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マーダーゲーム・トライアル  作者: 野村勇輔
Real world2 公園

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23/47

第2回

   ***


 大学はいつもとなに一つ変わらなかった。


 普段通りに講義を受け、普段通りに食堂で三百円ランチを食べ、普段通りに帰宅した。


 講義を受けている間はとにかくその内容に集中し、教授らの言葉をひたすらノートにまとめていった。


 帰宅してからもそれらをさらに箇条書きにして頭の中に叩き込み、次の講義の準備をする。


 ひとり暮らしをしている僕にとって、それはいつものルーティンワークで、だからこそ余計にあの世界での出来事がまるで虚構だったかのような錯覚を覚えた。


 けれど、僕のバックパックに収められているあの拳銃――高瀬曰く、Glock 17というらしい――と弾の詰まった箱は間違いなくそこにあって、零士さんもまた今頃はこうして僕と同じ現実を生きているのだと思うと、なんとも不思議でならなかった。


 零士さんがこの拳銃をいったいどこで手に入れたのかもいまだ謎だったし、あの人の言う通り「拾った」なんてことは絶対にあり得ないことだけは、あの嘲笑うかのような表情から間違いないことのように思われた。


 いわゆる裏社会の人間なのか、それとも――?


 僕はそこで頭を振る。


 ――ダメだダメだ。これ以上考えたってしかたがない。


 高瀬にも言われたじゃないか。


 僕は考え過ぎだって。


 そうだ、あるがままを受け入れるんだ。


 考えても答えの出ないことなんて、考える必要なんてないのだから。


 僕はそんな思考を振り払うかのように、干したままの洗濯ものを取り込みにかかった。


 お気に入りのTシャツやジャケット、ジーンズを取り込んでいき、藤原さんが買ってくれた下着と借りた短パンに手を伸ばす。


 そう言えば、あれからまだ藤原さんに連絡を取っていないんだった。


 この短パンを返さないといけないし、零士さんから彼女に渡すように頼まれているもう一丁の拳銃――こちらはGlock 19というそうだ――のこともある。


 なにより、あの密林でのできごとや、高瀬とのことも藤原さんに聞いてほしいという感情が沸々と湧いてきた。


 僕は短パンを綺麗に畳むと、多少なりとも見栄えが良くなるように、以前母親が訊ねてきた際に取っておいた、ケーキ屋の小さいオシャレな紙袋にそれを入れた。


 それから早速スマホに手を伸ばし、LINEでメッセージを送った。


『借りた短パンを返したいんだけど、時間取れる?』


 すぐには既読が付かず、僕は待っている間に風呂に向かった。


 生活費節約のために湯船に湯は張らず、シャワーですませる。


 思えばあの密林でのゲームを汗だくで過ごしたのだから、やはりゆっくり湯船に使って疲れを癒したいとも思ったのだけれど、もしも風呂に入っているときに、またあのゲームの世界に飛ばされでもしたらと考えると、それが怖くてならなかった。


 今このまま飛ばされたら、やはり素っ裸のままゲームに参加させられることになるのだろうか。


 眠っているときは? トイレに行っているときは?


 そんなどうでもいいようで、しかし実際そうなったら大変じゃないかとなんだか心配になってくる。


 早々にシャワーを浴びて身体を拭き、服を着替えたところでほっとひと息。


 まぁ、今のところ誰からもそんな話は聞いてないから、もしかしたらそういうことは起こらないようになっているのかも知れないけれど、多少なりとも警戒しておいたほうが安全というものだろう。


 それから改めてスマホに手を伸ばせば、藤原さんからの返信が届いていた。


『大丈夫だよ。じゃぁ、明日の昼は?』


 ただそれだけのことなのに、僕はなんだか胸がドキドキする。


 これまでの人生で女の子とメッセージのやり取りをするなんてことはなかったから、正直どんなふうにやり取りをすればいいのかわからない。


 僕はできるだけ、男友達とメッセージをやり取りするときと同じような感覚で文字を入力していく。


『OK。それじゃぁ、十二時過ぎに坂下公園でどう?』


 そこなら彼女の通う大学と、僕の通う大学のちょうど中間地点になるし、お昼時間を利用して会うのにちょうどいい場所だろう。


 今度はすぐに既読が付き、『りょーかい!』と可愛らしいキャラクターのスタンプが送られてくる。


 僕もそれに対してスタンプで返し、思わずベッドに倒れ込んだ。


 どうしたわけか、顔がニヤける。


 短パンを返したうえで、さらに拳銃を彼女に渡すというある意味とんでもない役目がそこにはあるのだけれど、こうして改めて彼女の顔を思い浮かべてみれば、顔がにやけてしまってもしかたがないことだろう。


 あの一回しかまともに会っていないというのに、僕の心は彼女に囚われてしまったようだ。


 そもそも彼女を初めて目にしたとき、もろに僕好みの雰囲気の子だなと思ったのだ。


 服装も、見た目も、その声も、彼女はなにからなにまで僕の理想そのものだった。


 ……と、思う。たぶん。


 或いはこれまでまともに女性との縁がなかった僕が、彼女を極端に美化しているだけの可能性だって十分にあるのだけれど――それがどうしたって話だ。


 今は彼女も一蓮托生。同じ穴の貉。


 高瀬と同じく、命を懸けたゲームに参加する者同士。


 零士さんから渡すよう頼まれた拳銃を彼女が受け取ってくれるかどうかわからないけれど。


 なるべくなら――


 僕は、彼女も一緒に、無事にあのゲームから抜け出すことを(こいねが)うだけだった。

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