第3回
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高瀬に案内されて向かったのは、小高い山の上に建つ神社だった。
僕らの通う大学から少しばかり離れた町外れ。
ここから先は山向こうにのびる大きな道路が続くその脇道に、なかなか歴史のありそうな鳥居とボロボロの長い階段が、鬱蒼と生い茂る木々の中に隠れるようにしてそこにはあった。
こんなところに神社があったなんて僕は知らなかったし、美月も興味深そうに鳥居の向こう側に見える長い石段の先を見上げている。
「なかなか貫禄ある神社だろ」
高瀬がなぜか自慢げに口にする。
そこまで大きな神社ではないけれど、この近辺に住む人たちには大切にされてきたのだろう。道路や石段周りにはゴミ一つ落ちていなかった。
傍らにはこの神社にまつわる謂れなどが長々と書かれた看板が設置されており、それもしっかり拭かれていて汚れという汚れも見当たらない。
――狩満神社。
或いは古くは雁満神社とも呼ばれており、主祭神は伊邪那岐神、建御名方神の二柱であることくらいしか頭に入ってこなかった。
「さぁ、行こうぜ」
なにやらニヤニヤしながら、楽しそうに高瀬は足を踏み出す。
僕もそんな高瀬の後ろを歩きながら、
「でも、なんでこんなところの神社に?」
「実はここの神社、俺たちのなかじゃ、結構有名なんだぜ!」
「俺たち? あぁ、いつも高瀬と一緒にいるアイツらか」
およそ僕のような人種とは決して交わることのなさそうな陽キャたちの集まりである。
「そうそう! 俺も正月にアイツらから教えてもらってさ。初詣に来て以来、時々参拝しに来てんだよね」
僕はどうにも金髪イケメン野郎な高瀬と歴史ありげな神社が結びつかなくて、妙な違和感を覚えながら、後ろを振り向く。
「――あれ? 美月?」
僕らについてきていると思っていた美月の姿が見当たらなくて、僕は驚きながらその姿を探して辺りを見回す。
よく見れば美月はまだ石段の下に立っており、真剣な様子であの看板をまじまじと見つめていた。
「美月! 行くよ!」
僕が声を張り上げて呼んだ途端、美月は一瞬、驚いたように僕のほうを見上げてから、
「あ、ごめんなさい!」
たったったっ、と小走りに石段を駆けあがってくる。
「どうしたの? なんか気になった?」
すると美月は、小さく首を傾げながら、
「そういうわけじゃないんだけど……」
「……けど?」
「あたし、もしかしたら、ここに来たことあるような気がして」
「へぇ、高瀬みたいに初詣とか?」
美月はそれに対して、どこか困ったような表情で、
「たぶん、違うと思う。なんて言えばいいのかな……」
少しばかり考え込むような仕草のあと、美月は苦笑するように、
「……だめ、思い出せない。もしかしたら、小さい頃に親と来てるのかも」
「おい! なに立ち止まってんだよ! 早く行くぞ!」
高瀬に急かされて、僕らは石段を再び上るのだった。
百段以上はあろうかという石段を上りきり、広い境内に辿り着いた。
境内も階段下とおなじくらいに掃除が行き届いており、拝殿まで続く石畳の上には数えられる程度の葉っぱが風に吹かれながら踊っている。
僕らはそのまま拝殿に向かい、それぞれお賽銭を投げ入れて本坪鈴を鳴らし、柏手を打つ。
からんからん、ぱんっぱんっ――
涼しい風が、石段をのぼって身体の熱くなった僕らの身体を気持ちよく冷やしてくれる。
木々の合間から聞こえてくる鳥の鳴き声が、とても可愛らしく僕の耳を癒してくれた。
しばらく僕らは三人並んで拝んでいたが、やおら高瀬は顔を上げると、
「おっし! んじゃぁ、あっち行くぞ、あっち!」
指差す方に顔を向ければ、そこには木造の小さな授与所が建っていた。
開け放たれた窓口の向こう側には、巫女らしきひとりの女性の姿が見える。
「実はさ、ここの巫女さんめっちゃきょ――」
とそこで高瀬は一瞬、美月に視線を向けて口を閉ざし、
「――可愛い巫女さんがいるんだ、これが」
わざわざそう改めて言ったのだった。
「……結局そこかよ」
僕が呆れたように口にすると、
「なんだよ、その眼は。可愛いに越したことはないだろ?」
「それは、お前――」
美月のいる手前、僕はそれにどう答えたものか逡巡してしまう。
当の美月はそんな授与所を遠目に眺めながら、
「あ、ホントだ。遠くからもわかるくらい可愛い子だね!」
以外にも興味津々な様子だった。
だろ? と高瀬は爽やかな笑みを浮かべる。
……なんだろう、なんかムカつく。
「あそこでお揃いのお守り買おうと思ってさ!」
「いいね、それ!」
「でしょでしょ?」
むむむ……!
美男美女が楽しげに会話しているのを見ていると、なんか胸がモヤモヤしてくる。
そんな僕の態度が顔に出ていたのだろうか、美月は僕の肩に手をやって、
「ほら、行こ、悠真くん!」
可愛らしい笑顔に、そんなモヤモヤも一瞬にして雲散霧消してしまう僕なのだった。
高瀬を先頭にして、僕と美月は並んで授与所に足を向けた。
椅子に座っていたらしい巫女さんが僕らに気付いてすっと立ち上がり、
「ようこそお参りくださいました」
可愛らしい微笑みを浮かべながら、そう僕らにあいさつしてくれた。
高瀬の言う通り、その巫女さんはこれまでに出会った巫女さんの中で群を抜くほど可愛らしかった。
後ろで束ねられた綺麗な黒髪の長さは、恐らく美月と同じくらいだろうか。
白衣に包まれた彼女のそれははち切れんばかりで、高瀬が何を言わんとしていたのか一瞬にして理解させてくれる。
僕は何となく恥ずかしくなり、思わずそこから視線を逸らせて、
「――どれにする?」
とふたりに顔を向ければ、
「……っ」
ごくりと唾を飲み込む高瀬ばかりではなく、
「……!」
まさかの美月までもが、羨望の眼差しで巫女さんのそれをまじまじと見つめていて。
僕はそんなふたりに軽くため息を吐き、なんともいえない気持ちになったのだった。




