第4回
「す、すみません!」
僕はたまらず巫女さんに声をかける。
「さ、三人でお揃いのお守りが欲しいんですけど、なにかおススメとかありますか?」
おススメ、という言葉がこの場にそぐわない気はしたのだけれど、巫女さんは少しばかり困ったような笑みをこぼしてから、
「……そうですね。どのようなご利益をお望みかにもよりますけれど――学業ですか? それとも、厄除けなどでしょうか?」
鈴の鳴るような可愛らしい声で、授与所に並べられた色々なお守りを手のひらで小さく示してくれた。
僕はそれらをひと通り見渡して、
「……どれにする?」
決めあぐねて、ふたりに顔を向けた。
高瀬は「う~ん」と唸ってから、
「どれでも良いんじゃね?」
「おい! お前がお揃いのお守りを買おうって言いだしたんだろ!」
「いや、そりゃそうだけどさぁ……」
高瀬は首を傾げながら、
「学業は違うだろ? 恋愛も違うだろ? 家内安全も健康祈願も安産祈願も絶対違うし」
「これは? 必勝祈願」
「必勝かぁ…… 確かにゲームに勝つって点ならそうだろうけど、なんか違くね?」
「なら、厄除け?」
「厄ってなによ」
「なにって……あらゆる苦難とか?」
「もうとっくにその苦難の中にあるんだけど、俺たち」
こ、こいつは~!
僕はあーだ、こーだと文句を口にする高瀬にイライラしてくる。
「じゃぁ、どれにするんだよ。せっかく三人揃えるのに、適当に選びたくはないだろ」
「そりゃあ、そうだけどさぁ――」
なんて言い合いを続けた僕らの横で、美月がふと並べられたお守りの隅に置かれている空色の紐のようなもの――おそらくレースのブレスレットだろう――を指差して、
「これ、かわいいね」
と微笑んだ。
見れば、そのブレスレットの中心には綺麗な花の刺繍が施されており、白い五芒星のついたチェーンで手首に巻くようになっていた。
これもお守りなのだろうか?
「ありがとうございます」と巫女さんは嬉しそうにはにかんで、「そちらは当宮で手作りしております、心願成就や厄除けのお守りです」
「お? 手作りってことは、もしかして巫女さんが作ってたり?」
高瀬が目をキラキラさせながらそう口にすると、
「えぇ、そうですよ」
巫女さんは微笑みながら頷いた。
「ひとつひとつ、心を込めて編ませていただいております」
確かにそのブレスレットはひとつひとつ微妙に造りが異なっており、けれど丹精込めて作られているのが見て解るほど細かかった。
これなら僕らを護ってくれそうな、そんな力が感じられなくもない。
へぇ、と美月もそれを手に取り、
「あたし、これがいいな」
僕らににっこりと微笑んだ。
「……」
「……」
僕と高瀬は顔を見合わせ、
……どう?
……良いんじゃね?
言葉を発することなく、目でそんな会話を交わす。
「すみません。これ、三つください」
美月の言葉に、巫女さんは「はい」と頷いた。
それぞれ初穂料を収めて、ブレスレットを受け取った僕らは、
「――またご参拝ください」
巫女さんに見送られながら、早速手首に回してみる。
境内の真ん中に立って改めて手首に巻いたそれを見てみれば、何となくチームとして様になっているようで気持ちが昂ってくるのを僕は感じた。
それは高瀬も美月も一緒だった。
互いに視線を交わし、思わず輪になり三角になるように腕を伸ばす。
「――いいねぇ」
高瀬が口にして、
「なんか、チームって感じ」
美月も微笑む。
「……頑張ろう。あのゲームから抜け出せるように」
僕の言葉に、高瀬と美月は頷いた。
――ここからが正念場だ。
あの謎のアプリ――『マーダーゲーム・トライアル』がいったい誰によって、何のために作られたのかはいまだ知れない。
明確なルールは不明なままだし、にもかかわらず篠原さんはそのルールの全てを知っていると口にした。
彼女が何者なのか、本当に全てのルールを知っているのか、零士さんとどのような関係なのか、何もかも解らないままだけれど。
これからは、この三人で立ち向かっていくのだ。
そう思うだけで、何とも心強く感じるのだった。
「――さて、帰るか」
高瀬が口にして、僕らは石段に向かって足を進める。
「これからはもっと連絡を取り合わないとな」
「そうだね。情報交換、しっかりやっていかないと」
「なるべく一緒にいる時間を増やしたほうがいいかもな」
「どういうこと?」
「だって、ゲームが始まった時、近くにいた参加者も巻き込まれて一緒にそのゲームに参加する確率が高い気がしてさ」
「……そうなのか?」
言われてみれば、最初と三回目のゲームでは美月が近くにいたし、二回目では高瀬と一緒にいたときだった。
――そんなルールがあるのだろうか?
「ま、偶然かもしれないけどさ。もしそういうルールがあるなら、一緒の方がより安心できるだろ?」
「確かに、そうかも知れないね」
美月も納得したように頷いた。
そんな会話をしながら石段を並んで歩き、鳥居を通り過ぎた、その時だった。
あの甲高いファンファーレが辺りに響き渡った瞬間、僕らの周囲に四角い透明なキューブがまばゆい光を放ちながら、わらわらと現れたのである。
「――早速かよ」
高瀬は毒づくように舌打ちし、
「――悠真くん!」
美月が不安そうに眉を潜めた。
僕は光に包まれながら、
「――大丈夫」
ふたりに向かって両手を伸ばした。
こくりと頷き、高瀬が僕の右手をがっしり掴む。
美月も小さく頷いて、力強く僕の左手をしっかり掴んだ。
「――行こう」
そんなふたりに、僕は低く、口にした。




