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マーダーゲーム・トライアル  作者: 野村勇輔
Stage2 密林の覇者

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第4回

   4


「――ちょっとそこで待ってな」


 密林の中を歩くこと十数分。零士さんが大きな樹のうろ穴の前で足を止めた。


 そのうろ穴に上半身をつっこみ、何やらゴソゴソと漁っている。


 いったい、こんなところで何をしているんだろう、と高瀬と顔を見合わせていると、

「ほれ、お前さんらが一緒でよかった。別々に渡す手間が省けたぜ」

 そう言って、零士さんは僕らにそれぞれ、二丁の拳銃を差し出してきた。


 僕はぎょっとしながら零士さんに顔を向ける。


「ちょ、零士さん、これって――」


「おう、さっき拾ったんだ。お前らにやるよ」


 なんとも軽い口調だけれど、本当にこんなものがほいほい辺りに転がっているだなんて到底思えなかった。


「――グロック」

 高瀬が眉をひそめながら、そんな言葉を口にする。


 僕は一瞬、その言葉に思い浮かべたのは蛙だった。


 いや、それはフロッグか。


「これ、本物か?」


 高瀬が訊ねれば、零士さんは口元をニヤリと歪め、

「必要だろ? お前たちにも、何か武器になるもんが」


「……なんのつもり?」


「俺が、いつでもお前らを守り続けることができるとは限らんからな。せめて護身用に持っておけ」


 僕と高瀬は改めて顔を見合わせる。


 ――どうする?


 口に出さずとも、互いの言いたいことはすぐに解った。


 こんなもの渡されたって、どうすればいいのかわからない。


 本当に受け取って大丈夫なのか、そこにあるのは不安だった。


 けれど、たしかに前回のこともある。


 ホームセンターで用意してきたようなただの工具類が、どこまで役に立つかも判らない。


 この先、あの程度のもので殺人者たちと対峙して、果たして対抗できるだろうか?


 ――いや、できるはずがない。


 僕より先に手を伸ばしたのは、高瀬だった。


 高瀬はその拳銃を受け取ると、

「――どこで手に入れたんだ」


「だから、拾ったっつったろ? いちいち気にすんなよ、少年」

 いや、少年っていう歳でもねぇか、と零士さんはくつくつ嗤う。


 それから僕にも拳銃のグリップを向けながら、

「ほれ、裕ちゃんも」


「え、あぁ、はい……」


 受け取ったその拳銃は、思っていたよりも軽く、思っていたよりも重かった。ペットボトルよりも少し重たいくらいだろうか。まるでプラスチックか何かのような手触りで、プラスチックよりもやや硬い印象だ。玩具の銃です、と言われても僕はきっと信じるだろう。むしろ、こいつは本当に、本物の拳銃なのだろうか?


「……弾は9ミリ、だったよな?」


 高瀬の言葉に、零士さんは頷いて、

「撃ったことは?」


「あるわけないだろ」


「ま、そりゃそうか」

 それからさらにうろ穴に身体を突っ込み、

「あと、ついでにこれもお前らにやる」


 合皮のグローブと、それからずっしりと重たい四角い箱。


「これは追加の弾な。なるべく無駄遣いすんなよ」


「五十」


「そ。あとで扱い方を教えてやる。練習に使える弾数のことも考えておきな。それから裕ちゃん」


「あ、はい」


「これを、もし美月ちゃんとまた一緒になるようなことがあったら。渡しておいてくれ」


 手渡されたのは、僕たちが貰った拳銃よりもひと回り小さな別の拳銃だった。


「ま、それまでに、あのお嬢ちゃんが無事に生き延びてられたらだけどな」


「……なんで僕に? 零士さんだって、藤原さんと一緒になる可能性もあるでしょ?」


「大丈夫大丈夫、もしそうなっても、もう一丁用意してるから」


 へらへらする零士さんだったが、そんな容易に拳銃を手に入れられるはずがない。


 拾ったってのも絶対に嘘だろうし、本当に、いったいこのおじさんは何者なのか。


「おい、佐倉。藤原さんって?」


「初めて参加したゲームで一緒になった、女の子。隣の大学の」


「隣って……あの女子大か」


「そう」


 そういえば、まだあの短パンを返していなかったっけ。


 僕は思い、そして決意する。


 絶対にこのゲームでも生き延びて、帰ったらあの短パンを藤原さんに返すんだ。


 そう思っただけで、何だか生き延びようという強い思いが増した気がした。


 それから零士さんはポケットからスマホを取り出し、

「――あと、これは俺様からの重要な情報」

 アプリの画面を僕たちに見せながら、

「今回の参加者は全員で八人。俺やお前さんらが殺人者ではないと仮定して、残り五人の中に殺人者がいるってことになるわけだが――特にこいつには注意しておけ」


 そこに表示された参加者リストの顔写真のひとりを、零士さんは指さした。


「岡野為継」


「……どんな人?」


 高瀬の問いに、零士さんはにんまり嗤い、

「サバゲのプロ。本人曰く、海外で傭兵やってたらしいぜ」


「げっ」

 僕は思わず顔をしかめる。


 ってことは、そもそもこのステージ自体がこの人の過去から創り出されたものってことになるのでは?


 そんな感じのことを、前回藤原さんから聞いたような気がするけれど。


「……注意って、具体的にはどうしたらいいんだ?」


「関わるな、それだけだ」


「あんたが人のこと言えんのかよ」


 高瀬が鼻で笑って、零士さんは「ひでぇなぁ」と苦笑しながら、

「俺は確かにお前らを利用したさ。けど、ちゃんと助けてやってんだろ? こうして身を護るためにグロックだってやったんだ。そこんとこ、忘れないでほしいねぇ」


「関わるなって、何かあったんですか?」


 訊ねれば、零士さんは眉をひそめて、

「こいつは、俺なんかよりよっぽど性質が悪いんだ。平気で他の参加者を犠牲にする。殺す、囮として使い捨てる。少なくとも、俺様はこれまで参加したゲームで一番厄介なヤツだと思ってる。だから、関わるな。こいつに出会ったら、とにかく逃げるぞ」


「でも、もしコイツがこのゲームの殺人者だったら、殺さなきゃならないんだろ?」


「さて、それはどうかねぇ。俺様は、こいつは殺人者じゃねぇと思うんだけど」


「その理由は?」


「さっきの蛇野郎ども。もし岡野が殺人者なら、あんな如何にも漫画っぽい連中なんて出てこないと俺は思うわけさ。ま、アイツが実は無類の漫画ゲームアニメ好きってんなら、解らなくもないけどな!」

 言って零士さんは、おかしそうに軽く笑った。

「まぁ、でもとりあえず、その可能性も頭に入れておこうか」


 それに対して、僕と高瀬は頷き返した。


 零士さんが再び歩き始めて、僕らもそれに続こうとしたところで、

「あぁ、そうそう」

 零士さんが、再び僕らに振り向いた。


「一個だけ守ってもらいたいこと。おじさんとの約束な」


「……なんです?」


 すると、零士さんは初めて見る真顔になって、

「――現実世界では、絶対にその拳銃、使うなよ」

 凄みのある低い声で、そう口にしたのだった。


 僕は――高瀬も――そんな零士さんの様子に思わず緊張して唾を飲み込む。


 僕らは何度も頷きながら、

「あ、当たり前だろ、そんなの!」

「つ、使いませんよ! バッグにしまって、出さないようにしときます!」


 零士さんはそんな僕らに破顔すると、

「ならヨシ!」

 と満足そうに頷いた。


 僕と高瀬は、相変わらず緊張した面持ちで顔を見合わせ、


 ――気を付けろよ、お前。

 ――お互いにな。


 先を歩き始める零士さんの後ろを、慌てて追いかけるのだった。

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