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キャリーケースの女  作者: 瀬戸真朝
第一部 六章【そして、長い長いクリスマスイブの始まり。】
21/39

6-4

*      *      *


「……どうした?」


中成大近くにあるアパートの玄関。

突然押し掛けた俺に、黒のズボンに上は白のYシャツ姿で出迎えた佐藤生人先輩は少し驚いた様子だった。


「お話が、あります」


──三ヶ月前、瑞穂さんがみなこちゃんと偶然顔を合わせた日。

あの日はつい、みなこちゃんと瑞穂さんのやり取りに意識がいってしまっていた。

だが店に入った時、瑞穂さんが先に視線で捉えていたのは佐藤先輩の方だった。

その様子から、少なくても二人が知り合いであるように思えた。

俺の表情を見て、佐藤先輩も何かを察した様子だった。


「ああ、いいだろう」


招き入れられて靴を脱ぐと、廊下を抜けて部屋に入った。

前に大越を含めたバイト仲間と大勢で来たことがあったが、改めて室内を一望する。

同じワンルームでも俺の家と比べて三倍くらいの広さを感じる。

室内は白や黒を基調としたシンプルな家具でまとめられていた。

それもあって、ダイニングキッチンにある食器棚の中でも、手前に置かれたパステルカラーの優しい色をした赤と青のそれぞれ二つのマグカップがこの部屋に不似合いで妙に目立っていた。

勧められた椅子に俺が腰掛けると、佐藤先輩は白の無地のカップに紅茶を入れてくれた。


「ミルクと砂糖はいくつ必要だ?」

「いえ、なくて大丈夫です」


そう答えると珍しく先輩が少し笑ったので「どうしたんですか」と聞いた。


「ミルクと砂糖を好む奴がいたもんだからな、つい。そいつはミルクがないと飲めないからってコップ半分まで牛乳を入れて、砂糖なんて軽く四杯は入れていた」


まるで何かを懐かしんでいるかのような表情を佐藤先輩はしていた。こんな先輩を見るのは滅多にない。

そういえば、大量の砂糖と牛乳が入ったミルクティーを瑞穂さんはよく飲んでいた。


「……長谷川瑞穂さんを、先輩はご存知なんですか?」


先輩は深く頷きながら、テーブルを挟んだ向かい側に座った。


「ああ。知っているというより、瑞穂とは高校からの友人だ。お前のとこに行くよう言ったのもオレだしな」

「えっ!? そうなんですか?」


半年の間、瑞穂さんと過ごしていたがどちらも初耳の話だった。


「なんだ、瑞穂から聞いてないのか?」


心の底から驚いている俺とは対象的に、佐藤先輩は涼しい顔をして紅茶を啜っていた。


「聞いてないですよ! それに、先輩があの瑞穂さんと高校の時からずっと友達?! 全く信じられないんですけど……でも、なんで俺の家を教えたんですか?」

「一人暮らしを始めるって言ってたし、バイト先に住所も置いてあったしな」


確かに、住所がどこから漏れたかは不思議に思っていた。

だが、それよりも聞きたい事があった。


「そうじゃなくて、どうして先輩は瑞穂さんに俺の家に行くように言ったんですか?」


すると、思ってもいなかったような言葉を佐藤先輩は発した。


「お前なら、一番信用出来ると思ったんだ」


さっきと違って淡々とはしていたが、佐藤先輩は笑うことなく俺をじっと見ていた。


「どういう、意味ですか?」


尊敬している先輩からの言葉に驚きを隠せなかった。

先輩は立ち上がり、キッチンの方へゆっくりと歩く。

しばらくして振り返ると、俺の方を見た。


「オレと瑞穂が出会ったのは、高校一年の終わりだった」


そしてゆっくりと、先輩は話し始めた。


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