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キャリーケースの女  作者: 瀬戸真朝
第一部 四章【もう二度と、見れないもの。】
13/39

4-3

「どうして切れないのに台所行ったんですか!」


俺が怒ると、瑞穂さんは「だって……」と呟いた。


「だって、羊羹好きなんだもん。とらやの羊羹なんてなかなか食べられないし、つい」

「それで怪我したらどうするんですか、もう!」


ふて腐れている瑞穂さんをよそに、実際俺は少し怒っていた。

無傷で済んだからともかく、もし怪我なんてしていたら……。


「いやぁ、中井くんって思っていたより過保護なんですね」

 

馬鹿にしたようににやにやと笑う大越に「うるせー」としか言えなかった。

というか、手土産に瑞穂さんの大好物らしい羊羹を持ってくるとか、こいつもしかして計っていたんじゃないか……?


「でも本当、中井くんが引き受けてくれて助かりました、ありがとうございます」


悔しかったが、考えてみれば実家に帰らなくていい理由が出来たから案外いいことなのかもしれない。

日帰りでもいいから、一日ぐらいは帰ることにするとしても。


「あ、それと実はもう一つあって」


大越はそう言うと、持っていた鞄からチラシらしき紙を取り出すと瑞穂さんに渡した。


「それ、今朝の新聞に入っていまして」

「大越、お前、新聞取ってるのか?」


自宅生ならともかく、一人暮らしで新聞を取っているというのは俺の周りではあまり聞かない話だ。まぁ、佐藤先輩とかなら取っていそうだけど、大越が取っているのは意外だった。


「何言ってるんですか中井くん、経済学部なんですから当たり前ですよ。ちなみに僕は主な新聞三紙の他に、英字新聞も読んでいます」


耳が痛い。それにしても、新聞四誌取ってるなんて月額でも馬鹿にならない額だ。

し、信じられねぇ……どんだけ金持ちなんだよお前……。

一方で瑞穂さんの方を見ると、さっきまで無心に羊羹を頬張っていたはずが、今では大越から渡されたチラシに釘付けだった。

俺も横から覗き込んでみる。


「えーと……『玉那ランド 夏の花火大会』……?」


それは、電車の窓からよく見えるあの観覧車がある遊園地で行われる花火大会のお知らせだった。


「毎年やっているみたいなんですが、年末であの遊園地が閉園するみたいなんですよ。これで最後ですし、もし良かったら今度の日曜日に行きませんか?」


確かにチラシをよく見ると、『今年が最後の花火大会』と大きく書かれている。

玉那ランドは小さい遊園地で、どちらかと言うとメリーゴーランドのような子供向けの乗り物が多く、絶叫系好きの俺みたいな大人にとって物足りない所だと聞いていた。

だから行く気はなかったのだが、もう二度と行く機会がないかもしれないと考えると、一回くらいは行っといてもいい気がしてきた。


「瑞穂さんはどうします? そういえば今年まだ花火見てませんもんね」


横から俺がそう聞いたが、瑞穂さんはチラシから目を離さなかった。

不安に思って瑞穂さんの顔を覗き込もうとすると、大越が言葉で遮ってきた。


「いや、中井くんは来なくていいですよ」

「うるせー。バイト休みなんだから行くに決まってるだろ」

「来なくていいですってば」


そんなやり取りを何度かしていると、瑞穂さんがチラシから顔を上げた。


「行く」


こうして、八月の終わりにある花火大会に三人で行くこととなった。


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