖精種なんて区分けされるものがあるけれど、あれはやっぱりモンスター。妖精、精霊って概念自体が本来、曖昧なものなの。シルフ、ノーム、サラマンダー、ウンディーネなんて存在は、やっぱり空想の世界の存在なのよ。少なくとも私達はそう教えられてきた。妖精王の一人、《ケット・シー》も同じ事。退屈な現実世界に飽き飽きした子供達の夢の中でのみ生きられる存在。そして大人になって年を経るごとに忘れられていく存在。そんなものよ……。ねえ、クロル?」
饒舌にかたるアルティナが、同じ妖精族であるホビットのクロルに話題を振る。だが、《鉄機人》の中の彼が答える事はなかった。
「クロル、どうした、お前、さっきから変だぞ?」
露営を終えた直後から、クロルの挙動には急激に不審な点が目立ち始めた。
戦闘中も棒立ちになることが多く、幸い強力なモンスターの出現はほとんどなかったために、ミスの増えた彼とポジションを交代したアルティナが、ザックスの背後に付いていた。慣れないダンジョン探索による疲労のせいであろうと考え、負担をかけぬようそっとしておいたのだが、そろそろ無視できない状態になるに至って、ザックスはついに、その事を指摘した。
ザックスの言葉にクロルはついに立ち止まる。しばらくしてクロルがぽつりと呟いた言葉は、青天の霹靂と呼ぶべきものだった。
「ボク、もうこれ以上、進めないよ。離脱しよう」
その言葉に空気の温度が数度下がる。クロルに返事をする者は誰もいない。しばらくしてようやくザックスが口を開いた。
「離脱しようっていうのは、探索をやめたいってことなのか?」
クロルの返事はない。
「どういう事だ? クロル。出てきて、きちんと説明しろ」
ザックスの言葉に《鉄機人》の中のクロルは沈黙で答えた。
「すこし、周囲を見回ってこよう」
殿にいたライアットがぽつりと言い残し、ザックス達の返事も聞かずに足早にその場を立ち去ってゆく。荒涼とした地下空間にザックスとアルティナ、そして《鉄機人》の姿が、魔法光に照らされて、ぼんやりと浮き上がった。
返事を拒否するクロルの姿にいら立ちを覚えたザックスは、《鉄機人》につかつかと歩み寄りその胸甲板を強引に開いた。
《鉄機人》の中のクロルの表情は、胸甲板の生み出す影のせいで、今一つ分かりにくい。
「ザックス、ちょっと落ち着きなさいよ。クロルにも言いたい事があるんだから……」
間に入ったアルティナが、落ち着いた声でクロルに尋ねた。
「クロル。私達に話してくれない? あなたがそうしようと言いだした理由を……」
しばらくの沈黙の後、やがてぽつりとクロルは呟いた。
「……いんだ……」
聞き取れぬほどに小さな声で彼は呟く。そして一度言葉を発するや否や、彼の想いが堰を切ったかのごとく続いた。
「怖いんだよ! 怖くて、怖くて、たまらないんだ!」
その言葉に二人は顔を見あわせる。突然のクロルの変節とその予期せぬ言葉は二人の心に戸惑いを生んだ。
「いまさら何をいってるの、クロル。貴方はドラゴンとだって堂々と戦ったじゃない。一時は瀕死に追い込むまでの活躍だってして見せた……」
「でも、倒せなかった。結局どうにか勝てたけど、あれだってどこかから持ってきた《ドラゴン・キラー》のお陰だろ。ただの偶然による勝利じゃないか」
「それは、たしかにそうだけど……」
「キミたち、忘れてるんじゃないか! この先にはアイツが待ってるんだよ。ドラゴンなんかよりもずっと強い《魔将》が……なのにどうして平気でいられるんだよ!」
クロルの言葉に二人は黙りこむ。
「考えたりしないのかい? あの時と同じ事がもう一度起こるかもしれないって。ボク達の力なんて全然通用せずに一方的に焼き殺される……死んでいった同期の人達みたいに……」
「それは……」
「それに《鉄機人》だって万全じゃない、もうあちこちガタガタで悲鳴を上げてるんだ!」
感情の高ぶりと共にクロルの声色が少しずつ乱れていく。
「もともとモンスターなんかと闘う事を前提にして造られた訳じゃない。本来想定されていない環境で、ずいぶんと無茶な使い方をしてきたけれど、それでもボクにはこれしかなかったんだ。《冒険者》としてずいぶん先を行っているキミたちと共に対等に戦うには……。でも、もう駄目だ。ボクもこいつももう限界だ」
そこまでいうとクロルは破裂したように泣きだした。いつものどこかふてぶてしい態度はすっかり鳴りをひそめ、年齢よりもずっと幼い子供のように泣きじゃくる姿に、ザックスとアルティナは大きく戸惑った。
広大な地下空間にクロルの泣き声だけが木霊する。顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくるクロルが《鉄機人》から出てきて、ようやく落ち着きを取り戻したのはそれからしばらく経っての事だった。
周囲にはモンスターの気配はない。時折少し離れたところで一瞬剣戟の音がするものの、直ぐにそれは収まり又元の静寂が戻ってくる。涙が枯れ果て、座り込んでしまったクロルの傍らにザックスとアルティナも又座り込んでいた。彼らがそんな時間を過ごせるのは周囲で警戒しながらモンスターと戦っているライアットのお陰だった。
長い沈黙のあとで最初に口を開いたのはザックスだった。クロルが己の全てをさらけ出してしまった以上、ザックスも同じようにして向き合うべきだと考えていた。わずかに覚悟を決めたザックスは、おそらくはクロルにとっては辛辣となるであろう己の想いを率直に口にした。
「クロル、悪いがお前は一つ勘違いしている。俺はもともとお前の戦闘力になんか期待してなかった。お前がオレとタメを張って前衛に立てるなんて大きな勘違いだ」
その言葉にクロルはしばし唖然とする。構わずザックスは続ける。
「確かにお前の戦闘時における発想力や機転には目を見張るものがある。それは多分天性のものだ。でもな、やっぱり所詮、素人なんだ。定石や経験から積み上げたものが全くない。お前の戦い方を見てれば分かる。これでも元フィルメイアだからな。お前の戦い方にはあらゆる面で無駄が多すぎる。そして足りなさすぎる。前衛としても後衛としても今のお前は何もかもが中途半端で至らない。そんな奴を確実な戦力の一つと数えるほどオレは甘くないつもりだ」
「言いすぎよ! ザックス!」
辛辣な言葉を向けるザックスに、アルティナが抗議する。だが、ザックスはやめなかった。
「言わなきゃいけないんだよ。こういう事ははっきりとな。自分の力を過信したり盲信すれば、痛い目を見るのは己自身なんだ」
「でも……」
「ここに来る前の事だ。オレとアルティナは自分達が組むミッションのやり方でずいぶんと揉めていた。俺達は普通の冒険者とはずいぶん違う道の歩き方をしたせいで、まともなやり方を通すには無理があったんだ」
お陰でずいぶん皿を洗わされて手の荒れが収まらなかったんだ、という呟きにアルティナが苦笑いする。
「前衛のオレ、後衛のアルティナ。戦力としては問題ないかもしれないが、長丁場のダンジョン探索ではどうしても無理がでる。ここまでの道のりでもそれは分かるだろ?」
その言葉に返事をする者はいない。
「俺達と同じ危険を冒す覚悟をしつつ共に歩いてくれる者……。理想的なそれを見つけるのはおそらく不可能だったんだ。あの頃はな……。でも、ここにきてようやくお前に巡り会えた。今のお前は確かにいろんなものが足りないし、問題だらけだけど、オレとアルティナの間に入って、大技を使うアルティナの防御役に回ってくれれば、オレは前衛で自由に動き回れる。オレはそんな役割をお前に期待していたんだ」
うつむいたままのクロルに反応はない。
「《鉄機人》の防御能力があればオレの要求は十分に可能だ。お前もアルティナにも危険は及ばないはずだ。殿のおっさんもいる事だし、 後は戦闘経験を重ねればなんとかなるだろう。最初はそう思っていた。思っていても上手くいかないのがダンジョン探索なんだけどな……」
小さくザックスは苦笑する。
「お前の扱いには正直手を焼いた。別にお前のせいってだけじゃない。オレがリーダーとしてしっかりしてないのも原因の一つだ。まあ、まともなパーティを率いるなんて初めての事だからさ、いきなり上手くやれって言われても、どだい、無理な話だ。それでも……」
僅かに息をつく。踏破開始からの色々な出来事が脳裏をよぎる。
「ここまでオレ達は上手くやってきたと思ってる。借り物の力で勝ったとはいえ、それでもドラゴンを倒すことができた時、オレにとってもうお前は、かけがえのない仲間である事に間違いはない、そう思った。多分、アルティナもそうじゃないかな」
ザックスの言葉にアルティナは小さく頷いた。
「だから、正直お前が離脱したいと言いだして、困惑してる。何を今更ってな。でもさ、それはオレ達の都合だ。お前がオレ達と同じ覚悟でこのダンジョンに挑んでいる訳でない以上、それは仕方がないんだな……。オレはそう思っている」
ザックスはさらに続ける。
「俺達はこの先を目指す為に、いろんな事情がある。動機も、目的も。クロル、お前にもあるはずだ……」
クロルの最大の動機――それは共に時間を過ごしたラフィーナの消息である。時間はさほど与えられてはいない、《杯の魔将》はそうザックス達に言い残していた。
「それでもお前がどうしても離脱するというんなら、オレは止めない。これからおっさんを連れて一緒に離脱しよう」
「えっ」
自分の言葉があっさりと受け入れられる意外さに、クロルは驚きの表情を隠せない。
「ただし、お前を置いたらオレは直ぐにもう一度最初から一人で探索をやり直すつもりだ。その事に対して誰にも文句は言わせない」
「どうしてだよ? ラフィーナの為?」
クロルの言葉にザックスは首を振る。
「悪いが、オレにとって彼女の事は後回しだ。お前達には悪いが、お前達の事情は二の次だ。オレはオレ自身の為に最下層の奴を目指すんだ。そうしないとオレは、ヒュディウスの奴から逃げた事になるからだ……」
「キミは、もう一度挑戦して最後までいけると思ってるの?」
「常識的に考えれば無理だろうな。ふんばったとしてせいぜい10層あたりが限界だろう。結果として、オレは目的を果たせず、ラフィーナさんを助けられず、最悪、死んでアンデッド共の仲間入りになるかもしれない。それでもオレは行くつもりだ」
「私もつきあうわ」
アルティナも又ザックスと同じ心境なのだろう。二人の言葉に、クロルは驚愕の色を隠せない。
「おかしいよ、キミたち。もう一度挑戦するにしても準備をし直して、万全の状態で……」
「普通はそうだろうな。でも今の余力を残した状態での断念は、負けと同じだ。多分、負け犬ってのは、負けた奴の事をいうんじゃない。 己の負けを認められない奴のことをいうんだ。己の過ちを認めれば、それを正そうと工夫したり努力できる。だが、それを認めずになんだかんだと言い訳すれば、そいつは永遠にそこから抜け出せない。余力があるまま断念するってのはそういう事だ。本当はもっとできたんだが、なんて言い訳してるうちに足踏みしてる自分が、当たり前になっちまうんだ」
「それでもいいじゃないか。がむしゃらに突っ込むことだけが全てじゃないだろ。《冒険者》でいる皆がそうだなんて、ボクは思わない!」
「そうかもな。でも奴は……、ヒュディウスは、おそらくそんなオレ達の事情をわざわざ優しく汲み取って、待っててくれはしないぜ」
その言葉にクロルは押し黙る。
「オレ達は一度、あいつに全てを奪われた。突然に、理不尽に、徹底的に。そんなオレ達の中でアイツの影に恐怖しない奴はいないはずだ。尤もハオウはどうか知らないがな。ともかく、ここでアイツを目指すことなく逃げだせば、オレはおそらくこの先《冒険者》として苦手意識をずっと抱えながらやっていかなきゃいけない。ダンジョンに潜る度にアイツの影におびえながら……。そんな迷いを持つ俺に率いられるパーティのメンバーとして命を預けようなんて奴がいると思うか?」
返事はなかった。
「どの道、《魔将》相手に完璧な準備なんて不可能なんだよ。力が足りない? 装備が足りない? 戦場が不利だ? 全部言い訳にしかならないんだ。あの日以来、オレ達がアイツの手の上にいることに、なんら変わりはないんだ。正しい選択肢なんて最初からないんだよ。俺達に唯一許されるのはアイツにひと泡吹かせて勝った後の事を想像するくらいなんだ。アイツを倒して初めて、オレ達は当たり前の冒険者になれる。それがオレ達のどうしようもない現実なんだ」
「死ぬかもしれないのに……」
「そうだ。正しい理屈なんて最初から存在しない場所にオレ達は置かれていて、自分の意地を貫くには常識論なんてすっとばすしかないんだ」
「キミ達はやっぱりボクと違うんだね。逃げ出したボクとは……」
「そうじゃないわ、クロル。私だって同じなのよ」
下を向くクロルにアルティナが語りかける。
「私も逃げてたのよ、自分の中に。でも、そんな私の事をザックスは引っ張り出してくれた。オレの為に手を貸せ、なんて無茶苦茶な理由でね。でも、私はそれでよかったと思ってる。もしも私一人だったらやっぱり怖くてたまらないもの。貴方と同じ。あの時と同じようになってしまったらどうしようって……きっとそればかり考えてるわ」
「…………」
「でもね、少なくとも今は貴方達がいる。私達の実力なんか遥かに及びもしないドラゴンの前で、決して逃げることなく立ち向かった貴方達が。貴方は偶然の勝利なんていったけど、それでも勝利は勝利よ。運が良かったって言うのだったら、それでも私は胸を張っていえる。『運も実力の内、勝つための運を引き寄せたのは私達よ』ってね。そしてその中には貴方もいるのよ。間違いなくね……」
「アルティナ……」
「貴方がここで離脱したとしても、私も責めるつもりはないわ。私もザックスと一緒に直ぐに探索を再開する。貴方でも、ザックスでも、ラフィーナさんの為でもない。ほかならぬ私自身の為に。こう見えても私、負けっぱなしは嫌なの。とくにあんな陰険な奴なんかにね」
語り終えたアルティナは立ちあがると振り返って数歩歩み出し、背中を見せながら天を仰ぐ。その背にクロルの掛ける言葉はない。ふと、 その背中にドラゴンと戦った時の不思議な高揚感を思いだした。
「クロル、受け取れ」
ザックスが手の中の何かを放り投げる。
慌てて掴んだそれはリーダーの持つ《跳躍の指輪》だった。
「お前が決めろ。どんな決定をしてもお前を責める奴はこの中にはいない。おそらく、おっさんもだ。」
ザックスは立ちあがり大きく伸びをする。
「決めたら教えてくれ。おっさんを回収してからそいつで脱出しよう。おっさんは放りだしても死なないだろうが、後で色々面倒くさそうだからな」
そう言うとアルティナと同じように背を向ける。言うべき事やるべき事をすべて終えてしまった以上、後はクロル次第だった。
長い沈黙が訪れる。
己の手の中にある指輪と彼の前で背を見せる二人の仲間達の姿を、クロルは交互に見比べる。そしてあの日別れたままになったラフィーナの姿が思い浮かんだ。
――どうしてボクはここまで来たんだろう?
自問するクロルの心に浮かぶのは、やはり彼女だった。
儚げに笑う彼女の顔、そして、全てを否定したような虚ろな表情。
でもきっとそれだけではないはずだ。彼女にだって別の顔があるはずなのだ。世の中の面白い事を一緒に探しに行く――かつてのクロルが思い描く未来には、己の傍らに彼女が心底楽し気に笑う姿があったはずである。
――今、ここで諦めてしまったら、それは永遠に叶わない。
一度はあきらめかけた夢だった。それをもう一度夢見る事が出来たのは共に歩いて来た彼らがいたから……。非力で小さな自分を必要としてくれた彼らは今、尚、先を目指そうとしている。
「行くよ」
涙でグシャグシャになったまま、鼻をすする。
「ボクは行くよ。キミたちと一緒に……。他の誰の為でもないボクの為だなんてカッコイイことは言えないけど、ボクはラフィーナの為にいく。もしかしたらもう戦力としては役に立たないかもしれないけど、それでもボクは彼女を迎えにいく」
手の中の指輪を振り向いたザックスに向かって放り投げる。受け取ったザックスはそれを手にしたまま尋ねた。
「いいのか? 死ぬかもしれないんだぞ?」
「構わないよ」
「結果として、あの時と同じかもしれない、それでもか」
「覚悟は決めたよ。ボクにとって万全の準備ってのは多分、キミたちと共に闘う事だから……」
「分かった。じゃあ、おっさんを呼びに行ってくる。クロルはその間に顔をどうにかするんだな」
再び指輪を指にはめるとザックスは足早にその場を立ち去った。もうクロルの心が崩れる事はないだろう。と、すれば後は最終階層に向かって、一直線である。
「待ってな、ヒュディウス。直ぐにテメエを引きずり出して、ブッ殺してやる」
ザックスの呟きをもしも件の魔人が耳にしたならなんと言っただろうか。ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、ザックスの姿は暗闇の中に消えて行った。
2012/11/08 初稿