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マーダーゲーム・トライアル  作者: 野村勇輔
Stage3 亡魂の病棟

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第9回

   9


 ひとしきり涙を流した美月は、やがて静かに顔を上げた。


 赤くなった目があまりにも痛々しく、彼女は鼻をすすってから、

「――ごめんね」

 かすれるような声で、視線を逸らせた。


「ううん、気にしないで。それより、もう大丈夫?」


「……うん」

 美月は小さく頷いた。


 それから僕は辺りを見回し、傍らで光を失った瞳で虚空を見つめる横尾の身体に視線を向けた。


 血に染まったその側頭部の弾痕に、胃の内容物が喉元まで込み上げてくるのを感じる。


 それを必死でこらえながら、

「……どうしたんだろう」

 眉を潜めて、もう一度辺りに視線をやった。


 美月は小さく首を傾げて、

「……なにが?」


「まだ、現実世界に戻れないから」


「たぶん、外に出ないといけないんじゃないかな」


「あっ……」


 ――そうだ。


 これまでのゲームステージでも、確かに建造物の中ではなく、外に出た瞬間に、あの場違いな音と文字が空に浮かび上がったじゃないか。


 つまり、このステージを終わらせるには、まずこの病院から外に出なければならないのだ。


 けれど――


「病院の外には、亡者たちが……」


 まさか、アイツらのいる中に出て行かなければならないのだろうか。


 殺人者を殺したことで、このゲームは終わったはずだ。


 だから、もしあの亡者たちもゲームに関わっている存在なのだとしたら、蜘蛛医者やあの女の子のように、姿を消しているかもしれないけれど……


「……屋上庭園は?」


 不意に美月が口にして、僕は小さく「あっ」と呟く。


「そうか、あそこなら――」


 僕は美月と見つめ合い、そしてどちらからともなく頷いた。


 お互いにふらつく足腰を支え合いながら、ゆっくり、ゆっくり、静かな廃病院の中を、改めて屋上庭園に向かって歩き出した。


 僕たちの手には、貼り付いたように拳銃が握られており、緊張からか、どうしても手を離すことができなくなっていた。


 人を殺した感触が、まるでこの手に残っているようだった。


 僕はただ弾丸を放っただけだというのに、僕の手には、確かに――


「……悠真くん、大丈夫?」


「――えっ」


「顔が、強張ってるよ?」


 僕は言われて、なんとかかんとか無理やりにでも笑顔を作って、

「大丈夫」


 けれど僕の声は普段よりも小さくて、震えていて、時が経つにつれて、人を殺したという現実が襲い掛かってくるようだった。


「本当に?」

 美月が、心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。


 そんな美月に、僕はけれど、それ以上何も言うことができなかった。


 ただ小さくため息を吐き、首を横に振る。


 そんな僕に、ぎゅっと身体を寄せてくる美月。


 彼女なりに、僕を元気づけてくれようとしているのが胸に刺さった。


 美月だって、辛く怖い思いをしたはずなのに、僕のことを気にかけてくれる彼女のことが、僕は愛おしくてたまらなかった。


 やがて僕らはふたたび四階の屋上庭園に出た。



 ――ぱちぱちぱちっ



 そこには篠原さんの姿があって、真っ赤な月の浮かぶ星空の下で、にっこりと笑みを浮かべながら、

「――おめでとう。ついに殺人者を仕留めたわね」

 と手を叩いていた。


 その瞬間、



 ――ドンッ! ドンッ! パーンッ!



 あの大砲の音と花火が上空に打ちあがり、「CONGRATULATIONS! Winner :Yuma Sakura」という文字が浮かび上がる。


 僕と美月はそんななか、じっと篠原さんを睨みつけた。


 緊張に手足が震える。


 何を考えているのかわからない彼女の瞳が、より僕らの疑いを増幅させた。


「どうしたの?」

 篠原さんは口元に指を当てながら、

「喜びなさいな。これであなたの願いに一歩、近づいたわけなんだから」


 まだ、あの透明な四角いブロックは現れない。


「……篠原さんは、いったい何者なんですか?」


 篠原さんは胸の前で腕を組んで、ふふっと笑みをこぼしてから、

「――何者もなにも、ゲームの参加者に決まっているじゃない」

 嘲るような目で、そう口にした。


 ――白々しい。


 僕はそんな篠原さんに、さらに訊ねた。


「このステージ、僕たち以外はみんな何らかの関係がありました」


「……そうみたいね」

 頷き、「それで?」と彼女は首を傾げる。


「……篠原さんは? あの人たちと、何か関係があったんですか?」


 すると篠原さんは、「いいえ」と首を横に振ってから、

「ないわよ、残念ながら、ね」


「でも、だとしたら――」


 僕はさらに畳みかけるように、彼女への質問を口にしようとして、


「――っ!」


 その途端、まるで僕らの会話を遮るように、周囲にあの四角いキューブが現れたのだ。


「ゆ、悠真くん!」

 美月が僕の手を、ぎゅっと強く握りしめる。


 それらは前回までのように、強い光を発しながら、あっという間に辺りを白一色に染めていく。


 まるで会話をここで終わらせるために、意図的なものを僕は感じた。


 僕はそんななか、篠原さんに一番確かめたかったことを、まくしたてるように一気に訊ねた。


「あなたはこのゲームのルールについて、いったいどれくらい知っているんですか!」


 すると篠原さんは、光に包まれながらも、はっきりと見える真っ赤な唇を弧に描いて。


「――全てよ」


 はっきりと、そう答えたのだった。

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