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キャリーケースの女  作者: 瀬戸真朝
第一部 三章【瑞穂とシュン、海に行くの巻。】
8/39

3-2


「…………俺、泳げません」


一瞬の間。あまりにこういう機会がなく、自分でもすっかり忘れていたことだった。そんな俺に対し、瑞穂さんは動かしていた手を止め、深刻そうな顔つきをした。


「ごめん、聞かなかったんだけど……もしかして」

「……はい」


夏真っ盛りである以上、海岸はカップルや家族連れの声で騒がしい。そんな中、瑞穂さんと俺がただ黙って見つめ合っている姿は周囲から明らかに浮いていた。だが。


「ごめーん、シュン、一応男の子だからまさかと思ってつい! 今日、アレだったんなら言ってくれて良かったじゃない」


あまりに見当違いなその言葉に、さすがの俺も何のことか察するまでしばらくフリーズした。


「……違います、かなづちなんです! 第一、なんでそれなんですか!」


やっと現実に戻ってきてそう反論すると、さっきの深刻そうな顔が嘘かのように瑞穂さんは派手に笑った。

そして再びボタンを外す手を動かし、やがて露出している部分は少なかったが赤色のビキニ姿になった。


「あはははは、だったら浮き輪にしがみついてればいいじゃない。ほら、もう置いていくよー」


瑞穂さんは浮き輪を持って走り出して行く。俺はまだ服のままだ。


「瑞穂さーん、待ってくださいってばー!」


浮き輪の有無は今の俺にとって死活問題だ。

Tシャツを急いで脱ぎ半ズボンも下ろして海パン一枚になると、慌てて瑞穂さんを追った。



「あー、やっぱり夏と言ったら海よねー」

「はいそーですね……あー怖えー」


波打ち際より少し離れたところにいたが、浮き輪の中にいる瑞穂さんは海を満喫しているようだった。

一方、もちろん瑞穂さんが浮き輪を譲ってくれる訳がなく腕だけ輪の中に入れて、より沖の方へ引っ張る役目を俺は負わされている。

深い緑色をした水の中にいると、足元どころか水に浸かっている部分の殆どが見えなかった。

それがまた恐怖を倍増させる。


「まだ足着いてるんだから大丈夫でしょー」

「それでも怖いんですってば!」


瑞穂さんは気楽そうだが小さい頃から泳げない俺にとって、考えてみると海なんて最後いつ来たか分からないぐらいだ。


「もっと遠くー! あんたあたしより身長高いんだから行けるっしょー」


瑞穂さんと俺は大体二十センチぐらいの差だったが、どうやら少なくても瑞穂さんの足が着かないところまで行かないと満足しないらしい。


「はぁー、分かりました!」


より沖の方を目指して、俺は再び歩き出した。



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