08 ザックス、出会う!
アテレスタへの旅路は、当初の予想に反して順調そのものだった。
自由都市《ファンレイヤ》に向かったザックス達3人は、そこで物資の調達がてらアテレスタへの足を探した。
幸運なことにアテレスタに物資を運ぶ隊商を見つけた3人は、神殿から密命をうけてお忍びで旅する神殿巫女とその護衛の冒険者という設定でこの一行に同道させてもらう事になった。
『いやいや、創世神殿の巫女さんに同道してもらえるなんて、こっちからお願いしたいくらいだよ』
豪快に笑う隊商長に率いられたこの隊商に所属する者達は皆実に気風良く、ザックス達を迎え入れた。
旅慣れている彼らは多くの種族の人々と接しているだけあって、偏見の強い兎族のイリアにも友好的だった。町娘の格好に変装した彼女は小ぶりの兎の耳を隠していた外套のフードを外して彼らと笑いあい、二日とたたずに一行の人気者になっていた。
「そうですね、『魔法少女』路線も捨てがたいですが、やはり本職が神殿巫女なのですから、ここは王道の『謎の仮面ウサミミ巫女少女』路線で行きましょう」
道中、ブルポンズ参謀兼振付け担当のサンズによって『名乗り』と『決めポーズ』の指導を受けるイリアは、根が真面目なだけにこれも旅の作法であるとしっかり練習に励んでいる。アルティナに悪いからと名付けられた臨時パーティ《ザ・イリサンズ》は、事情を知らぬ者が見れば間違いなく大道芸人の一座だと思ったはずである。
初めのうちこそ、笑い声の絶えない一行だったが《アテレスタ》へと近づくにつれ、逃げてきた避難民同士の諍いや野盗が出没する事で、皆、緊張の色を高めていた。幸い大事に至る事もなく、当初の予定よりも一日遅れで一行はアテレスタへと無事に到着した。
「創世神の御加護に感謝を……」
そう言い残して礼も受け取らずに去って行った気のいい隊商に別れを告げ、ザックス達一行は騒乱の城塞都市《アテレスタ》の門を潜ったのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「どうやら、この場所のようですね」
地図を頼りにたどり着いたのは、街の入り口から少し離れたところにある古惚けているがしっかりした作りの酒場だった。
大通りに面した場所にある『アマンダの酒場』という名のやはり古ぼけた看板には、見慣れた冒険者協会のマークがしっかりと入っている。乱暴な冒険者達に蹴り飛ばされてもびくともしそうにない頑丈な作りの扉を、そっと押し開く。途端に中から嗅ぎなれた酒場の匂いに混じって、臭気とも呼ぶべき匂いが鼻をついた。
整ってはいるもののどこか薄汚れた感のある店内を仄明るい照明が照らす。ガンツの店よりも広い店内には、冒険者であろうと思われる人々がまばらに座ってこちらを不躾に眺めている。どこか精気のないその目は、これまでザックスが関わってきた者達とは大きく違っており、彼らの首元にクナ石の首飾りがなければ、只の飲んだくれかチンピラにしか見えなかった。
外套のフードを深く被ったままのイリアがザックスの袖を掴む。そんな彼女をかばうようにザックスはその前に立った。
店内の澱んだ空気に気圧された二人を気にする風もなく、サンズは慣れた様子でカウンターへと向かって歩いていく。慌ててついて行く二人と共に無人のカウンターに座った彼女は、手元にあった呼び鈴を鳴らした。
店内の空気にそぐわぬ凛と澄んだ音色が響くが、店の者が現れる様子はない。
「御留守でしょうか?」
ザックスの側に座ったイリアが首をかしげる。と、顔を見合わせる3人の頭上から野太い声が降ってきた。
「どちらさんだい?」
2階へと続く階段の上に立っていたのは大柄な人影だった。
尋常でない膂力を感じさせる太い筋肉に身を包んだその姿は、戦士か格闘家といっても通じるだろう。身体にぴったりとフィットしたタイツを身につけたその厳つい図体の『男』は続けて奇妙な自己紹介をする。
「アタシがこの店の女主人、アマンダだよ!」
「『女』主人?」
その言葉にザックスが思わず異を唱えた。
「ああ、そうだよ。なんか文句あるかい?」
「いや……、ねえよ……」
ぎろりと睨みつけられ、ザックスは慌てて首を振る。どうやら触れてはならぬ事らしい。そんなザックスに代わってサンズがにこやかに挨拶する。
「失礼、私達は《ペネロペイヤ》のガンツ=ハミッシュの酒場よりクエストを受けて参りました」
「アンタ達、ガンツの使いだったのかい?」
途端に相好を崩し、まるで夢見る乙女の如く階段をドスンバタンと一足飛びにかけ降りると、巨漢の男、もとい、『自称』女主人のアマンダは転がる様に彼らに駆け寄った。
「ガンツはなんて言ってきたんだい?」
小柄なサンズに襲いかかるかのような勢いのアマンダの鼻先に、サンズはすっと二通の書簡を差し出した。あわてて封蠟を開いてアマンダはそれらに目を通す。
最初の一通に目を通したアマンダの顔に明るい笑みが湧く。続いて二通目に目を通した彼だったが……、その表情にはすぐさま落胆の色が浮かんだ。
「そうかい、やはり厳しいねえ……」
ぽつりと重々しい言葉が響く。そんな彼女の言葉に店内の空気が大きく揺らいだ。振り返るとテーブルに座る冒険者達の注意がアマンダの一挙手一投足に注がれている。
わずかに溜息をついたアマンダは二通の封書を丁寧に丸めると野太い声で店内に向かって叫んだ。
「アンタ達、いつまでも睨んでんじゃないよ! ここにいるのはアンタ達の御同業なんだから、仲よくするんだね! 名前は……」
僅かに息をつく。
「そういや、アタシとした事がアンタ達の名前すら聞かずにずいぶんと失礼な真似をしちまったようだね。よかったら名前を教えてもらってもいいかい?」
「ザックスだ」
「私はサンズです」
「イリア……です。あの、私は……」
自身の事情を説明しようとするイリアをアマンダの野太い声が遮った。
「ザックスって……。ア、アンタ、もしかして……。あの《魔将殺し》のザックスかい?」
その言葉に店内の空気が大きく震えた。揺れる気配をその背で受け止めながら、ザックスは答えた。
「まあ、そのザックスだ。《魔将殺し》ってのはいろんな偶然が重なった結果だけどな……」
「いやぁ、会えてうれしいわ。噂はいろいろと聞いてたんだけど、まさか実物がウチの店にきてくれるなんて思ってもみなかったわ……。よく見りゃなかなかいい男じゃないか。アタシも若けりゃ、一緒にパーティを組んだのに……」
「おやおや、さすがはザックスさん。遥か《アテレスタ》の地にまでその名が轟くなんて。友人である私達ブルポンズも鼻が高いですね」
分厚い両手でザックスの右手を握ってブンブンと振り回すアマンダと的外れなサンズの相槌に、ザックスは苦笑いを浮かべた。同時に自身の全く知らぬ《ペネロペイヤ》から遥かに離れたこの地で一人歩きしている噂の内容を想像して、思わずぞっとする。マリナならば、いかなる無責任な噂もその微笑みでやんわりと受け止め、相手の期待を裏切ることはないのだろうが、残念ながらザックスにそんな芸当は不可能である。どうやらこれは人としての器の問題といえよう。
「ご覧のとおり何もないとこだけど、まずは身体を暖めてゆっくりしていきな」
野太い声で豪快に笑いながら、彼の姿は奥へと消えて行った。
出されたクーフェの味に思わず顔をしかめる。それは香りも苦みも僅かにしか感じられぬ余りにも薄い味だった。
「悪いわね。酒の方を勧めるべきだったかしら……」
そんなザックスの様子にアマンダはため息をついた。
「この街の物資不足は深刻でね……。この手の嗜好品類はもう品薄どころか、ほとんど市場には出回らないのよ」
「確かこの国はクーフェ豆の有名な産地の一つだったはずですが……」
同じく薄味のクーフェに驚いたサンズが尋ねた。
「ああ、南北に長いこの国の領土の北側にはそんな場所もあって、昔ならとびっきりの奴を御馳走できたはずなんだけどね……。今じゃこの有様さ……」
3人と同じようにカウンターに座ったアマンダは、ぼんやりと遠い目をして語り始めた。
「事の起こりは6年前。国王と対立した創世神殿がこの街から追放されてから全てが傾いちまったんだよ……。年を経るごとにクーフェ豆どころか、麦や野菜までがどんどん街に運びこまれなくなっている。産地の奴らも人間だ。皆まず自分の事が一番大事だからね……。あおりをくらったのは《アテレスタ》の住民だけでなくウチのような《冒険者の酒場》もだね。都市やダンジョンを結ぶ転移の扉も閉ざされ、今やクエストなんて雀の涙程度だよ」
大きな身体に似合わぬ小さなカップを手の中で弄びながら、彼女は続けた。
「もともと自由都市に比べればこの街には冒険者は少なかった。創世神殿やセイムルクシュ商業同盟が主導権を握っている自由都市とは違って、ここは古王国の王都だったからね。冒険者協会は創世神殿と密接に関係があるから、六年前の追放騒ぎでウチを除くすべての酒場が店をたたんで、支配下冒険者と共に街を出て行っちまった。今じゃこの店がこの街唯一の《冒険者の酒場》なのさ」
彼らの正面には埃を被りかけた空の酒瓶に混じって冒険者協会支部章が飾られている。彼女はこの酒場の店主であると同時に《アテレスタ》冒険者協会支部長職も兼ねているらしい。
「今までなんとか頑張ってきたけど、おそらくこの冬が最後だろうね。今年の書入れ時も閑古鳥が鳴いちまって……。これまで本部の協会長さんをはじめとしてあちらこちらからの援助もあったけど、それも限界のようでね……」
サンズが運んできたのは協会長とガンツからの手紙だったらしい。
「この店に残ってるのはこの街の出身者だったり、他に行き場のない奴らさ。好転しようのない現状にすっかりやる気をなくしちまって、今や只の酔っ払いの集まりになっちまったけどね……」
その言葉に背後から乾いた笑いが小さくさざめいた。目的も希望もなく日々を徒に過ごす者の行く先にあるものは、絶望的な破滅でしかない。
「誰かよい指導者はいないのですか?」
サンズの言葉にアマンダは首を振る。
「街のお偉方や周辺自治領の貴族たちがいろいろと画策してはいるみたいだけど、どいつもこいつも結局自分の事しか考えない小物ばかりだからねぇ。いい意味で公私混同の出来る器の大きな奴ってのが、いないんだよ。物事の転換点において人を導く奴ってのは、結局のところ、既存の型にはまらず大きな我が儘を言える奴のことだからね。無知な庶民の幸せなんて、それに寄り掛かる事でしか実現できないものさ」
湿っぽくなっちまったねえ、と呟きながら、薄めのクーフェを小指をたてて啜る。
「ところでアンタ達、今夜はウチにとまっていくのかい?」
その言葉に3人は顔を見合わせた。
「私はそのつもりですが、ザックスさんはどうするのですか?」
「そうだな、まだ日は十分に明るいし、オレはこのままイリアを神殿に送っていくつもりだけど……」
「そうかい、じゃあ、部屋の準備だけはしとくかね。この宿最後になるかもしれない大物冒険者に泊ってもらえば、光栄だからね」
「じゃあ、お願いしようかな……」
首元のクナ石を外してアマンダに手渡す。その内容を見た彼女が僅かに目を見張った。
「アンタも苦労したんだねえ……」
「いや、まあ、それなりに……」
当たり障りのない言葉で返したザックスだったが、アマンダの言葉に込められた奇妙な重さに違和感を募らせていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
旧王宮から城外に向かって三方へと延びる大通りを中心に《アテレスタ》の街は造られている。
そのうちの一つに面したアマンダの店からさらに別の通りにある創世神殿に向かって、ザックスはイリアを連れて歩いていた。「王都守備隊の奴らも近頃は殺気だって物騒だから気をつけな」というアマンダの忠告に従い、分かりやすく見通しの良い路地裏の近道を教えてもらった二人は、冬の寒風の中を黙々と並んで歩く。《アテレスタ》は《ペネロペイヤ》よりはるかに北側に位置し、その寒さこそずいぶん薄れているものの、それでも街に熱気が感じられないのは、やはり度重なる騒乱によって希望を見出せない人々が生み出す空気のせいであろう。
いつもは明るいイリアも終始無言で街や建物の様子を眺めている。己のせいでこんな街にやってくる事になってしまった姉巫女の事を思っているのだろうか。彼女を見守りながら先を急ぐザックスだったが、そんな彼らに声をかけるものが現れた。
「待ちな、兄ちゃん達。黙ってここを通るとはどういう了見だ! ここはオイラ達の縄張りだ! 通りたかったら通行料を払っていきな!」
物騒な言葉とは裏腹にその声はまだまだ可愛らしい。声と共に二人をわらわらと囲んだ数名の人影はどれもまだ十にみたない幼い子供達のように見える。おそらく声の主であろうリーダー格の少年だけが、周囲の子供たちよりも少しばかり年長のようだ。
モップや棒切れを手にした子供達の中で一人錆びかけたナイフを手にした少年は、堂々とザックス達に己の要求を突きつける。イリアと顔を見合わせたザックスは、一つため息をつくとそんな彼らに言葉を掛けた。
「こら、ガキ共! 危ない遊びしてるんじゃない! そんなモノ、むやみに振り回してたら怪我するぞ!」
「う、うるさい、四の五の言わずにオイラ達に通行料を払っていけ!」
どうやら聞く耳はないようだ。
「しかたねえなあ。ちょっと懲らしめるか……」
「ザックス様、あまり手荒な事は……」
心配そうな顔をしたイリアの目の前で、僅かに小さな笑みを浮かべたザックスの姿が一瞬ぶれて消えた。
「えっ?」
周囲の子供たちが目を見張る。
目の前の男の姿が一瞬にしてかき消えると同時に、彼らが手にした棒きれが手のひらの仄かな熱さと共に次々に消えて行く。手にした棒きれを奪われた拍子に勢い余って尻もちをついて泣きだした一人の子供に、イリアがすかさず駆け寄って治癒の魔法をかけた。イリアの手から放たれる暖かな波動に、泣きやんだ子供がきょとんとした顔で彼女のフードの中を覗き込む。「もう大丈夫ですよ」とにっこりと笑うイリアの顔に子供は小さく微笑みを浮かべた。
「お前で最後だな」
言葉と同時にリーダー格の少年の背後に現れたザックスは、あっさりと少年が手にした錆びたナイフを取り上げた。何が起きたか分からぬまま呆然とする彼らは、ザックスの手にある自分達の武器を見て顔色を変えた。
「に、兄ちゃん、あんたもしかして《たんさくしゃ》って奴か?」
「なんだ、それ? オレは唯の《冒険者》だぞ」
震える声で問う少年にそう答えたザックスだったが、その答えに周囲の子供たちが小さくざわめいた。
「ぼうけんしゃ? あれって駄目人間の集まりの事だろ」
「昼日中から定職にもつかずにぶらぶら酒ばかり飲んでる奴の事だって、婆っちゃが言ってた」
「人生の落伍者だから近づいちゃいけませんって……」
酷い言われようである。
それは違います、と慌てて彼らに反論するイリアだったが、アマンダの酒場にいた彼らの醜態を目の当たりにすれば説得力はないだろう。
「とっ、とにかくだ!」
手にした棒きれやナイフを道の端に放り出したザックスは、子供達に言い聞かせる。
「世の中、お前らが束になってかかっても敵わない奴ってのがごろごろしてんだから、命が惜しければこんな真似二度とするんじゃない」
その言葉にすっかり意気消沈した子供達だったが、リーダー格の少年だけが反論した。
「そんな訳にはいかねえよ。オイラ達はこうでもしないと食っていけねえんだから」
「食っていけないって、お前ら、親はいないのかよ?」
「親? そんなヤツら、とっくにいねえよ。皆、オイラ達をおいてここから逃げ出すか、諍いに巻き込まれてどっかの街角でのたれ死んじまってるよ。オイラ達に優しい言葉を掛けてくる奴なんておっかない人攫いくらいのもんさ」
その言葉にザックスは沈黙する。この街は思っていた以上に修羅場のようだ。
「あ、あの……神殿に保護を求めなかったのですか?」
イリアの言葉に少年は首を振った。
「あそこも駄目だよ。寒くなって直ぐに街中のジジババ共が一斉に押しかけて、オイラ達の居場所なんて無くなっちまった。いい年した奴らがオイラ達の食いモン横取りして、文句言ったら逆に盗人扱いするんだぜ。ガキだからって足元見やがって……。オイラ達の話をまともに聞いてくれたのなんてマリナ姉ちゃんくらいのもんだよ」
その言葉に二人は顔を見合わせた。
「マリナって神殿巫女のマリナさんの事か?」
「そ、そうだよ。人攫い共に一発くらわせてやろうと思って二階の窓から飛び降りたら、足の骨折っちまって……。困ってたところを助けてくれたんだよ、姉ちゃんが……」
僅かに赤くなって少年は早口で答える。そんな彼の姿を周囲の子供たちが意味ありげにはやし立てる。《ペネロペイヤ》に比べずいぶんと厳しい環境のようだが、彼女は変わらず元気のようだ。ザックスの傍らでイリアが小さく胸をなでおろした。
「ところで兄ちゃん達は姉ちゃんの何だよ?」
僅かに警戒するかのように少年が尋ねた。
被害者だ、という言葉をそっと呑み込んで、ザックスは言った。
「マリナさん宛ての荷物を運んでいるだけのただの知り合いだ。そういう訳で先を急ぐからここを通してもらってもいいな?」
「しょうがねえなあ。姉ちゃんの知り合いじゃ……」
しぶしぶといった表情で少年は呟いた。だが、すかさずその顔に閃きの色が浮かんだ。
「でもよ、兄ちゃん。神殿までの道は分かるのかよ? このあたりは結構込み入ってて、通りすがりの人間は絶対に迷うぜ」
「一応、地図は貰ってるんだが……」
「ダ、ダメダメ。そんなもん見ながらと実際に歩くんじゃ、大違いだぜ」
「へえ、で、どうすればいいんだ?」
訝しげなザックスの問いに少年が目を輝かす。
「オイラ達が案内してやるよ。だからさ……」
通行料の代わりに案内料を払えと言っているらしい。イリアと顔を見合わせて小さく笑ったザックスは、10シルバを差し出した。だがその額に少年は顔を曇らせる。
「シケてんな。そんなんじゃハラの足しにもならねえよ。この街じゃ、カネよりゲンブツのほうに価値があるんだぜ」
「そ、そうか」
仕方なくザックスは《袋》から携帯食料を取り出した。周囲の小さな子供達が目を輝かせるのを見て、結局、人数分を分けてやることにする。
「毎度ありぃ!」
しっかりと獲物を手にした小さな子供達は、それを大事そうに抱きかかえて街角へと消えて行く。
「お前は食べないのか?」
ザックスの問いに少年は僅かに動揺の色を浮かべて返答する。
「ま、まだ仕事は終わってないからな。こう見えても約束はきちんと守る事にしてるんだ」
「そうか、じゃあ、道案内よろしくな。オレはザックス、彼女はイリアだ」
「任せとけよ。オイラはジルっていうんだ」
結局、ずいぶんと高くついてしまった案内料を支払って、ザックス達は再び神殿への道を歩き始めたのだった。
2012/03/25 初稿




