8-4
「えっ……」
割れた音が部屋で響く。
だが放心している俺とみなこちゃんをよそに、佐藤先輩はまっすぐとみなこちゃんを見た。
「オレが好きなのは、お前だ。美奈子」
みなこちゃんはそう聞いて、ただ泣くばかりだった。
そんなみなこちゃんをゆっくりと、まるで割れないように毛布で包む込むかのように先輩は抱き締める。
二人の姿を見届けて、部屋を出て行こうとした。
そんな俺に先輩が気付き、みなこちゃんを抱き締めていた腕の力を解いた。
「中井。ありがとな」
そう言った佐藤先輩は、真正面から俺のことを見てくれていた。
そして先輩の緩めた腕の中でみなこちゃんが俺の方を向くと、何かに気付いた様子で慌ててスカートのポケットに手を入れていた。
「俊也クン、これ……出る時かけてきたから」
俺に向かって、みなこちゃんは手を伸ばしてくる。
受け取ったそれは、新聞受けに入っていたあの封筒の中にあった鍵だった。
急いでいて玄関で落としたままだった。
「俊也クンの優しさにずっと甘えててごめん。でも、瑞穂ちゃんをよろしくね」
みなこちゃんは涙声だったけど、それは嬉し涙のように見える。
それにずっと思い悩んでいたことから解放されたのもあって、少しぎこちないが晴れ晴れとした笑顔を見せてくれていた。
俺は受け取った鍵をポケットに入れ、「うん。ありがとう」と返した後に部屋を出た。
それから、瑞穂さんに何度もかけたが電話に出なかった。
再び探す宛もなく寒空の下を走っていたが、あることに気付いて足を止めた。
──こんなに走っても、背中が汗を全然かいていない。
元々、俺は汗っかきではなかったのだ。
ではどうして、引っ越してから汗がひどかったのか……今では分かる。
「瑞穂さん……」
眠れない夜は先輩の布団に潜り込んでいたという瑞穂さん。
ずっと俺の背中で泣いていたのに、俺は全然そんな瑞穂さんに気付けずにいてしまった。
一刻も早く、瑞穂さんを見付けたい。
その時、一人の名前が思い浮かんだ。
「大越……!」
大越なら瑞穂さんの居場所について、何か知っているかもしれない。
そう思って、俺は大越に連絡した。