8-3
しばらくして、室内にみなこちゃんが入ってきた。
「俊也クン、いきなり出て行くからびっくりしたよ。それに、なんで生人くんちにいるの?」
その質問に俺は短くしか答えなかった。
「瑞穂さんが出て行ったんだ」
「えっ?!」
みなこちゃんはそう声を漏らしたが、俺の口から瑞穂さんの名前が出た事で、どういうことになっているか察したようだった。
「みなこちゃん、みなこちゃんにとって〝本当に好き〟って思える人は誰かな?」
俺が突然脈絡もなくそう聞くと、みなこちゃんは驚いた様子だった。
「え、そんなの決まってるじゃない……」
みなこちゃんは怯えたような表情をしている。
「本当に? じゃあ、誰?」
「それは……」
いつもと違って俺が強い口調でそう問い質すことに、みなこちゃんは戸惑っているようだった。
「俺は、分かってるよ」
みなこちゃんは黙り、目で俺と佐藤先輩を見た。
少しの間の後、俺らが何も言わないことでやっとみなこちゃんは口を開いた。
「……高校生の頃からずっと、生人くんのことが好きだった。
でも、瑞穂ちゃんから生人くんと暮らしているって聞いて、諦めようと思った。
けど、告白されてやっぱり好きで……でも、この部屋に来た時、ここから瑞穂ちゃんを追い出しちゃったんだなぁと思うと、耐えられなくて」
「じゃあ、俺と付き合ったのは?」
そう聞くと、みなこちゃんは俺の方を向いた。
「それは、うちのお店に瑞穂ちゃんが来て、『どういうこと?』って聞いたら、『今、シュンの家で暮らしてる』って言うから……。私が生人くんから離れたのに戻れないでいるのなら、私と俊也クンが付き合えば瑞穂ちゃんも上手くいくんじゃないか、って」
「どうしてそこまでして……?」
俺がそう聞くと、みなこちゃんは必死に訴えかけるような目をした。
「私って、いつも誰にだって愛想良くしなきゃ、嫌われそうで怖いと思ってたんだ。
そんな私にとって、一人でいても自分らしくいられる瑞穂ちゃんはずっと憧れだった。
だから、瑞穂ちゃんのこと、すごく好きだったからどうしても幸せになって欲しくて!
そりゃあ、俊也クンには悪いことしたって思ってるけど……」
みなこちゃんは段々と下を向き、最後は涙声だった。
すると、今度は佐藤先輩が口を開いた。
「それは、オレの意思とか全然踏まえられていないよな」
みなこちゃんは顔を上げる。
俺から見ても目に涙を溜めているのが分かったが、それを堪えるかのように強い口調で先輩に向かった。
「だって、前に生人くんが私のこと好きって言ってくれたけど……そんなの、信じられるわけないじゃない!」
みなこちゃんはそう言うと、先輩の部屋の中でも食器棚がある方に視線を移した。
佐藤先輩はそれを見計らって食器棚の方に向かい、あのペアのマグカップを取り出した。
そして、二つのマグカップを床に叩き付けた。






