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それ以来、大越と組む日に瑞穂さんが急に来たり、俺のアパートに大越が時々遊びに来るようになった。
バイト前に三人でゲームとかで遊んだり、鍋を囲んだりした。
「なんで鍋なんだよ!! もう八月も近いのに!」
大越がどこからか買って来た、季節外れで高いくせにおいしくない白菜を俺は箸で突いていた。
「だって大勢で鍋って楽しいじゃないー」
「そうですよ、面白くていいじゃないですか」
瑞穂さんと大越は笑っている。
だが、ただでさえクーラーもなくて暑い中、鍋をやると言う瑞穂さんが信じられなかった。
瑞穂さんはそんな突拍子もないことを言うのが得意だったが、どうやら大越はそれがいいらしい。
勝手なことばかり言う瑞穂さんを大越は楽しんでいた。
「ねぇ、あたしとシュンと大越くんでバンド組もうよ」
その日も、瑞穂さんは取り皿に豆腐を取りながら急にそんなことを言い出した。
豆腐からは湯気が立ち上っている。冬ならともかく、夏の今は見ているだけで暑苦しい。
その思いを我慢しつつ、俺は驚きながら聞き返した。
「えっ、瑞穂さん、楽器出来るんですか?」
「馬鹿ね、シュン。出来ないに決まってるじゃない」
案の定そう答えたが、瑞穂さんは気にせずに続けた。
「でね、バンド名は〝世界のChickenから〟にするの!」
「あはははは、いいですねそれ!」
大越は笑っているが、どうやらその様子から賛同はしているらしい。
「でしょー? シュンと違って、やっぱ大越くんは話が分かる子ね」
「思い付きをただそのまま言ってるだけでしょう!」
もはや呆れている俺と対称的に、瑞穂さんに対し感心している大越がただのアホにしか思えないのは気のせいだろうか。
だがそんな架空妄想バンド話は盛り上がり、ピアノが得意なみなこちゃんをキーボードに加えるとなると、まさかの俺までテンションが上がってしまった。
「みなこちゃんがいるなら何だってやるぜーギターも何も弾けないけど」
「中井くんはほんと、みなこちゃんのことが好きですね」
「だってみなこちゃん、かわいすぎるだろ!」
瑞穂さんも最初の頃は「『みなこちゃん』って誰?」と言っていた。
だが、俺と大越で盛り上がっていると段々とどんな女の子なのか分かってきたようだった。
そうやってアホな話ばかりして、三人での日々は過ぎていった。