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キャリーケースの女  作者: 瀬戸真朝
第一部 二章【みなこちゃんと、ゆかいなコンビニの仲間たち。】
5/39

2-3

そして夏休みも近付きテストも刻一刻と迫っていたが、夜勤の人数が少ないのもあってバイトは休めなかった。

中成大学・明王大学駅に着いて電車から降りた途端、熱風が顔に当たる。大学や俺のアパートがある玉那市は盆地で、寒さはもちろんで暑さも半端なかった。

実家は一応関東圏だが、こんなに蒸し暑いなんてことは殆どなく、早速夏バテ気味だ。

だがそんな日でも店内は涼しいのが、コンビニバイトの数少ない利点の一つだった。


今日は明王大で学部も一緒の大越健太おおこし けんたと組む日で、大越との日はいつもギリギリにコンビニブンブンに着いた。


「よっ、大越。今日も暑いなぁ~」

「おはようございます、中井くん。今日も遅いですね」

「ははは、なんでだろうなー」


惚けたふりをすると、分かっているのか半分呆れているようだった。


「はいはい、ちゃんと仕事はして下さいね」


適当に返事をして、ユニフォームに着替えようとロッカールームに入った。

それにしても、同い年なのに大越は何故か妙に敬語を使ってくるから変な奴だ。


そして二十二時を過ぎて夕勤の子と代わり、大越と店内に出た。

この時間だと大抵人影は殆どなかったが、ふとアイスクリームケースの前でここにいるはずのない後ろ姿を見付けてしまった。

ショートカットでボサボサの頭に、何よりさっき見た覚えがある赤いTシャツに濃い青のジーパン姿。


「……みーずーほーさん!」


予想通り、表に『家がない』と書かれているTシャツを着た瑞穂さんが振り返った。

半分冗談とも言えない文章がプリントされたその赤いTシャツについては、既に夕飯の際に突っ込んだのでここではもう触れないでおく。


「ん? どうしたの?」

「どうしたのじゃありません! なんでそんな格好でうちの店にいるんですか!」

「ここ、あたしの大学からも最寄りのコンビニだし、客なんだからどこにいたって問題ないでしょー」


店で会うのは初めてだったが、瑞穂さんは悪びれもない様子だった。

……しかしよくよく考えてみると、このTシャツを着て玉那駅から電車に乗ってここまで来た瑞穂さんって……呆れて何も言えないとはこのことだろうか。


「まぁそうなんですが……少なくとも、その格好で一緒に電車は乗りたくないですね……あれ、でもなんでこんな時間に? さっきまでうちで珍しくテスト勉強やってたじゃないですか」

「こんな暑い日にそんなのやってられる訳ないじゃない。あ、それよりアイス買ってよーあたしモンスターカップのバニラが好きー」


アイスケースを勝手に開けると、全国共通の緑のユニフォームを着た俺の方に青いパッケージで包まれたアイスを差し出してきた。


「俺は夾の方が好きですし、客って言うなら自分で買って下さいよ!」


アイスを受け取らずにそんなやり取りをしていると、大越が何やら不思議そうな顔をして近付いてきた。

先にレジにいた大越は、俺と同じ緑のユニフォーム姿だった。


「どうしたんですか、中井くん」


大越がそう話しかけると、瑞穂さんは大越の方を向いた。丁度今日の夕飯の際、同じ学部の友達がバイト先にいることが話題に上がっていた。


「あ、初めましてーシュンの飼い主兼ルームメイトの長谷川瑞穂って言います」

「飼い主ってなんですか! 面倒を見ているのは俺の方でしょう!」


誰もいない店内だから良かったが、こんな漫才みたいなやり取りを大越も面白そうに見ていた。

大学でも仲が良い大越には、非常識で面倒見るのも大変な居候のことを一応話してあった。


「ははっ、あなたが瑞穂さんですか。お話は中井くんの方から聞いています。それにしても、面白いTシャツですね」

「うん、だからアイス奢ってー」


文脈を相当無視したやり取りだったが、大越は意表を突かれたように再び笑った。

そして「いいですよ」と言ってレジにアイスを持って行き、ポケットから財布を取り出していた。

瑞穂さんも「わーい!」と言いながらそれに付いていき、今やレジを隔てて二人は向き合っている。

一瞬呆気に取られたが、慌てて俺もレジに向かった。




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