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キャリーケースの女  作者: 瀬戸真朝
第二部 七章【瑞穂の物語】
25/39

7-4


そして春休みも近付いた日、春の日差しが気持ち良過ぎてその日はついうたた寝をしてしまった。


「長谷川さん、いい加減起きてちょうだい。もう最終下校時刻よ」


他の生徒たちも帰り支度をしている中、仲良くなった司書教諭に起こされて瑞穂も鞄を持つと最後から大体二番目に廊下に出た。

そのままいつものように生徒用玄関に向かって靴を履き替えたが、ドアを押しても開かなかった。


「どうしよう、出られないよ……」


独り言のようについ呟くと、途端に後ろから声が聞こえた。


「職員用玄関からなら出られるぞ」


振り向くと、図書室でよく一緒になるあの男子が瑞穂のことを見ていた。

その時初めて、その男子の声を瑞穂は聞いた。低かったが、よく通る声だった。

それが、佐藤生人だった。



それまでクラスが離れていて全く話したことがなかったが、何となくその存在を気にしていたのもあり、そのまま駅まで歩きながら会話を交わした。

それ以来、図書室で顔を合わせた後、駅まで歩いて一緒に帰ることが多くなった。

生人は吹奏楽部に入っていたが、活動日以外は図書室に顔を出した。

そして生人も瑞穂と同じで携帯を持ってなく、流行などには興味がないような人だった。

そんな二人は好きなジャンルは異なっていたが、本の話題で盛り上がることが出来た。


その頃、瑞穂は高校卒業後も大学で学びたいとは思っていたが、進路についてそれ以上は考えていなかった。

だが、生人とよく話しているうちに、自分は心の底から本が好きだと気が付いた。

そこで図書館司書になりたいと思い始め、少しずつだが周辺にある大学の文学部を調べるようになった。

しかし瑞穂は理系科目が比較的苦手でレベル的に都内の国公立大は考えらなかったが、私大の殆どは授業料が高額で目指すのも躊躇われた。


生人は、言葉数は少なかったかもしれないが聞き役として長けていた。

相槌を入れて話題を引き出すのも得意で、それもあってか瑞穂は進学への不安を話した。

更に、そうやって相談していくうちに、今まで誰にも言えなかった家庭の事を生人には話せた。


「家なんか帰りたくない。だから、今日もあいつんちに行くの」

「そうか」


大学進学を考えるにはテスト前以外も勉強しなくてはならなかったが、男の家に行ったら勉強どころではなかった。

生人はそんな瑞穂をじっと見ながら、否定も肯定もしなかった。




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