カーネーション 〜銀の世界を渡る旅〜
秋の光が、キャンバスの上に静かに伸びてゆく。これは、ほんの小さな空間で繰り広げられる、自由への旅の記憶。
秋の光が、キャンバスの上に静かに伸びてゆく。
彼女はそこに、銀のフックに腰掛けていた。右脚はロッドに沿い、左脚はぶらりと揺れ、その上の手は何かを強く握りしめている。黒い影が、彼女の白いドレスを染めていた。折り重なるひだや翻る裾は、まるでカーネーションのよう。秋の光が、物言わぬまま横たわる、咲き誇った花へと降り注ぐ。
動きはない。
微動だにしない。
彼女は、風のように静かだった。
彼女はあたりを見回した。
銀色のドアノブ。森の苔の帯をまとった、モップの長い銀の柄。そして、静まり返った銀のスツール。
まぶたが大きく開かれ、白目が露わになる。目の奥で形を成していく思考を、じっと見つめて。彼女が選ぶのは、静寂ではなく、自由になること。
強く握りしめた。フックを揺らすと、身体がそのリズムを追う――
左。右。左。右。
柄へと飛び移る。滑り降りてゆく。緑が目に入った。息を止める……
そして、跳躍した……
滑り、掴み、座面へと着地する。
肩の力が抜け、強張っていた顎が緩み、……はっと息を吐き出した。
見上げると、そこにはフックの影。揺れている。
左……右……左……右……
真っ直ぐに立ち上がり、次に来るものを見据えるために座面の端へと歩んだ。窓が閉じるように目を閉じ、深く息を吸い込む。
指をリムにかけ、大きくスイングするまで脚を震わせる……
手を離し、ほんの一瞬、宙を舞った。傾いた銀のレバーを捕らえる。それは彼女の重みで、うめき声を上げながら回転した。彼女はその周りをループし、自らを弾き飛ばす。
銀の円柱に激しく叩きつけられ、柱に手足を固く絡ませた。ドレスを銀の肌に押しつけながら滑り降り、光り輝く鏡のベースへと達する。
真っ直ぐに立ち上がり、カーネーションのように折り重なり翻る白いドレスをふわりと整えた。
座面が、彼女を秋の光から遮っている。
肩の力が抜け、強張っていた顎が緩み、長い息を吐き出した……
足元を見つめると、自身の反射がこちらを見返していた。花びらを整え、彼女は腰を下ろす。そこに彼女はいたが、手元にあるのは己の反射と影だけ。すべての花がそうであるように、彼女は佇んでいた。
孤独に……
実はこの物語、トイレの便座に座っている時に思いついたものです(笑)。
そこに座っていたら、ふと一足の靴下が目に留まりました。じっと見つめれば見つめるほど、それが白いドレスを着た女性のように見えてきたのです。
当初は「彼女は銀色に触れることができない」という設定を物語の核心にするつもりでした。しかし、自分の感覚の赴くままに筆を動かした結果、彼女が自分のドレス(白)以外には「銀色」だけを意識し、銀色の世界を渡り歩いていくという、今の形にたどり着いたのです。そこから即興でストーリーを紡ぎ出し、色を添え、感情を吹き込んでいきました。トイレを済ませると、私は急いでノートに駆け寄り、一気に3ページ分を書き殴ったのです。




