5-2
どこに行ったのか分からなかったが、しばらくして店の裏の方から声が聞こえてきた。
よく聞き取れなかったが、一人分の女性の声しか聞こえない。
理由は分からないが、瑞穂さんがみなこちゃんを何か怯えさせるようなことをしているような気がして心配になった。
「ダメですよ、瑞穂さん!」
俺が影から現れると、二人とも驚いた様子だったが、先に反応したのはみなこちゃんだった。
「大丈夫だよー、ちょっとお話してただけだから」
そうやっていつものように笑うみなこちゃんを見て、一安心した。
だが瑞穂さんを見ると、下を向いたまま座り込んでいて、表情が分からなかった。
「久しぶりに会ったから、瑞穂ちゃんもびっくりしちゃったみたい。もう大丈夫だし、瑞穂ちゃんも帰るみたいだから。ね?」
みなこちゃんが笑いかけると、瑞穂さんは少しの間の後に頷いた。
みなこちゃんの言い方はまるで、小さな子供を言い聞かせているかのようだった。
そして瑞穂さんは立ち上がろうとしたが、途端によろめいた。
慌てて俺は瑞穂さんの横に行き、腕を持った。
「私、先にお店戻るね。俊也クンも早めに戻って来てね」
みなこちゃんはそう言って戻ったが、せめて駅までは送ろうと瑞穂さんを立たせた。瑞穂さんがおかしい。
「駅まで送りますから……瑞穂さんって、みなこちゃんと友達だったんですね」
髪が邪魔で、瑞穂さんの表情は相変わらず見えなかった。
だが腕を支えたままニ、三歩歩くと、瑞穂さんは掴んでいた俺の手を勢いよく離した。
「一人で帰れるから、いい」
俺のことも見ずにそう言うと、駅の方に走り出してしまった。
ただ、一瞬顔が見えると瑞穂さんが泣いているようにも見えた。
けれど、心配しつつ明け方近くになって帰ると瑞穂さんはいつものように寝ていた。
翌日起きた後も、瑞穂さんはいつも通りのわがまま全開で笑っていて、その様子から今更掘り返す気にならなかった。
それにみなこちゃんも何もないようだし、あの夜見た気がする涙はやっぱり気のせいだったのかと思うと段々気にしなくなっていた。