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マーダーゲーム・トライアル  作者: 野村勇輔
Stage2 密林の覇者

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第10回

   10


 高瀬に殴られた頬を擦りながら、ふたり並んで出口に向かう。


 高瀬はむっつり黙りこくったまま、しかめっ面を続けていた。


 僕はそんな高瀬になにをどう言えばいいのかわからないまま、ただその隣を歩くしかない。


 ――死にたいのか。


 その一喝に僕は閉口するばかりで、己の優柔不断さに心底嫌気が差した。


 高瀬や零士さんたちの言う通りだ。


 命がかかっている以上、必要とあれば人を殺す覚悟を決めなくてはならない。


 いつまでこのゲームが繰り返されるのかわからないが、生き続けるには、時として人の命を奪わなければならないのだ。


 あれだけ「死にたくはないけど、殺したくもない」と言っていた自分だけれど、それが如何に甘い考えであったかを昨日今日で思い知らされたような気がした。


 あの廃墟で緒方に命を狙われたとき、城の中で相葉に襲い掛かられたとき。


 零士さんや高瀬に助けてもらえなければ、今頃僕は死んでいた。


 ――命が、軽い。


 このゲームが続く限り、人の死からは逃れられない。


 死にたくなければ、殺すしかない。


 そうでなければ、ただ殺されるだけだ。


 ゲームの参加者は願いを叶えてもらうために人を殺す。


 その願いは人それぞれなのだろうが、もし僕が願うとしたら、一刻も早くこの繰り返されるゲームから抜け出すことだ。


 抜け出して、これまで通りの普通の日常を取り戻したくてしかたがなかった。


 僕は、気付けば大きなため息を吐いていた。


 そんな僕に、黙りこくっていた高瀬が口を開く。


「……さっきは殴って悪かったな」


 え、と僕は瞬きして、

「……いや、僕が悪かったんだ。殺す覚悟が足らなくて、高瀬が助けに来てくれなかったら、今頃あっさり死んでたよ。ごめん、高瀬。ありがとう」


「……佐倉は謝らなくていい。そもそも、俺がお前をこのゲームに巻き込んだんだ。本当に、ごめん」


 それこそ、今さらと言うものだろう。


 そこを謝られたところで、僕だってどう返していいかわからない。


 もはや高瀬をこれ以上責めたところでどうにもならないのは解っている。


 こうなってしまっては一蓮托生――とまではいかないけれど、少なくとも、お互いが殺人者でない限りは、同じゲームに参加するたび、協力していかなければならないだろう。


 ――それにしても、だ。


「高瀬」


「なんだ?」


「お前の願いは、いったいなんだったんだ?」


「……」


「さっき、人を殺すのは初めてじゃないっていってただろ」


「……そうだな」


「お前も零士さんと同じような願いがあるって言ってたけど」


「……あぁ」


「それ、どうしても言えないことなのか?」


「……」


「本気で僕を巻き込んだことを悪いと思っているんなら、せめて高瀬の願いだけでも教えてくれよ」


「……」


「…………」


「………………」


 少しばかり沈黙が続いたあと、高瀬は小さく息を吐いて、


「――死んだ弟を、生き返らせる」


「弟? お前の?」


 高瀬は小さく頷いて、

「……俺をこのゲームに誘ったのは、弟だったんだ。中学の友達から招待されたんだ、兄ちゃんも一緒にやろうぜってな。もちろん、俺も弟も驚いたさ。まさか、こんな殺人ゲームに巻き込まれることになるなんて思いもしなかったからな。俺と弟も、最初こそこのゲームから抜け出そうと必死だった。零士さんと出会ったのも、弟と二回目のゲームに参加したときのことさ。零士さんはあの調子で俺たちにこのゲームについて色々教えてくれて――けど、そのときに殺されたんだよ、弟が」


「ま、まさか、零士さんのせいで?」

 だから、あんなに零士さんのことを毛嫌いしていたのか?


 けれど、高瀬は首を横に振って、

「――違う。弟を殺したのは、そのときの殺人者だ。零士さんは怒り狂った俺を囮にして、その殺人者を撃ち殺したんだ。弟を殺されて我を失った俺を利用するような奴だぞ。信用できるわけないだろ」


「それは――まぁ、そうかも知れないけど」


 実際のところ、零士さんが高瀬の怒りを利用したかどうかまで僕には判らない。あの人はふざけているように見えてその実、その内面はしたたかで冷静で、そして僕たちの為に(どういうルートで手に入れたのか知らないけれど)こうして拳銃を用意してくれていた。


 零士さんがいったい何者なのか気になるところだけれど、少なくとも、僕が相葉たちを追いかける間際に見せた、あの真面目な表情を浮かべた零士さんを思い出すに、本気で高瀬を利用したとはどうしても僕には思えなかった。


 たぶん、そうすることでしか、その殺人者を殺すことができなかったのではないのか。


 高瀬は「まぁ、いいさ」といま一度かぶりを振ってから、

「それよりも、佐倉」


「なに?」


「……もしお前が殺人者になったら、俺は全力でお前を殺す」


「さ、最悪だな、お前」


 さすがに引くわ、と思っていると、高瀬は僕に顔を向けて、


「だからお前も、もし俺が殺人者になったとき、全力で俺を殺してくれ」


 その言葉に、僕は思わず眼を見張る。


「な、なに言ってんだ、お前は――」


 そんなこと急に言われたって、僕だって――!


 けれど、高瀬の眼はとても力強く、僕の眼を貫いていて。


 僕はその真剣な眼差しから逃れられなくて、ただ、こくりと頷いた。


「……わかった」


 そう、答えることしかできなかった。


 高瀬はふたたび前を向くと、

「――ごめん」

 もう一度そう口にした。


 そこから僕らは、ただ黙って出口を抜けた。


 その瞬間、高瀬がいきなり銃を構える。


「えっ――!」


 僕は思わずたじろいだ。


 慌てて銃を構えようとするも、危うくグリップを握り損ねて拳銃を取り落としそうになってしまう。


 高瀬はそんな僕に構わず、城を出て直ぐ正面を見据えたまま、立ち止まった。


 見れば、そこには死屍累々の有様で積み重なった竜人たちの死体の傍で、互いに銃と偃月刀を構えて対峙する零士さんと岡野の姿があったのだ。


 高瀬はその銃口をしっかりと岡野の頭部に向けて引き金に指を添えていたのである。


 それと同時に、


 ――ドンッ! ドンッ! パーンッ!


 あの場違いに明るいファンファーレが辺りに響き渡り、上空に「CONGRATULATIONS!  Winner :Rei Takase」という文字が浮かび上がってきたのだった。


「――なんだよ、結局殺ったのは玲ちゃんだったか」


 零士さんが、口元に笑みを浮かべながら、それでもしっかと岡野に銃口を向けたまま、そう口にした。


 岡野もそんな零士さんに偃月刀を構えたまま、ふんっと鼻で小さく笑ってから、

「――残念だ。せっかくの俺の獲物だったのに」


 そんな一触即発といった様相のふたりだったけれど、あの透明な光るブロックが僕らの周囲を包み込み始めたところで、改めて岡野が零士さんに言った。


「この続きは、またどこかで、だな」


 それに対して、零士さんもニヒルな笑みを浮かべたまま、


「……できれば、もう二度と会いたくはないね」


 その瞬間、僕らは眩い光に包み込まれて――

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