6-2
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そして二十四日の朝。昨日から冬休みだったが、もちろんいつもより早く起きた。
だが起き上がって背中を触ると、やはり濡れている。
もう十二月なのに今だに汗をかいていた。実は汗っかきだったのか、俺?
ともあれ、この日のことを考える度に浮き足立っていた。何せ、今日が初めての密室デートだ。
もし、あのみなこちゃんと……キキキキキスなんてして…………うわぁ、俺どうすれば!
もう何度目か分からなかったが、朝から自然と顔が緩んでしまった。
そんなこんなで、みなこちゃんとは外で会ってお昼を食べてから家に来る予定だったから、俺は早くから家を出た。
瑞穂さんは家を出る時にまだ寝ていたが、午後までには家を空けてくれるはずだったし、部屋の掃除は前日に全部済ませていた。
だから何もかもが万全で、安心してみなこちゃんを招き入れられると思っていた。
「ここが俊也クンのおうち?」
白いダウンジャケットの下に、ピンクのフリルが付いたワンピースを着たみなこちゃんと一緒に家に戻ったのは午後一時近くだった。扉の前で、先に歩いていた俺は足を止める。
「そうそう、ここなんだ。見た通りボロくてごめんね」
「ううん、全然だよ~」
明らかに気を遣ってもらいながらも、みなこちゃんと並んで鍵を入れてドアを開ける。
そして中に入ると捨て忘れたのか、玄関にゴミ袋があるのが内心気になった。
「わぁ~、これが俊也クンのお部屋なんだぁ~」
奥の方に進むとみなこちゃんはそう言ったが、一方で驚きのあまり俺は言葉が出なかった。
棚に並んでいたはずの酒瓶は一つも残されていなかった。
それ以外にも、部屋中に散らばっていた自分の物ではなかった物たちは、あるはずの場所に何一つ置かれていなかった。
何より、部屋の隅に置かれていたあの黒い革のキャリーケースがなかった。
──瑞穂さんがいた形跡が、どこにもなかった。
あたりを何度も見回す俺に「どうしたの?」とみなこちゃんは声をかけてきた。
だが、それに答える余裕は全くなかった。
ふと、ゴミ袋があった気がして玄関に行く。
青い色の燃えないゴミ袋を開けると、中からは夏に使ったあの浮き輪やビニールバックが出てきた。
『また、来年行こうね』──俺が頷くと、無防備に笑顔を見せた瑞穂さんの姿が頭に過ぎる。
他にも何かないかと手当たり次第探す中、玄関の新聞受けを開けると封筒が一通入っていた。
慌ててそれを開ける。中には瑞穂さんにいつか渡した合鍵と、一枚のルーズリーフが入っていた。
ルーズリーフの方に意識が向いていると鍵を落とし、無機質な音が響く。
けれど拾う気にはなれなかった。
手が震えながらもルーズリーフを広げる。
中には詩のようなものが書かれていたが、パッと見ただけでは意味が読み取れなかった。
苛立ちながらも、それを丸めてジーパンの後ろポケットに入れる。
「俊也クン、どうしたの?」と後ろから心配そうな声音で再び尋ねられた。
みなこちゃんの方を俺は振り返る。
「ごめん!」
それ以上は何も言えなかった。
ともかく、心臓の音だけが体中に響く。瑞穂さん!
「どこ行くの、俊也クン?! 待って──」
みなこちゃんの言葉が終わらないうちに、俺は玄関から飛び出していた。