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○第五章
九月下旬になると、うちの大学はもう後期が始まっていた。
夏休み中はバイトの回数を多くしていたが、再びいつものペースに戻していた。
一方で中成大はまだ夏休みで、瑞穂さんは今頃家でごろごろしている。
今日はバイトで、大越と組む日だったからギリギリに行っていた。
ところが店に行くと、そこにいたのは佐藤先輩だった。
「おはよう……ございます? あれ、なんで佐藤先輩が?」
いるはずもない佐藤先輩がいることで、驚きと戸惑いを隠せずに聞いた。
「オレはまだ休みだし、課題があるから交代して欲しいって大越が昨日言ってきたけど、聞いてないのか?」
「そうでしたっけ? 聞いてなかったっす……くそっ、大越の野郎逃げやがって」
最後の方は小声だったが、大越に課題があるということはもちろん俺にもある訳である。
でもバイトがあるからって優先して来たのに!
けれどみなこちゃんの姿を見た途端、そんな思いも吹っ飛んだ。
みなこちゃんは白いふわふわのスカートを着ていて今日もかわいい。
「おはよう、俊也クン。今日は仲良しの健太くんがいなくて残念だねぇ」
「そうなんだよ~すごく残念だよ!」
さっき自分で言った一言をなかったことにするぐらい、俺はみなこちゃんの前で取り繕った。
うちのコンビニは二つの大学がターゲットなのもあり昼間は混み合う分、民家があまりないためか夜勤の時間帯に客は少ない。それをいいことに、店内に出てからもレジを隔てて三人で話していた。
そんな時、突然ドアが開く音がした。お客さんが来たのかと思い、慌てて「いらっしゃいませ」と俺と佐藤先輩が言う。
だが、そこにいたのは瑞穂さんだった。
ドアが開いても、瑞穂さんは入口で立ち尽くしていた。
いつも大越がいる日に来るのもあって、今日はいないことに驚いているのかと最初は思った。
だが瑞穂さんの視線は佐藤先輩、そしてみなこちゃんの方に向いていた。
「瑞穂ちゃん……? なんで? どういうこと?」
みなこちゃんがそう言うと、瑞穂さんは店の中に入らずにどこかへ走り出した。
みなこちゃんもそれを追う。
ドアチャイムの音だけが店内にむなしく響いた。
「えっ、追わないと!」
「中井、今は勤務中だ」
慌てて追おうとしたが、佐藤先輩は冷静にそれを止めた。
勤務中にも関わらず、むやみに店の外に出るのはご法度だ。
先輩の言っていることは分かるし、普段ならそれに従った。
──けれど、嫌な予感がする。
「すみません、出ます!」
佐藤先輩の制止を無視し、店の外に出た。