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マーダーゲーム・トライアル  作者: 野村勇輔
Stage4 残影の住棟

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第2回

   2


 僕らの間に緊張が走るのと同時に、僕はその可能性を、頭を振って否定した。


 まだだ。まだ、わからない。


 僕たちの予想が外れている可能性だって十分あるのだ。


 拳銃を手にしているのが、僕たちや零士さんだけとは限らない。


 僕は振り向き、そこに倒れる今井誠二の身体に駆け寄った。


「な、なにをしてるの――!」


 美月が驚いたように眼を見張るのを横目にしながら、僕は重たい今井の身体を仰向けに回転させ、その身体中をまさぐってみる。


 ――あった。


 僕は今井の懐に隠してあったそれを抜き取り、確認する。


「おまえ、それは……」

 高瀬も僕と同じく、眉を寄せた。


 僕が今井の懐から取り出したもの、それは僕たちが零士さんから貰ったものとはまた違う形をした拳銃だったのである。


「……高瀬、この拳銃の種類、わかる?」


 訊ねれば、高瀬もまた僕のところまで歩み寄ってきて、まじまじとその拳銃を確かめてから、

「――たぶん、マカロフ、かな」

 顎に手をあてながら、そう口にした。


「なんで、この人も銃を……?」


 口を覆う美月に、高瀬は首を横に振って、

「たぶん、ヤクザかなにかなんじゃないか?」


 そう言われれば、今井の顔は如何にも反社的な顔であり風貌だった。


 この男がヤクザであったとしても、僕は何も疑いを持たないだろう。


 でも、それだけじゃない。


 僕は改めてスマホを取り出し、もう一度参加者リストに目を通した。


 大鳥望も、桜井良彦も、そして零士さんも――こうしてもう一度彼らの顔を見比べてみれば、ある種異様な雰囲気を醸し出している。


 もし零士さんもヤクザか何か、反社会的勢力のメンバーなのだとしたら、僕らにくれたこの拳銃の出所も納得がいくというものだった。


「どう思う、高瀬」


「……俺も、悠真に一票だな」

 高瀬は深いため息を吐きながら、

「まぁ、前々からその可能性は考えてたけどな。じゃないと、そんな簡単に拳銃なんて手に入れられないだろ、普通は」


 うん、と僕は頷き、美月に視線をやった。


 美月もやはり同じようなことを考えていたのだろう。やっぱり、という表情で、自身の握るGlock19を見つめている。


「他の参加者も、みんな似たような顔してんのな。同業者じゃねぇの?」


「僕もそう思う」


 僕と高瀬は互いに頷き合い、いま一度手にした拳銃の弾倉を確認した。


 もしここにいる参加者の全員が拳銃を所持しているのだとすれば、この先どんな展開が待ち受けているのか想像に難くなかった。


 今井は後ろから誰かに狙撃され命を落とした。


 僕らも同じ道を辿ることになるかもしれず、もし殺人者と対峙すれば、互いに拳銃を撃ちあうことにもなるだろう。


 もしそうなったとき、拳銃を撃ち慣れていない僕らの方が圧倒的に不利といえる。


 僕らがもし殺人者に対抗し得るなら、それは数だ。


 三人で確実に殺人者を仕留める。


 例えそれが――零士さんであったとしても。


 僕は殺人者が零士さんでないことを祈りつつ、そして残る参加者が拳銃を所持している可能性を十分に心にとどめながら、

「――行こう。誰が殺人者なのか、探らないと」

 ふたりにそう声をかけたのだった。


 僕らは辺りをもう一度見まわし、そして今井を撃ち殺した人物がいたであろう方向へ進むことを選んだ。


 美月はやはり不安がったが、けれど、僕らの最低限の目的は殺人者を仕留めてこのステージを終わらせることにある。


 ゲームそのものから抜け出すことが最終目標ではあるのだけれど、今ここでそこにばかり注力していてもしかたがない。


 優先順位をつけつつ、確実な道を選んでいく。


 僕と高瀬は話し合い、そして美月を間に挟むようにして、僕が先頭に立ち、高瀬が後ろを守るようにして並んで進んだ。


 道中、物音ひとつ聞こえなかった。


 たぶん、先ほどの銃声で他の参加者も警戒し、どこかに隠れて様子を窺っているか、僕らと同じように足音を立てないように移動しているのだろう。


 注意を払いながら歩みを進めるうちに、やがて小さな公園に辿り着いた。


 そこには団地の地図も掲示されており、この団地が全八棟からなること、中央に二車線の道路を挟むようにして、左右に四棟ずつが建ち並んでいることを僕たちは把握した。


 一棟は四階建てで、一フロアは十部屋ずつ。全八棟なので全部で三二〇戸からなるこの団地は、春風団地というかなり古めの団地らしかった。


「ふたりはきいたことある? この団地」


 高瀬と美月に顔を向ければ、ふたりも首を傾げつつ、


「さぁ、俺は知らないな」


「あたしも聞いたことないけど……」

 美月は口にして、

「ねぇ、ここ、団地の道の向こうって、どうなってるんだろ」


「団地の道って、この左右の住棟の間を走ってる道路のこと?」


「うん」と美月は頷いて、「このステージがどこまで続いているのか、確認したほうが良くないかなって」


「それは確かにそうかもな」

 高瀬もそれに同意する。

「この団地だけがステージの全てかどうか、わからないからな」


 もしかしたら、こないだ高瀬や零士さんと参加したジャングルと同じくらいの広さがある可能性だってあるかもしれない、そういうことだろう。


 もしそうなら、この団地の中だけを彷徨い続けたって、なんの意味もないことになるわけで。


「じゃぁ、一度、確かめに行ってみる?」


 僕らは顔を見合わせて、そして静かに頷いた。


 再び歩き始めること数分。


 なるべく遮蔽物になるものに身体を隠しながら、僕らは住棟の影から道路の先がどうなっているのか、確認できそうなところまで移動してみた。


 相変わらず辺りは静寂に包まれており、誰かが潜んでいそうな気配すら感じられなかった。


 或いは本当にこのステージは団地の外にも広がっていて、零士さんを含む他の参加者たちはすでにここにいないのかも知れない、そう思い始めた時だった。


「――待って」

 美月の腕が伸びてきて、僕の袖を強く引っ張る。


「……どうしたの?」

 立ち止まり、身を屈めて美月に問えば、


「あれ、見て」

 美月が顔を蒼褪めさせながら、道路のほうを指差した。


 見れば、そこには団地の外へと続く道路が伸びていて、けれどその道路の先には――


「あ、あれは……!」


「おいおいおい、なんだよ、アイツらは……!」

 高瀬も驚愕したように身を縮こまらせる。


 そこにはあの、病院のステージを取り囲むようにして並んで立っていた亡者たちが、前後左右にゆらゆらと揺れながら、棒立ちになっている姿が無数にあったのだった。


「なんで、アイツらが……」

 僕はすぐに逃げ出せるよう構えながら、いま一度亡者の群れを観察した。


 確かにそこにはかつてのステージで死んでいった者たちの姿があって、まるで群れのようにその道路を塞いでいた。


 前回死んでいった参加者たちの姿も多数増えており、より一層巨大な群れへと成長していように感じられた。


 しかし不思議なことに、その亡者たちは道路に立ち尽くしたままで、そこから先の、団地の中へ入ってくるような気配は全くなかった。


 まるで死者たちで作られた高い壁のように、僕らがこの団地から外へ出ることを阻んでいるかのようだった。


 ――いや、たぶん、事実そういうことなのだろう。


 もし逃げ出せば、あの亡者たちが僕らを襲い、仲間に加える……そういうことなんじゃないかと僕は予想した。


 それと同時に、あの人の不敵な笑みが脳裏をよぎり、背筋を悪寒が駆け抜けていった。


「……引き返そう。ここから先には、たぶん出られない」


「あ、あぁ、そうだな」


 答えるが早いか、早々に来た道を引き返そうと背中を向ける高瀬に続き、僕も歩みを進めようとしたところで、


「――沙彩ちゃん」

 美月が、不意に立ち上がりそう口にしたのである。


 美月は目に涙を浮かべながら、信じられないといったふうに口を両手で塞ぎ、わなわなと身体を震わせている。


「……美月?」


 僕は慌てて美月の肩を掴んだ。


 いったい急にどうしたのだろう。沙彩ちゃんとは、いったい誰のことなのか。


 瞬間、美月が反射的にこちらに顔を向け、まるで逃げるようにして足を一歩後ろに引いた。


 けれど、すぐに「――あっ」と口にして、

「……ご、ごめん。行こ、悠真くん」


「え? あぁ、うん」

 僕は頷きつつ、

「……本当に大丈夫? どうかした?」


 美月はそんな僕の問いに、静かに首を横に振ってから、

「――なんでもない」


 小さく、そう答えただけだった。

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