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○第6章
その後、遠出したりする話はまだなかったが、バイトがない日に時々みなこちゃんと会っては喫茶店などで楽しく話した。
そして街中がクリスマスのイルミネーションで輝く頃になって、「俊也クンって一人暮らしだよね? 今度のクリスマスイブ、おうち行ってみたいなぁ」とみなこちゃんの方から言ってきた。
大学の友達が遊びに来ると言うと、今まで何かと理由を付けて断っていた。
だが嬉しさのあまりつい、「もちろんだよ、是非来てよ!」と言ってしまった。
そして帰り道の途中でも、みなこちゃんがうちに来ると考えると色々と妄想が止まらなかった。
そのせいで、家に着くまで瑞穂さんのことに気付かなかった。
「おかえりー、今日も遅かったねぇ。作ってくれたカレー、先食べてるよー」
玄関のドアを開けて中に入ると、俺が行く前に作ったカレーを瑞穂さんは食べていた。
──みなこちゃんと付き合ってからも、瑞穂さんはうちにいる。
大越には口止めしていたから気付かれていなかったし、暦はもう十二月で季節は冬だった。
「彼女が出来たから出て行って欲しい」なんて今言ったら、瑞穂さんはどうなってしまうのだろう。
そう考えると、何故だか言えなかった。
何より、瑞穂さんとの生活は楽しかった。「何かあったりするんじゃないですか?」と夏休み前に大越から言われたが、そんなことは何一つない。
けれどともかく、憧れていたはずの一人暮らしよりも瑞穂さんと二人の生活の方がいいといつの間にか思っていた。
「カレーどうですか?」
「うん、おいしいよー」
自分の料理を『おいしい』と食べてくれる人がいてくれるのは素直に嬉しい。
「じゃあ俺も食べますかね」
結局、台所の食器棚から自分のカレー皿を出しながら、さっきの話をすることにした。
「あのー、瑞穂さん」
距離のせいでいつもより大きな声で話しかけると、瑞穂さんは食べながら「なにー?」と返してくる。
「あのですねー、来週の木曜、午後からでいいんで家空けてくれませんかねー?」
瑞穂さんは食べ途中だったみたいで飲み込んでいるらしく、返事が返ってくるまで時間がかかった。
「いいよ」
ご飯とカレーを皿によそった頃になって、そう返事が聞こえてくる。
良かったと安堵しつつ、今までにないぐらいにクリスマスイブが来るのを期待して待った。