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キャリーケースの女  作者: 瀬戸真朝
第一部 四章【もう二度と、見れないもの。】
12/39

4-2


少しして、瑞穂さんが部屋に戻ってきたかと思えば、俺がよく着るような緑の柄シャツに黒のTシャツ姿の大越を後ろに付けてきた。


「大越くんが来たよー」


俺の前だけならともかく、ダボダボのTシャツに水色で縞々模様の半ズボンという部屋着の格好で大越を迎えるのはどうかと思ったが、瑞穂さん本人は気にしていないようだった。

少しは恥ずかしいとか感じないのか……?


「大根じゃなくてごめんなさい、ただの大越です」


入って来た大越はにこやかな笑顔で俺に向かって謝ってきた。

〝大根〟と〝大越〟をかけているつもりなのか分からんが、少しウザいと思ってしまったのは気のせいだろうか。


「なんだよ、朝っぱらから。俺が夜勤明けだって知ってるだろ」

「いや、起きるまで瑞穂さんと待っていようと思っていたのですが、起きていて良かったです」


そう言いながら、いつも使っている四角い形をした机の前に大越が座ったので、俺も布団から出てしぶしぶ向き合って座る。

だが、なかなか用件を話さないのが更に苛々した。

一方で、瑞穂さんはお茶の用意をしようと台所に立っていた。

ラーメンが作れない瑞穂さんでも、紅茶を入れるのは何故だか得意だった。


「で、何だよ。用件は?」

「実は折り入って中井くんに相談があるんです」


丁度その頃になって、瑞穂さんは紅茶が入ったカップを二つ持ってきた。

だが、両手に持っているが、カップが熱いらしく何だが見ている方が危なっかしい状態だ。

慌てて二つ分のカップを俺が受け取った。


「え、あたしいちゃまずい?」


瑞穂さんが聞くと、大越は否定した。


「いや、むしろ瑞穂さんがいてくれた方が嬉しいです」


それを聞いて瑞穂さんは嬉しそうに自分のカップと砂糖を持ってくると、俺と大越の間に座った。

瑞穂さんの紅茶には既に牛乳がカップの半分以上入っている。

ストレートじゃ飲めないと瑞穂さんは言って、いつも牛乳をたっぷり入れたミルクティーにしていた。


「実はですね、お盆のシフトの件なんですが、僕の代わりに入ってくれませんか?」

「はぁ? 俺だって実家帰ったりするぞ」


俺らの話を聞きながら、瑞穂さんはミルクティーに砂糖をまず一杯入れた。


「店長がお盆の期間中、時給五十円アップって言ってますよ」

「んーー、それはおいしいけど、でもなぁ……さっき実家から電話あったばっかだし」


瑞穂さんは笑顔で砂糖の二杯目を入れた。ついでに三杯目。

今日は更に四杯。

やっと瑞穂さんは満足したらしく、スプーンでミルクティーをかき混ぜていた。

大越は驚いた顔で瑞穂さんを見ていたが、俺はこの光景に既に慣れていた。

そんな瑞穂さんを気にしつつ、大越は俺の方を見て頭を下げてきた。


「そこを何とか! 僕も実家から帰って来いって言われていてですね……これ、後で瑞穂さんと一緒に食べてください」


そう言って、大越が差し出したのは羊羹らしき包みだった。


「あー! 『とらや』の羊羹だー!」


瑞穂さんは早速それを持って、台所に向かった。

だが瑞穂さんが上手く包丁を使うとは思えない。

俺も慌ててその後を追おうと立ち上がった。


「決まりですね」


まだ決まってないと言おうとしたが、「うわぁっ!」という声が聞こえてそれどころじゃなかった。

結局、俺は大越をスルーして台所に向かった。



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