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例えば、父は上の子二人だけ動物園や遊園地に連れて行ったり、自転車をプレゼントしたりした。
だが、瑞穂は自転車どころか衣服さえも満足に与えられず、常に義兄たちが着なくなったボロボロの男児用の服を着ていた。
食事も義兄が残したものを食べられたらまだ良い方で、食事が余らなかった際は瑞穂の分はなかった。
瑞穂の顔が実母似だったのを気に食わなかった義母はともかく、父までもそんな瑞穂を見なかったことにし、幸せな四人家族の一人として過ごしていた。
「お父さん、どうしてあたしにはくれないの?」
ラジコンをプレゼントされて喜んでいる義兄たちを見て、父に向かってたった一度だけそう聞いた事がある。
別にラジコンや何かが欲しい訳ではなかった。
ただ、何故なのか聞きたかった。
「お前に優しくすると、みんなやきもちを妬いて大変だろう? お前のためでもあるんだ。それに、お前もお父さんに幸せになって欲しいなら我慢しなさい」
父は小声でそう言うと、義母からの視線を感じて「しっしっ」と、瑞穂を手で払った。
まだ若かった父は余裕が無く、今度こそ結婚生活を成功させたいと思い、新しい妻に頭が一切上がらなかった。
そんな姿を見てきた瑞穂は父の立ち位置が分かったし、幼心に父の幸せを祈る気持ちはあったので期待するのはやめた。
小学校の頃からその身なりを理由にいじめられることが多々あり、瑞穂は読書に没頭した。
学校の図書室はタダで本がいくらでも読めた。
本の世界にいる間は、外の世界の事なんて忘れていられる。
その分、下校時刻のチャイムが本気で憎かった。
チャイムが鳴ると、本を抱えて外に出るしかない。公園に行くと同級生にいじめられるし、日が暮れてだいぶ経つまで家には入れてもらえなかった。
結局、スーパーのベンチで読んだりしたが同級生に見付かる事も多く、本を読む場所には困った。
中学生になって義兄が使っていたボロボロの自転車を貰い、二駅離れた市立図書館に行く術を身に付けるまでその苦労は続いた。
中学でも成績は比較的優秀に保ち、返済不要の奨学金を糧に高校に通える目途はついた。
だが家庭環境は何も変わらないままで、父は相変わらず義母の味方だった。
そして高校入学前の春休み、高校二年生で次男である義兄からついに暴行を受け、それから何かが吹っ切れたかのように家に帰らなくなった。
瑞穂はそれほど美人というわけではなかったが、夜の街を一人で歩くような少女に群がる男は多かった。
瑞穂があの紺色の制服を毎日纏うようになる頃には〝彼氏〟という名の男を作っては、男のマンションやアパートを転々としていた。
そんな日々を送るまではずっと、瑞穂は一人だった。
けれど、体さえ許せば男たちはいつでも一緒に眠ってくれた。
体温の温かさがすぐそばにあること。
それは瑞穂にとって、こんな自分でも誰かに求められているように思えて嬉しかった。