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○第三章
「シュンー! いい加減起きてー」
テストも補講期間も終わり夏休みを満喫し始めてきた頃、朝から突然瑞穂さんに叩き起こされた。
「なんですか……まだ九時過ぎじゃないですか……」
「いーの! それより、早く海行こー」
「あー、海…………はぁ? 海!?」
言われた言葉の意味を段々と理解し、俺は飛び起きた。
瑞穂さんは何やらビニールバックを既に抱えている。
中にはタオルの他に、この時のために買ったのかレジャーシートや浮き輪などが透けて見えていた。
カーテンが開いた窓からは青々とした山並の他に、雲一つない青空に太陽が朝から本気を出して輝いているのが見える。
そういえば一昨日はバイトがなく、夕飯後に何気なくテレビを二人で見ていた。
「明後日は全国的にこの夏一番の快晴」という天気予報を見て、「海行きたい」と瑞穂さんが言っていたのを段々と思い出してくる。
いつもは付き合ってくれる大越が今日はバイトで、行けるのは俺だけだった。
それで、行ってもいいと俺も言った気はするが、決定事項ではなかったはずだ。
「もう準備出来たよー早く行こー」
昨日はバイトでもちろん夜勤明けだったが、ここまで準備をされたら、もう行かないとはさすがに言えなかった。
「……はいはい、行きますからちょっと待って下さいよ」
「やったー!」
叫んでいる瑞穂さんをよそに慌てて布団を片付ける。高校の授業で使っていた海パンはどこにしまったっけ、などと考えつつ突如海へと出発することにした。
電車を何本か乗り換えて途中で県境を越えたりしたが、瑞穂さんが行き方を知っていて迷うことはなかった。
家を出て一時間半後に辿り着いた海岸は思っていた以上の人出だったが、海というのものは意外に近かった。
……いや単なる〝海〟とやらだったら、一応東京にもある。
だが、「あの汚い東京湾で泳ぐのはさすがに無理」と瑞穂さんが言うので、わざわざ都外にまで来たのだった。
……ん? 泳ぐ?
海岸に着くとレジャーシートを敷いてビニールバックを置き、珍しくワンピース姿である瑞穂さんは早速ボタンを外し始めた。
「瑞穂さん、あの」
声をかけると、瑞穂さんは「ん、何?」と言ったまま手を止めなかった。
「あのですね、その……」
「何よ、早く言いなさい」
瑞穂さんははっきりしない俺を睨み付けてきた。もう言うしかない。