第6回
6
高瀬を先頭にして階段を駆け下りる。
高瀬曰く、零士さんは六号棟から七号棟の脇を抜けて、八号棟の方へ向かったらしい。
身の危険を鑑みてそこで引き返したために、その先何処へ向かったかはわからない。
それでも僕らは、とにかく零士さんの足取りを辿ることにした。
僕らを見逃がした以上、零士さんの次の目的は恐らく大鳥望であるはずだ。
今だに僕らを見逃がした理由は解らないけれど、或いは僕らの実力的に、始末するのは容易いと判断して、後回しにしただけか。
――いや、零士さんのあの表情からは、決してそんなことは考えられない。
明らかに零士さんの様子はおかしかった。
これまでに見てきた零士さんの、あの飄々とした姿はどこにも感じられなかった。
どうして零士さんは、僕らを……
七号棟を抜けた先に建つ八号棟。
話し声はおろか、物音一つない静まり返った棟間を、僕らは銃を構えながら、辺りに注意を払いつつ進んでいった。
七号棟のベランダ側を見上げ、次いで八号棟の廊下側に視線をやる。
「……どうする? 八号棟の中も確認していくか?」
高瀬の言葉に、僕は静かに頷いた。
八号棟の階段をあがり、横にのびる廊下の左右を確認する。
それから上の階へと続く階段の先へと耳を澄ませてみれば、微かにコツコツと足音が遠ざかっていくのが聞こえてきたような気がした。
「今の、聞こえた?」
囁く美月に、僕は頷く。
慎重に階段を二階へ上がり、その廊下を確認する。
――いない。
そのまま三階へ上がり、同じく廊下の左右に視線をむける。
――やはり、いない。
もう一度耳を澄ませてみれば、微かな足音はもうひとつ上の階から聞こえてきているようだった。
僕らは顔を見合わせて頷き合い、さらに上の階――四階へと足を向けた。
恐る恐る、廊下を覗き込むようにして確認すれば、
――きぃ、ばたん。
左側の一番端の部屋から、扉を閉める音が聞こえてきた。
僕らは足音を立てないように、そちらの方へと進んでいった。
果たしてこの先にいるのは零士さんか、それとも大鳥望か。
緊張しながら扉の前に立ち、ゆっくりと耳を押し当ててみる。
「……?」
けれど扉の向こうからは物音ひとつ聞こえはせず、僕はふたりに首を傾げた。
どうしよう、中に入って確認してみるか。
それとも、ここで入っていった誰かが出てくるのを、静かに待ち伏せているべきか。
少しばかり逡巡しているところで、
「お、おい! 悠真!」
廊下から下を覗き込んでいた高瀬が、慌てた様子で声を上げた。
「あれ、零士さんと大鳥じゃないか?」
「えっ?」
そんな馬鹿な。
思いながら、高瀬の指さす階下を覗き見れば、確かにそこには零士さんと大鳥望の姿があって、一号棟の方へと逃げていく大鳥を、零士さんは銃口を彼に向けながら、静かに追いかけているところだった。
……じゃぁ、さっきこの部屋に入っていったのは、いったい誰だったというのか。
いま一度部屋の扉へと視線を向けて、僕の背筋にぞくりと怖気が走る。
僕は呼吸が乱れるなか、恐る恐るドアノブに手を伸ばした。
「ゆ、悠真くん?」
不安げに口にする美月を数歩遠のかせてから、僕は一気にその扉を開こうとして。
「なにやってんだ、馬鹿野郎!」
高瀬の怒る声と共に、バタンと扉が閉じられる。
「ほら、俺たちも早く行くぞ! 零士さんたちを追いかけないと!」
急かす高瀬に、僕は後ろ髪を引かれるような思いのまま、
「――あぁ、わかった」
美月にも背中を押されるように、高瀬たちとふたたび階段を駆け下りたのだった。




