3-3
「わー、足着かないー深ーい!」
瑞穂さんは相変わらずのはしゃぎ様だった。
俺はまだ足が着いたが、肩から下は海水に浸かっていた。
ここまで来ると浅瀬より人も少なくなってくるが、こんな沖に来たのなんて初めてだ。
「シュン、えいっ」
突然、瑞穂さんは浮き輪からはみ出た手で水をかけてきた。
水しぶきはそのまま俺の顔に当たる。
「うわっ、何するんですか!」
「あはは」
瑞穂さんは笑ったまま再び両手を動かし、俺の方に海水をかけてくる。
しまいには浮いて漂っていたワカメまで手に取ってきた。
「あははじゃありませんから、もう! お返しです!」
頭にワカメを乗せられたのを境についに反撃すると、瑞穂さんは更に投げてきた。
そんな投げ合いがしばらく続く。いつの間にか我も忘れていたが、こんなにはしゃいだのはいつ以来だろうと遠くの浜辺を見ながらふと考えていた。
その時だった。
「あ、波大きい!」
「えっ」
回想していた俺にとって不意打ちで、勢いのあまり浮き輪からつい腕を離してしまった。
──ふわっと浮く感覚。頭上まで海水が占める。目が開けない。息が出来ない。そして下の方に引っ張られていく。もう限界……
その時、強い力が片腕にかかるのを感じた。
「うっ、はぁはぁはぁ」
頭の上にはまぶしい太陽の光と、雲一つない青い空が広がっていた。
やっとの思いで呼吸をする。瑞穂さんは浮き輪を脱いでそれを片腕に掴んだまま、もう一方の腕で俺を引っ張りあげたようだった。
「よかった、間に合った。もう、気を付けなさいよ」
そう言われたが、余裕がなくて反応出来なかった。
一方で瑞穂さんは再び浮き輪の中に入ったが、そのまま俺の腕を離さないでいた。
今は珍しく、俺が瑞穂さんに頼りきっている。
そのまましばらく無言が続いた。
ふと瑞穂さんを見ると、さっきまでの笑顔と異なり顔色が曇っていた。
「……無理矢理連れて来てごめん」
俺の腕を掴んだまま、突然謝ってきたから驚いた。瑞穂さんはずっと下を向いていた。
「何、柄にもなく謝ってるんですか! もう大丈夫ですから! それに、俺も楽しいですよ」
「……そう。なら、良かったー!」
今まで沈んでいたが、瑞穂さんは再び笑い出していた。
確かに溺れそうにはなったが、実際俺も楽しかった。
まさかこんなに海で楽しめるなんて思っていなかった。
夕方近くになり、帰宅の途に就くために駅へ向かった。
二人で他愛も無い話をしつつ、俺の少し前を瑞穂さんは歩いていた。
やがて、海にちなんで竜宮城に模して作られているのが有名らしい駅の前に着くと、駅を背にして瑞穂さんは突如こちらに振り返った。
「また、来年来ようね!」
その言葉に自然と頷けた。
そんな俺を見て、瑞穂さんも「えへへー」と笑った。
その顔はまるで安心しきっているかのような満面の笑みで、俺も笑顔でつい返していた。