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○第四章
「シュンー、なんか野菜がいっぱい届いたよー」
午前中からいきなり玄関のチャイムに起こされたが、瑞穂さんが出てくれたらしい。
「あー……ありがとうございます」
バイト明けで俺は寝惚けながらもそう答える。
瑞穂さんが興味津々に段ボールの中の野菜を見ているのを布団の上で眺めていると、タイミングを計ったかのように俺の携帯が鳴った。
「野菜ありがと……あーもう、はいはい、お盆には帰るってば。じゃあ、また連絡するよ、母さん」
電話を切ると、俺は少し溜息を吐いた。
最近、母さんが実家に帰って来いとうるさい。
この野菜もそれらの攻撃の一種だろう。
もうすぐお盆だからだろうけど。
実家はここから二時間もかからずに着く距離にあったが、うちは代々農家の家系だった。
今は兼業で、大学を卒業したら地元に帰って来て公務員になれと言われている。
まぁ、たとえ経済学部に通っていても今の俺の成績じゃ無謀な話だけど。
将来のことをよく考えろと言われても、俺にはピンと来ないんだよな。
それより今は、こうやってコンビニでバイトしながら(田舎だけど一応)東京で自由気ままに暮らししてるのが一番気楽だ。
だから、実家に帰りたいとかあまり考えなかった。
……多分、身近にうるさい人がそばにいるから、寂しいとかあんま感じないのもあるだろうけど。
「シュン、実家帰るの?」
瑞穂さんがこちらを見ながらそんなことを聞いてきた。
心なしか、瑞穂さんが少し寂しそうな表情をしているような感じがする。
「んー、もうすぐお盆なので少しは帰らないとまずいみたいですね……あー、めんどくせー」
瑞穂さんは「そっか」とだけ言うと、野菜を冷蔵庫にしまい始めた。
「俺が向こうに行ってる間、瑞穂さんの飯とかどうすればいいですかね? 瑞穂さんの料理は食べられるようなもんじゃないですし……」
小さい頃からあまり食べなかった影響か、インスタント食品や冷凍食品といったものをあまり買い置きしなかった。
それもあって普段からいつも俺が食事を作っている分、俺がいない間の瑞穂さんの食生活がどうしても気になった。
何せ、ラーメンさえもまともに作れない人だ。
「馬鹿にしないでよ、コンビニとかあるんだから適当に食べるわよ!」
瑞穂さんは手を止めて言い返してきたが、自分で作ると言い張らないあたり本人も分かっている。
初っ端で披露してもらった黒ずくめの料理たちの味は瑞穂さんもよく知っていた。
瑞穂さんに悪いと思って俺は完食したが、その後一日中寝込むぐらいの代物だ。
一体、俺の家に来るまで瑞穂さんはどうやって暮らしていたのだろう。
そんなことを考えているうちに、瑞穂さんの実家の話って聞いた事がないなとふと思った。
大富豪の際にチラッと東京出身だと言っていたが、それ以上のことは聞いていない。
ま、いっか。別に知って何か変わる訳でもないし。
それにしても、実家いつ帰ろうかなぁー。
そうやって珍しく早い時間から起きて考えたりしていると、再び玄関のチャイムが鳴った。
「また野菜かな?」
「いや、それはさすがになくないですか?」
俺はそう言ったつもりだったが、「野菜なら今度は大根がいいなぁー」と勝手な事を言いながら瑞穂さんは玄関に向かった。